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それから
しおりを挟むエルザが出て行ってからのシルビオは人が変わったように真面目になった。
なんとか離婚届にサインはしたが、キャルティとの再婚は、エルザと離婚してから1か月は開けないと提出出来ないので、その前にラエル様とタニヤ様に報告した。
ラエル様からエルザの気持ちを聞いていたタニヤ様は何も言わなかった。
俺は両親にみっちり怒られて再教育となった。
サバーナ家からはユージン様とケイト様が来ていたようだが、俺はその場にはいなかったので内容は分からない。
随分長い時間話していた。
王太子からも連絡が来て、ラエル様、ユージン様、ダニエル様、カーク男爵、シルビオ、キャルティで何時間も篭り、話していた。
そこで決まった事は、キャルティの出産は王宮できちんと管理され秘密裡に行われる事になった。
生まれた子が王太子の子供なら、王宮預かりの後、養子に、シルビオの子供ならヒーナス家預かりになり、出産後キャルティは修道院に入る事になった。
キャルティは修道院で問題を起こす事もなく真面目に奉仕をこなせば数年で出て来れる事になったそうだ。
その後、結婚生活を送るか、離婚するかはその時改めて話し合う事になった。
シルビオとキャルティがいつ籍をいれたのかは、何故か教えてもらえなかった。
そして、キャルティとシルビオは夫婦として生活することにはなったが、以前のような仲ではなくなった2人はほとんど話す事もない。
ただ同じ屋敷にいる同居人のようだった。
寝室も別、キャルティの部屋も侯爵夫人の部屋は使わず、今まで使っていた客室のままで、静かに暮らしていた。
一度だけ、
「エルザ先輩は…元気なのでしょうか…」
と聞いてきた。
「おそらく元気だと思う」というと、
「そうですか…」と泣きそうな顔で答えていた。
シルビオは遊びに行く事もなく、ただ執務をこなし、商会へも仕事の事でしか行かなくなった。
夜会もほとんどいかない。
それが逆に噂が広がる事になった。
“ヒーナス侯爵夫妻は離婚したらしい”と。
キャルティと再婚した事は誰も知らないようだ。
屋敷の中は、エルザがいなくなってから静かになった。
エルザはいるだけで存在感があったから、嫌われていても、誰かを叱る声や高らかに笑う声がどこにいても聞こえていた。
それがどこからも聞こえない。
今、エルザは何をしているんだろう・・・
そんなエルザはヒーナス商会にいた。
ずーっと放ったまま何も教えていなかったモリスに今の状況を報告にきていた。
シルビオはモリスには何も言っていなかったので、エルザと離婚した事も知らなかった。
「ハア⁉︎離婚⁉︎」と驚いていた。
そして、離婚になった経緯を説明した。
両親、兄が知っているのだ、弟のモリスも知る権利はある。
だから、全て話した。
「嘘⁉︎王太子⁉︎」
「声がデカい!」
「あ、ごめん。もう何が何だか…。義姉さんからはあれから何の連絡もないし、兄さんもこっちにあんまり来ないし、キャルティは無断欠勤だし。
そういう事だったのか…。
誰も何にも言ってくれなかったんだけど!
俺だってヒーナス家の人間なのに!」
「ごめん、なんかバタバタしてたし、私もちょっと落ち込んでたし…。」
「だよね…こっちこそごめん、兄さんのせいなのに…。でも、良かったの?離婚して。」
「うん、これで少しはシルビオも落ち着くと思うんだよね。
これでもダメならもう知らない。」
「そっか…。
じゃあキャルティは屋敷で暮らしてるんだね、今度行ってみようかな。」
「様子見てきて教えてよ。どんな感じだったのか。モリス、家に来た事ほとんどないでしょ?遊びにおいでよ!」
「行く行く!報告に行くよ!」
意外と元気だったエルザが帰った後、早速モリスは実家のヒーナス邸に行った。
屋敷に着いて思った事は、“静か”だった。
あれ?ウチってこんなんだった?
