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初めてのデート
しおりを挟むシルビオに見つかってから、数日経った。
2人とも泣き過ぎて、あの夜の翌日は一日中、目に冷やしたタオルを当て続け、夜になってようやく2人とも見れる顔をなった。
そこからは、私の実家に行き、離婚はしないと2人で報告した。
お父様は、
「とりあえずは私が預かっておくから。また何があるか分からないからね!
シルビオ、分かってるよね?
次はない。」
と騎士団副団長の威圧を思いっきり浴びせられたシルビオはビビりまくっていたが、お父様の目を真っ直ぐ見て、頷いていた。
その後、お義父様達の所にも挨拶に行き、お義母様に良かったと号泣された。
エルビオにも会いに行きたかったが、私の事を思い、会いには行けなかったそうだ。
宰相のダニエル様にも挨拶に行き、
「次、ヒーナス侯爵が何かやらかしたらすぐ私に言いなさい。潰してあげますから。」
とにこやかに言われた。
最後に商会に行き、モリスに報告した。
「いっつも最後ってどういうこと⁉︎
でも良かった~兄さん、今回陰の立役者は俺だって事忘れないでよ!
兄さんの隠し撮りを義姉さんに届け続けたのは俺なんだから!」
そうなのだ、モリスの持ってきてくれる写真を見ていなかったら、私はシルビオとキャルティさんがあの屋敷で仲睦まじく暮らしていると思い込んでいただろう。
「そうね、モリスのお陰だわ。ありがとう、モリス。」
「ほら!聞いた?兄さんも感謝してよね!」
「ありがとう、モリス。お前がちょくちょく来てくれるだけで俺は嬉しかった。
エルザの事も気にかけてくれてありがとう。」
「うわ・・・面と向かって言われると…どうして良いのか分からない・・・」
その後はモリスを囲み、楽しくお喋りをして帰った。
帰りの馬車の中でシルビオが何故かモジモジしだした。
「何?トイレ?停めようか?」と聞くと、
「違うよ、トイレじゃないよ。あのエルザ、今度2人で街に行かないか?」
「街⁉︎どうして?」
「どうしてって・・・デートしようかと・・」
「デート⁉︎私と?」
「他にいないでしょ⁉︎買い物でも良い、食事でも良い、ただ歩くだけでも良い。
エルザと手を繋いで歩きたいんだ…ダメ、かな?」
「え・・・」
「学生の時も、婚約中の時も、結婚してからも、本当はしたかったから…。
エルザが俺と出歩くのが嫌なのは分かってるけど、これからはちゃんとエルザとしたい事を伝えて、エルザとだけとしたい。」
急なシルビオの告白に、驚いた後、急激に顔が熱くなる。
恥ずかしくなり、手で顔を隠す。
「え⁉︎そんなに嫌だった⁉︎」
「違う!急にそんな事言うから恥ずかしくなったの!」
「え⁉︎何⁉︎嬉しいって事⁉︎エルザ、手、どけて!顔見せて!」
と私の手を退けようとする。
手を退けたシルビオが私の顔を見て、嬉しそうに笑って、
「そんな顔…初めて見た…嬉しい…大好き!」
「分かったから、もう勘弁して!」
機嫌の良くなったシルビオは屋敷に着くまで私と何をしたいかを言い続け、明日初めてのデートをする事になった。
翌日、張り切ったメイド達に夜会並みに磨き上げられ、落ち着いたシンプルなシルビオの瞳の色のワンピースを着せられた。
髪も綺麗に結ってもらった。
シルビオがエルビオを抱っこして迎えにきた。
「エルビオ、見て!母様は世界一綺麗だね~!」
「かあ、かあ」
「だよね~母様が一番だよね~」
と会話になってるようでなってない会話をしていた。
「シルビオ、お待たせ。」
エルビオをレーネに預け、私達はデートに出かけた。
馬車の中でも私の手を握り、上機嫌なシルビオは、饒舌だ。
「ハア~こんな日が来るなんて思わなかった~!」だの、
「馬車の中で隣りに座るのなんて初めてだよね~」だの、
喋りっぱなしだったが、こんなに喜ぶほどだったのかと驚いた。
私は、とにかく学生時代はシルビオに近付かれるのが嫌だったから、避けまくっていたし、シルビオの女性関係の多さのせいで婚約中は2人で外出なんて絶対したくなかった。
邪魔してくる女性達が想像出来たから。
馬車の中でも、他の人に触りまくっている手で触られたくなかったし、隣りになんて座らせなかった。
でも、それは私がヤキモチを妬いていたからだった事を最近まで気付かなかった。
シルビオの事が好きだったから、避けていたのだ。
シルビオは私が好きだから他の女性と浮気し、
私はシルビオを好きだから避けていた。
そんなの上手くいくわけがない。
2人とも思っている事を一度も言葉にした事はないんだから。
シルビオだけが悪いのではない。
私が素直ではなかったからだ。
その事に、こうなって初めて分かったのが不甲斐ないに尽きる。
シルビオは真っ直ぐ言葉を告げるようになった。
以前のような私への愛の言葉だけじゃなく、どうしたいか、どうして欲しいかを真っ直ぐ告げてくる。
たった数日で驚くほど、質問と確認の言葉を投げかけられた。
朝食一つとってもそうだ。
「ジャムはどれが好き?マーマレード?イチゴ?ブルーベリー?俺はマーマレード!」
「スイーツは何が好き?クッキー?マドレーヌ?マカロン?俺は甘くないクッキー!」
「パンはどれが好き?クロワッサン?バターロール?俺は甘くないパンならなんでも!」
いちいち自分の好きな物も教えながら、私の好きな物を覚えようと躍起になっている姿がなんだか笑えてしまった。
街に着き、馬車を2人で降りると何故かめちゃめちゃ見られていた。
そうだった、私達は離婚したのではと噂されている街一番の大注目夫婦なのだ。
私はギョッとしたが、シルビオは上機嫌だから気になんかしない。
「さあさあ、行こう、エルザ。どこ行こうか?アクセサリーでも記念に買おう!
