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友との決別
しおりを挟む翌日、ご機嫌なレオンと朝食を食べてから執務室へ行くと、ギルバートとラインハルトが俺を待っていた。
「おはよう。なんだ、今日は早いんだな。」
そう声をかけて執務を始めたが、いつまでも立ったままの二人を見て、ハア~と溜息が出る。
「何か言いたい事があるんだろ?
昨日の事なら俺は気にしていない。
側近を辞めたいなら俺に辞表を出すのではなく、陛下に出せば今すぐ受理されるだろう。
アネットとは、レオンの生誕祭が終わった後離縁すると陛下に話しをつけた。
こんな俺と結婚してくれたアネットには感謝している。ギルバートがこれからはアネットを幸せにしてくれるなら俺としても安心だ。
俺は婚約した時から今まで、仕事以外の会話はしてもらえなかったから普段のアネットの姿は知らないが、お前達なら良い夫婦になるだろう。
ラインハルトも辞めるなら誰か側近になれそうな者に引き継いでくれると有難い。」
話し終えた俺は二人を見つめた。
ギルバートは俯き、泣いているようだ。
ラインハルトも同じように俯いているが何かに耐えているように唇を噛んでいる。
ギルバートが落ち着くまで待っていると、
ラインハルトが話し始めた。
「俺は側近を辞めるつもりはない。
一度は離れてしまったが、もうあのような事をするつもりはない。
あの時…誰一人お前の話しをきちんと聞かずに突き放した事を悔やんでいる。
可哀想だとアーリアの事だけを気にかけてしまった…。
今のお前は何もかもを諦め、何か思い詰めているのは分かる。
それを誰にも言えなくて辛いのなら、今更だが俺達に言ってもらえないだろうか…。
ギルバートはお前との関係に悩んだアネットを支えていたんだ。
裏切った事には変わりはないが、せめてギルバートの話しを聞いてやってはもらえないだろうか?」
友を思い、力になろうと思っているのは分かる。
なら何故俺の話しは聞かなかったのか…本当に今更だ。
「俺は別にアネットを蔑ろにするつもりなど、これっぽっちも思っていなかった。
例えアネットに拒絶されても、それは自分のした事の結果だと分かっていたから仕方ないと思っていた。
アネットと子供を生し、後継を二人で慈しみながら育てるものだと思っていた。
それを壊したのはお前達だろ?
それでアネットを支えた?
俺に少しの余地も与えず最初から拒否すると決めたのはアネットの独断ではなくお前達だろ?
今更何を聞く事がある?
アネットが裏切った。
ギルバートも裏切った。
ラインハルトは俺を断罪し、ギルバートは庇うと決めた。
だから俺はアネットと離縁すると決めた。
それ以外に何がある?
俺はレオンを一人で立太子させる。
今の俺が一番に優先する事はレオンの悩みを無くす事。
5歳の子供は何も分からないと思っていたか?レオンはお前達を見ている。
自分が邪魔だと見抜いた。
レオンを悲しませたお前達の話しなど聞くつもりはない。
ギルバートは側近を外す。さすがに元王太子妃と再婚するのだから、気まずいだろう。
アネットがここを出るまでに答えを出せ。
ラインハルトも。
俺に信じられる友人はもういない、随分前からな。」
「俺は!・・・俺はお前が心配だった…何か思い詰めてるような、いつかいなくなってしまいそうなお前が心配だった!
この城にいる皆んながそう思ってる。
レオン以外に笑いかける事も、話しかける事も、出掛ける事も、俺達を誘う事もしない。
俺達をもう友人と思っていなくても、俺達はお前を友人だと思ってる!
アネットはアーリアを思い、お前を絶対許さないと決めて結婚した。
だけどお前はどんなに冷たくしても、避けても、嫌味を言っても文句一つ言わず、全て完璧に対応した。
アネットに愛情は向けないが、きちんと妻としての対応もしていた。
そんなお前に絆されないわけないだろ、アネットも俺もハルも!
アネットはお前を好きになった…。
アーリアを思って今更態度は変えられない。
でもお前とちゃんと夫婦になりたいと思うようになって、悩んで悩んで、近くにいるやつに縋っただけだ。
俺は…お前を思って泣く彼女を慰めたいと思ったんだ…。お前を裏切ろうと思ってたんじゃない…。」
そう言って泣くギルバートを冷めた目で見つめた。
言うべきではないと思っても怒りが勝ち、俺は友人に罵声を浴びせた。
「お前達は・・・本当に俺を信じられないんだな…いつでも俺は蚊帳の外だ…。
何故最初に俺に言わない?
俺とアネットの事なのに何故俺には何も教えない?
あの日のからくりも俺に言ってくれたら俺もお前達にこれからの事を相談出来た…でもお前達は一番してはいけない事をした!
お前達は、初夜にアネットとアーリアを入れ替えたな、俺にはバレないと思っていたんだろうな、きっと。
それほど俺を間抜けだと思っていたとはな!
馬鹿にするにも程がある。
だが、大事に、優しく、丁寧に、お陰様でアーリアを抱く事ができたよ!
レオンも授かった!
だがあんな形でアーリアを抱きたくなんかなかった!
・・・本当はきちんとアネットを王太子妃にしたかった!それをさせなかったのはお前達だ。俺の気持ちを踏み躙ったのはお前達だ!
俺は二度と王太子として間違った事をしたくなかったのに、それをさせたのはお前達だ!」
ギルバートは泣いていた。
ラインハルトは俯いていた。
幼い時からの幼馴染み。
いつでも一緒で、何でも話せる親友達。
今はもうただの友人だ。
「俺がキャリーを置いていたのは一欠片の恋情も愛情も友情もなかったからだ。
ただ市井の事に詳しかったから物価や街の様子、足りないもの、俺がしなくてはいけない事を知りたかったからだ。
俺は俺自身の気持ちを誰にも伝えなかった事を後悔している。
キャリーなど勝手にへばりついてるだけのものと放っておいた事を後悔している。
抱いたのは処女ではないから抱いてくれと言われて、アーリアとの本番に向けての練習と思ってやってしまった。
昔ならギルかハルに相談しただろう。
でもあの頃気付いたら相談する人間など誰一人いなかったからな。
まあ俺が悪いんだが。
あの時お前達はそんな事も聞かなかったし、もうアーリアの事しか考えていなかった。
アーリアにあんな思いをさせて、俺が苦しまなかったと思っていたんだろう?
妾を作って、猿のように腰を振っていると思っていたんだろう?
あの時こそ、お前は友人だと言って欲しかった。
これからどうするんだと話しを聞いて欲しかった。
だからもうお前達に話す事も聞く事もないんだ。
何れ俺は王位を捨てる。
だからお前達が側近を辞めても問題はない。
母上に呼ばれている。
執務は俺がやるから、今日から辞めても、明日でも来週でも構わない。
戻るまでに決めていて欲しい。」
ギルバートもラインハルトも目を瞠り、真っ青な顔をしていたが、何も言わず執務室を出て、母の元へ向かった。
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いつもお読み下さり、ありがとうございます。
ジェラルドは、ある目的の為に一人耐えている為、病みに病んでいる状態です…。それでも頑張っている途中なので、もう少し見守ってあげて下さい。
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