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花とお菓子とリジーの笑顔
しおりを挟むシリル視点
恥ずかしい作戦名だが、マリア嬢からのアドバイスを受け、花言葉を調べ、王宮の庭にある花は一本貰い、無ければ街の花屋を探し、お菓子は料理長に頼んで買収用に用意してもらうことにした。
花は花言葉の中で伝わってほしい気持ちに沿ったものを選び、リストを作った。
そのリストを庭師に渡してその花が庭園にあるか教えてもらった。
ないものは、季節がら手に入らないものを省いてもらって、花屋で売っていそうなものを教えてもらった。
あの変わった司書に事情を説明し、協力を願うと喜んで引き受けてくれた。
そうして“一輪の花に愛を込めて作戦”は始まった。
初めて花を置いた時、リジーの手に渡るのか不安になった。
司書はリジー以外の人には渡らないように手を打つと言っていたが、果たして誰からのものか分からないものをリジーは持って帰るだろうか…。
迷っていても仕方ないと花を置いて図書館を出て、急いで訓練場へ行った。
その日の訓練はなんだか集中出来なくて俺の相手をしていたケネスが「集中出来ないなら帰れ!」と何度も怒鳴られた。
ようやく訓練が終わりシャワー室へ向かう。
図書館の下を通る時、リジーは花を受け取っただろうか…今どんな顔をしているのだろうか…そんな事を考えていたら、後ろからケネスに尻を蹴られた。
「止まらないで下さい、シリル様。気になるのも分かりますが、後で花がどうなったか確認して参りますので、さっさと歩いて下さい。ブリジット様が見ていたら変に思いますよ。」と注意された。
それもそうだと平然した風に歩き図書館の前を通り過ぎた。
シャワーを浴び、支度を済ませるとケネスが図書館に向かった。
リジーはもう帰ってる時間なのでいないはずだ、ケネスを待っているとすぐに戻ってきた。
「司書が上手く言ってくれたらしく、ブリジット様に宛てたものだと分かったうえで持ち帰ったそうです。
少し困っていたようですが、枯れてしまうからと急いで帰ったのだとか。
良かったですね、先ずは成功です。」
ホッとした。
優しいリジーは花を捨てないとは思ったが、持ち帰るのかは五分五分だと思っていた。
それから毎日図書館に花を置いた。
次の日にリジーはどんな感じだったかを司書に聞くのが楽しみになった。
リジーが嬉しそうに笑っていたと聞いたから。
大事にハンカチに挟み、帰りには必ずちり紙を濡らし茎に巻くのだそうだ。
そうすると枯れないからと。
花を大事にしてくれて、窓から俺を見つけると嬉しそうにしていると聞くのが何よりの楽しみになった。
ある日兄上に呼び止められた。
「で、あれから作戦はどうなったのか報告くらいしても良いんじゃないか?」と言われ兄上の部屋に連れ込まれるとマリア嬢がいた。
2人に問い詰められ、リジーが喜んでいると言うとマリア嬢が、
「サーシャ様、そろそろ次の段階なのではなくて?」というと、
「そうだな、そろそろブリジット嬢は誰からの贈り物なのか気になり出しただろう。
そして花の意味を調べる為に花言葉の本を探す、そしたら次は花を置かずカードを置いておけ。カードに書く事はお前に任せる。
特例として今回一度だけブリジット嬢に会っても良いと父上と母上からの許可を得ている。」
「え⁉︎良いのですか⁉︎」と驚く俺に、
「お前とケネスが頑張ってる褒美だそうだ。
その代わり一度だけで、図書館からは出てはダメだ。
お前達がまだまだ頑張るのであればまた褒美があるかもな。」と笑いながら兄上は言った。
解放された俺は放心していた。
ケネスが心配して探していたらしく俺を回収すると部屋に連れて行かれた。
「急にいなくなるから探したぞ!何があった⁉︎」と捲し立てるケネスに、兄上に捕まってた事、そして俺とケネスが頑張ってるから褒美で一度だけリジーに会っても良いと父と母からの許可を貰えたと言うと、ケネスが泣いた。
「なんだよ、なんで泣いてんだよ、そんなに嬉しかったのか?でもお前は会えないぞ?」
と言うと、
「会えるわけないだろ!会いたいけど…。
俺は・・・王妃様がお前の事をちゃんと想ってくれてたんだと思って嬉しかったんだ!
