隠していない隠し部屋

jun

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やっぱり会いたい

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修道院に入って半年が経った。

修道院の毎日は、決して楽なものではないが、同じような境遇の人がたくさんいるので、孤独というわけでもない。
朝5時に起床し、掃除、洗濯を済ませてから朝食となる。
食事は質素だが、野菜が多く健康的な食事だ。
その後は、修道院に併設している孤児院での作業になる。
子供達の世話をし、雑草取りや洗濯、食事の準備、本の読み聞かせなどやる事はたくさんある。
掃除や洗濯はまだやれたが、料理などした事がない私は最初、何も出来なかった。
野菜を洗ったり、かき混ぜるくらいしか出来なかったが、今では包丁も使えるようになった。

同室のリズリーは男爵家の令嬢だったが、婚約者のいる男性と恋仲になり、不貞を働き修道院に入れられたのだとか。
私と同じようなものだ。

「キャルは子供いるんだよね?会いたくないの?」

「会いたくないと言えば嘘になるけど、今更会いには行けないわ・・・」

「でも、その相手は奥さんと離婚したんでしょ?」

「ええ、私のせいでね。」

「じゃあ、お相手が再婚してなかったら、子供の為にって一緒になってくれるんじゃない?だって子供にはやっぱり母親は必要だと思うよ。」

「でも、あの方は私の事はなんとも思っていないもの…。」

「今は、でしょ?何年かしても1人だったら分からないわよ!」

「私は…」

「まあ、まだ時間はあるし、これから考えたら良いんじゃないの?」

そう言うとリズリーは自分のベッドに入り、背中を向けた。

リズリーの言葉は悪魔の囁きのように、いつまでも私の頭に残った。

ある日、孤児院に生まれて半年程の赤ちゃんが孤児院に捨てられていたと知らせがはいった。
時折、こうして育てられない子供を孤児院に置いていく人がいるそうだ。

院長に、
「キャルティさん、リズリーさん、今、手が空いている人がいないのです。
申し訳ないのですが、赤ちゃんのお世話をお願いしてもよろしいですか?」

「私、年の離れた妹の世話をしていた事があります。やりますよ。」とリズリーが言った。

「私は世話をした事がありません…」

「では、リズリーさんが率先してお世話をしてあげて下さい。キャルティさんはそのお手伝いをお願いします。」
と言って赤ちゃんを置いていった。

「うわあ、可愛いね~男の子かな?」

「顔付きは男の子っぽいね。でも可愛い…」

「キャルの子供は男の子だったの?女の子だったの?」

「男の子だった…」

「へぇ~じゃあ同じくらいかな。」

そうか、もうこんなに大きくなってるんだ、あの子は…。

名前も知らない私の子。
たった一度だけ母乳をあげたあの子はどうしているんだろう・・・。

なんとなく胸が張ったような気がした。

「抱っこしてみたら、キャル。」

言われて抱っこしてみた。
温かくて小さくて柔らかい。
可愛い…。
ミルクの匂いがする、この子は今まで母親に母乳をたくさんもらっていたんだろう、こんなにプクプクしている。
なのに、どうして手放したんだろう…。
育てられる状況なら私なら育てる。
だってやっぱり私は育てたかったから。
王太子の子供なら無理だっただろうが、シルビオ様の子だった。
どっちの子かは誰も何も言わなかったが、子供の目はシルビオ様と同じだった。

あの時、籍を入れてもらえば良かったんだろうか。
そしたらここを出た時、シルビオ様と夫婦になれたんだろうか。
でも、あの時は自分の仕出かした事に恐れ慄き、子供を手元に置くなんて考えられなかった。修道院に入る事も決まっていた。
でも、一旦でも籍を入れておけば、母親なのだと後で会う事も出来たのではないのか。

いや、それはシルビオ様が許さない。
あの時、エルザ先輩の心からの叫びを聞いて、シルビオ様も私も王太子も何も言えなくなってしまったのだから、これ以上欲を出してはいけない。

「キャル、大丈夫?」
黙ったままの私にリズリーが声をかけて、私が赤ちゃんを抱いたままなのを思い出した。

「ごめん、考え事してた」
と言って、リズリーに赤ちゃんを渡した。

「思い出してたの?自分の子供。」

「少しね、でも、もう会う事もないもの。」

「だったら、この子を自分の子供だと思って世話したら?意外とまだオッパイ出るかもよ。」

「まさか~」

「試しに、試しに吸わせてみてよ。」

出るわけがないと思っているが、さっきから胸が張ってきたのは感じている。

一回だけ、一回だけ吸わせてみようかな・・・

ボタンを外し、胸を出して乳首を口にあてた。
すると、その子は乳首を咥え、吸い出した。
とても力強くて、少し痛いくらいだ。
どんどん胸が張ってきて、赤ちゃんがコクっと喉をならしたのが分かった。

飲んでいる。
私の母乳を飲んでいる。

片方の乳首からも母乳が出ているのが分かった。
まだ出るんだ・・

ここに来たばかりの頃、胸が張って苦しい時があった。
絞っては捨てる母乳は、子供を捨てた事を実感させた。

貴族の家庭は乳母がいる。
あの子も乳母のお乳を飲んでいるんだろう。
こんなにも私のお乳は出るのに、他人のお乳を飲んでいる我が子。

涙が出た。

何やってるんだろう、私。
何やってたんだろう、私。

知らない子にお乳をあげている自分が悲しい。
でもこの捨てられてしまった子に私のいらなくなったお乳をあげられる事が出来た。

「オッパイ出てるね、良かったね~赤ちゃん!たくさん飲んで大きくなれよ~」
と呑気なリズリーに笑ってしまったが、
こんな私のお乳を力強く吸うこの子を大事に育てようと思った。

そして、いつか、ほんの少しで良い、あの子の姿を見てみたい。

そう思った。















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