2人で行きたかったんだあ~!」
と私の手を引きながら歩き出した。
「でもエルザが嫌なら別の所に行こう。本屋でも図書館でも良いよ。どうする?」
「うーん、そうだな…せっかくだから2人でお揃いのアクセサリーでも買おうか。」
私がそう言った後、シルビオが急に立ち止まり、泣き出した。
「ちょ、ちょっとシルビオ!なんで泣くのよ、みんな見るからこんな所で泣かないで!」
「だって・・お揃いのものなんて・・・死ぬまでないだろうと思ってたから・・・」
「そんな大袈裟な…。分かった、分かったから泣き止んで。でないと帰るよ!」
そういうとやっと泣き止んだ。
その様子を見ていたギャラリーは、
『なんだよ、離婚なんてしてないじゃん!』
『愛人を大事にして奥様を虐げてるなんて嘘だったのね』
『あのエルザ様がシルビオ様と手を繋いでるわよ!やっぱり結婚したら変わるわよね~』
ザワザワと小声で私達の事を話しているのが聞こえたが、関係ないので2人手を繋ぎ宝石店に入った。
あーでもないこーでもないと2人でなんとか決めた物は指輪。
シルビオは石が付いた指輪にしたかったようだが、エルビオを抱っこする時に邪魔だろうと石の付いていない金のリングにした。
細かく模様が彫り込んであるシンプルなリング。裏側に名前を彫れると言われ、シルビオが大喜びして私の名前を彫ってもらうことにしたので、私もシルビオの名前を彫ってもらう事にした。
サイズがないので後日のお渡しになったが、初めてデートでの買い物としては上出来だろう。
シルビオも私も満足して店を出ると、待ち構えていたように、シルビオを女性陣が囲んだ。
「シルビオ様、お待ち致しておりました。
最近、お会いできなくて寂しかったのです。」
「シルビオ様、最近は全然来てくださらないから私、毎日泣いて暮らしておりましたのよ。」
などなど、一斉に話し出す令嬢達。
「済まないが、今は妻とデート中だ。
用がないなら退けてくれ、それに今後一切私に馴れ馴れしく寄ってくるのはやめて欲しい、迷惑だ。」
シルビオがそう言いきると、全員がエッ⁉︎という顔をして口を開けたまま固まった。
「エルザ、行こう。
次はどこに行く?喉が渇いたからお茶でも飲もうか?古い店なんだけど、とっても落ち着いてて良いお店があるんだよ。エルザも気にいると思うんだ。」
女性にあんなキツイ言い方をするシルビオを初めて見て、私も驚いて固まっていたが、シルビオに手を引かれて、ハッとした。
「うん、じゃあそのお店に行こうか。」
その時後ろから、
「そんな見た目だけの女なんてシルビオ様には似合わないわ!」
と叫んだ女性がいた。
シルビオが振り返り、
「今なんて言った?誰が言った?もう一度言ってみろ。次同じような事を言ったら奴は、俺が使える力全部使って潰してやる。
分かったら、二度と俺達の目の前に現れるな。お前達の顔は全員覚えた。さっさと消えろ。」
こんな荒々しいシルビオなんて見た事もなかった令嬢達は顔を青くし、走り去った。
「ごめん、エルザ。俺のせいで嫌な思いをさせてしまった…ごめん…」
「いやいや、大丈夫よ。ちょっと驚いたけど。でも良いの、あんな言い方したら嫌われてしまうわよ?」
「もうエルザ以外の女はいらないから、別に良い。エルザを悪く言う奴は俺が許さない。」
「なんかとっても、なんというか、カッコいいわ、シルビオ。」
「うそ⁉︎ホント⁉︎カッコよかった?また変な奴が来たらやっつけるから!」
私の手を引き、前を歩くシルビオは本当にかっこ良かった。
デート・・・楽しい、心から思った。
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