俺のせいでお前と王妃様が一切関わらなくなって…どうにかしたかったから、王妃様もシリルとブリジット様との事も、俺とお前の事も気にかけてくれたんだと思ったら嬉しかったんだ…」とまた泣いた。
俺は自分とリジーの事しか頭に無かったのに、ケネスは俺の事もリジーの事も母の事も気にかけてくれてたのかと申し訳なく思った。
「ありがとな、ケネス。お前は本当に良いやつだな…口は悪いけど。」
「一言余計だけど、ありがとう…俺もお前は良いやつだと思うよ、馬鹿だけど。」
そう言って2人で笑った。
「で、カードにはなんて書くんだよ。」
そうなのだ。それが問題だ。
小さなカードに何を書いたらリジーに俺の気持ちを伝えられるだろう…
ケネスにカードを山ほど持ってきてもらい、いざ書こうとすると上手い文面が書けない。
出来た!と思い、ケネスに見せると、
「字ぃちっちゃ!きも!ビッシリ書いてあって怖っ!」と散々文句を言われた。
何度も書き直したが、ケネスがいる間は上手く書けなかった。
結局、俺が一番リジーに伝えたかった事だけ書いた。
だが、そのカードを未だ渡せてはいない。
リジーは俺からの(俺からとは知らないだろうが)花をニコニコしながら大事に抱え、窓から俺を見続ける日を送っているらしい。
花を送り続けて1ヶ月経とうかという頃、やっとリジーは気になったんだろう、花の意味を。
司書も今日は聞きに来るか、明日は来るかと待っていたのに一向にリジーは来ない事に半ば諦めていたらしい…“あ、この子多分鈍チンだ…”と。
そんなある日、リジーが花言葉の本はあるかと司書に聞いてきた。
司書は思わず言ったそうだ、気付くの遅いですよ~と。
そして調べる時間も惜しいとばかりに、今まで渡した花の全てが“愛”に関するものばかりである事をリジーに教えると、え⁉︎と驚いたのだとか。
その後、リジーは誰だと考え眉を顰めたので、すかさず、その相手はそろそろ気付いて欲しいからヒントをくれると思うと言って仕事の振りしてその場から逃げたのだそうだ。
問い詰められたら相手の名前を言ってしまいそうだから。
どういう意味だと聞きたそうにしてたリジーはその後帰ったのだそうだ。
それを次の日聞いた時、ようやく役立つ事になったカードを窓辺に置いた。
そして訓練を淡々と熟し、早めに図書館の下に立った。
ケネスには「今日は1人でシャワー室に行ってほしい」と言うと、「やっとだな、頑張れシリル!」といい笑顔で走って行った。
そして、俺は図書館の窓を見ていた。
すると窓辺にリジーが立ったのが分かった。
カードを見て、ハッとした顔をした後窓辺の外を見て俺と目が合った。
久しぶりのリジー。
正面からこんなに見つめたのは本当に久しぶりだった。
泣きそうだ…
だからリジーを見つめて口パクで言った、
「あ・い・た・い」と。
するとリジーの顔がクシャっと歪んでスッと下にしゃがんだのが分かった途端、俺は図書館まで走った。
図書館扉の前まで来て、息を整えると静かに図書館に入ると、リジーは窓辺の下にしゃがんでいた。
リジーの前まで行って俺もしゃがんで、
「1人で泣かないで、リジー。」と言って、しゃがんでいるリジーに手を回し立ち上がらせると抱きしめた。
何を言おうか色々考えてたのに、ズラズラと大した事も言えなかったが、俺の腕の中のリジーが、香水変えたのかと聞いてきた。
そう、俺は女々しくもリジーが使ってる香水に変えたのだ。
香りだけでもリジーを感じたかったから。
それを言ったら、リジーが笑った。
リジーの笑顔を見たのが久しぶり過ぎて泣きそうになった。
リジーがケネスに怒られるよなんて可愛い事を言うから、ついポロッとケネスには好きな子がいると言ってしまった。
ヤバい!と思い、適当な事を言って誤魔化し、またお茶に誘って欲しいとだけ伝えると、もっと話したかったのにすぐ様図書館を飛び出した。
帰り際司書が小さく拍手していた。
シャワー室に飛び込んで、さっきのリジーを思い出す。
ああ…俺はあの子が好きだ…俺は心からリジーを愛している。
リジーに会えた事。
リジーを慰めることが出来た事。
抱きしめても嫌がらなかった事。
笑ってくれた事。
全部が嬉しくてシャワー室で泣いていると、ケネスが失敗したのかと焦っていた。
それでも涙は止まらず、ケネスが慰め始めたので、嬉しくて泣いていたと言うと頭を思いっきり叩かれた。
俺とケネスは一番奥にライアンがいる事に気付いてなくて、俺がケネスにさっきのリジーの様子を事細かに話していた。
すると奥の方からプッと誰かが笑っているのが分かった。
すると笑いながらライアンが、
「以外とお前がブリジット嬢にベタ惚れなんだと分かった。頑張れ。」と笑いながら応援してくれた。
この後からライアンと何かと話すようになり俺とケネスとライアンは一緒にいるようになった。
“一輪の花に愛を込めて作戦”は大成功に終わった。
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