ジョバンニが迎えてくれたが、ジョバンニもいつも以上に無表情だ。
「久しぶり、ジョバンニ。最近、兄さんはどうなの?商会にもほとんど来ないけど元気なの?」
「仕事に明け暮れています。」
「え⁉︎兄さんが⁉︎」
「はい。エルザ様が出て行かれてからは、ずっと仕事をしております。」
「マジで⁉︎あ、キャルティは?」
「客室にいらっしゃいます。」
「客室?籍入れたんでしょ?兄さんの続き部屋じゃないの?」
「お二人はほとんど一緒におられませんから。」
「え?じゃあ寝室も別なの?あんなに盛ってたのに⁉︎」
「はい。この屋敷に来てからはそういったことはございません。エルザ様もいらっしゃいましたから。」
「あーだよね、兄さんに会えるかな?忙しいから駄目かな?」
「聞いてまいります、少々お待ち下さい。」
ジョバンニが兄さんの執務室に向かってる後ろについて行った。
ドアをノックするジョバンニが、
「モリス様がいらしております。お通ししてよろしいでしょうか。」
「入れ。」と聞こえた。
え?だれ?こんな声低かった?
執務室に入ると、執務机に向かって仕事をしている兄さんがいた。
こちらを向く事もなく、ひたすら書類に目を通し、サインしていっていた。
「兄さん、忙しい所ごめん。最近、商会にも顔を出さないから心配して来てみた。」
と言えば、
「モリス、少し待っててくれ。キリのいい所まで終わらせる。」
えーーーこれ誰なの?
こんな姿見た事ないんだけど!
「うん、お茶でも飲んでるよ。ジョバンニ、悪いけどお茶貰える?」
ジョバンニもいなくなり、兄さんのペンを走らせる音しか聞こえなくなった。
ふと、書斎の方を見るとギョッとした。
書斎へのドアが開いていたから、部屋の中が見えた。そして、穴が開いているのが見えた。それもよく見れば兄さんの私室まで見える。
何これ?暴れたの?
丸見えってほどではないけど、見ようと思えば見えるよ。
そこで気が付いた。
あの部屋だ。
これ、隠し部屋を壊したんだ。
そっと兄さんを見た。
兄さん、義姉さんの事好きだったもんなぁ…。
やっと気付いたんだな…どんだけ義姉さんを傷付けてたか。
義姉さんは、兄さん達がやった事の責任を取らせたと言っていた。
兄さんには一番の罰だ。
かなり堪えたんだろう…。
ようやく顔を上げた兄さんは、俺の顔を見ると、
「エルザに会ったのか…元気、だったか?」
「俺が義姉さんに会った事、なんで分かったの?」
「モリスだけ何も知らなかった。だからエルザは説明しに行くだろうと思ったからだ。」
「まあ当たりかな。
こうなる前に一度義姉さんが商会に来た時あっただろう?
その時、兄さんとキャルティがいない時に商会に来て俺と話したいから連絡して欲しいって言われてたんだ。
それっきりでどうなったんだろうとは思ってたけど、離婚してたとは思わなかった。
あの時、義姉さんは俺に兄さんとキャルティの事探らせようとしてたんだと思う。
ジョバンニにはカメラ一台用意して欲しいって言われてたし。
どっちにしてもあの時点で兄さんの離婚は決まってたのかもね。
なんだかんだ言っても義姉さんは兄さんの事好きだったからね。」
「みんなそういうけど、俺はそれを実感した事なんかなかったんだけど…。」
「そりゃあ義姉さんは素直じゃないからね。
でも見てたら分かったよ、いつも兄さんを優しく見つめてたから。」
兄さんはそれから、何も言わなくなった。
下を向いて必死に泣くのを堪えているんだろう。
「兄さん、今日は俺泊まっていくからさ、久しぶりに飲もうよ、ジョバンニも一緒にさ。」
こんな兄さんは見たことがない、だったら弟が話し聞くしかないでしょ!
今夜は悪酔いしそうだけど、このバカな兄を慰めようと決めた。
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