上 下
3 / 37

二人の関係を知った日

しおりを挟む


私とシリルが婚約して王子妃教育が始まった。
貴族学院に通いながらの王子妃教育は正直辛かったが、シリルの隣りに立つ為に必死に頑張った。
学院には親友のエリザことエリザベス・ガンズ侯爵令嬢もいたので、毎日忙しくとも楽しい毎日だった。
シリルもケネスも学院に通っていて、ケネスがシリルの従者だと紹介もされていた。
幼馴染みでずっと一緒に勉強も剣も学んできたのだと紹介された。
私もシリルの従者のケネスと仲良くなりたかったし、優しく穏やかなケネスが好きだった。

でも騎士科の男子生徒達が私を見てはコソコソ話す姿が増えた。
騎士科とは離れていたので気にしなかったが、食堂ですれ違った騎士科の男子が私にだけ聞こえるように、「昼休憩のサロン」とだけ言って行ってしまった。

何の事か分からずキョトンとしてしまい、エリザに、
「昼休憩のサロンって言われたんだけど、何の事?」と聞くと、エリザの顔色が変わった。
「知らないわよ!さあ昼休憩終わっちゃうわ、今日は中庭で食べましょ、リジー」
と話題を変えた。
その時はそれと言って気にならなかったが、ある日シリルに夜会の衣装の事で相談したかったので急いでお昼を食べた後、エリザに先に教室に行っててと伝えて何も考えずサロンに行った。
いつもシリルはサロンでお昼を食べながら執務をこなしていたから、そこに行けばシリルに会えると小走りになりながらサロンのドアを開けようとした時、中から微かに悲鳴が聞こえた。
ギョッとして掴んでいたドアノブを放した。

どうしようと思った時、シリルが「ケネス」と呼ぶ声と誰かの苦し気に「シリル」と何度も呼ぶ声が聞こえた。
荒い息遣いと微かに肌を打つ音。
心臓のドクンドクンと脈打つ音が私に警戒させる。
ドアを開けてはいけないと。
でも開けずにはいられなかった、だってあの時すれ違いざまに言われた“昼休憩のサロン”の意味が分かったから。

静かにドアを開けると執務机の椅子に座るシリルに跨るケネスの姿が見えた。
顔を熱らせ下から腰を打ちつけるシリルとしがみついて揺らされているケネスをボオーっと見ていた。
そんな私に気付いたのはシリル。
動きを止めたシリルにケネスもシリルの視線を辿って跨ったまま振り返った。
その時の二人の“しまった”って顔は忘れられない。
そこから私はシリルをトコトン避けた。
堪らず王妃様に相談した。
その時初めてシリルとケネスの関係を知った。
王妃様に謝られたが、分かってあげてほしいと説得された。
私に拒否権はなかった。
両親は知っていたし、兄は激怒した。
そんな奴に妹は渡さないと王宮に怒鳴りこみそうなのを両親は必死に抑えた。
私は婚約を解消して欲しいと泣きついた。
子供が出来ないなら良いじゃないかと言われても、いくら結婚は私とすると言われても“番”が私以外を抱いているあの光景は私の心を折った。

シリルは毎日我が家に押しかけては会わせてほしいと頭を下げた。
私はエリザの家に避難していたのでその姿は見ていない。
シリルを見ればあの光景が浮かんでくる。
愛おし気にケネスを呼ぶ声。
それに応えるケネスの声。
私がドアを開けても気付かないほど、のめり込んでいる二人。
何年も何年も夜通し続くほどの性交を続けてきた二人に私が入り込む隙間はなかったのだ。

だからシリルと話し合う気はなかったし、もし婚約が解消されなかったとしても、ケネスがいるのなら“白い結婚”を目指し離婚しようと決めていた。

衝撃のあの日から実に3ヶ月経っていた。
シリルとケネスの関係を知っていた学院は、私の事も同情してくれ、特別室での授業をしてくれていた。
親友のエリザも付き合ってくれたのが、なにより嬉しかった。
昼休憩も食堂には行かず、侯爵家の料理長が作ってくれたお弁当をエリザと食べ、帰りはエリザや友人達に囲まれながら馬車停まで行き誰にも会わないように帰っていた。
その頃には私の体重は10キロも減っていた。
王子妃教育は続けていたが、特別に屋敷でしていた。
そんなある日、私は精神的にも体力的にも限界だったのか教室で倒れた。
医務室に運ばれ、迎えの馬車が来るまで眠っていた私を静かに起こしたのはシリルとケネスだった。

「ヒィ…」
声にならない声を出し、ベッドの上で取れるだけの距離を取った。

「リジー・・・」
怯える私を見て顔を歪め、それ以上言葉を出す事が出来ないシリルに代わり、ケネスが静かに話しかけてきた。

「ブリジット様、体調が優れないところ申し訳ございません。
ですがどうかシリル様のお話を聞いて差し上げて頂きたいのです…。
シリル様が生涯を共にするのはブリジット様しかございません。
ブリジット様が私に消えろと言うのであれば私はすぐさまお二人の前から消えますので、どうか…どうかシリル様のお話しを聞いて差し上げて頂きたいのです…」
ベッドの脇で床に正座し、頭を下げるケネス。
そんなケネスを立たせてあげたいのをグッと堪えているシリルを見て、心底それまでの恐怖と怒りがスッと凪いだ。

ケネスを想うシリルと、シリルの為に土下座をするケネス。
私の事を思ってではなく、お互いを大事に想うからこその言葉の数々。
私を傷付けたと悲しむケネスの為に私と和解したいシリル。
どんな言葉を送られてもそんな穿った考えしか出来ない私に二人の言葉は届かなかった。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

最悪なお見合いと、執念の再会

当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。 しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。 それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。 相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。 最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

私が妻です!

ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。 王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。 侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。 そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。 世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。 5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。 ★★★なろう様では最後に閑話をいれています。 脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。 他のサイトにも投稿しています。

処理中です...