100 / 123
トレルリ神民国~『普通』を体験してみよう~
『普通』って大変なのかな?
しおりを挟む
朝食後に向かったのは、冬の門から秋の門へと向かう外壁沿いにある、ちょっぴり大きめの施設だった。
この町の建物は、どれもみんな背が高くって頑丈そう。
平屋しかなかった村はモチロンのことながら、聖域にある二階建ての畜舎よりも、もっと高い建物ばかりが並んでる。今、宿泊しているお宿が八階建てで、屋根の高さが同じ位置にあるように見えるから、きっとここも八階建てなんだろう。
『斡旋所』は人気の場所なのか、道に向かって開かれた大きな扉をひっきりなしに人が出たり入ったりしている。
――あそこに入るのかぁ……
出入りする人の多さにゲンナリした気持ちになったのは、ゴチャゴチャと人がたくさんいる場所があまり好きじゃないことにここ数日で気づいたから。
なんというか、露天を開いて店の側から眺める分には問題ない。だけど、お客さん側に入るのは苦手っぽい。
要は、人混みが嫌なんだよね。きっと。
わたしの足が止まったことに気付いたにぃにが振り返る。
「フェリシア?」
戸惑った表情で顔を覗き込んできたにぃには、わたしが中に入るのをためらう理由を勘違いした。
「フェリシアのこと、お願い。中にはいったら、背の高い人に潰されちゃいそう」
頼まれたクリナムさんは、快く引き受けてわたしをサッと抱き上げる。
にぃにのお耳がへニョンとなったのは、きっと、自分がやっても人混みに埋もれることに変わりないと思ったからだろう。
「にぃに……」
違うんだよと言いたかったけど、背伸びしてわたしの頭を撫でたにぃには『分かってる』って顔をして、先に立って斡旋所の中に入っていった。
『斡旋所』の扉をくぐってすぐの場所は、広いホールになっていた。
――あ、ここってホントは住民用の施設なんだ。
というのも、ホールの中央あった大きな立て看板に『住民用窓口』と『滞在者用窓口』で左右別々の矢印があったから。住民用の窓口には■在住者専用 日雇い募集受付■・■在住者専用 臨時雇募集受付■・■在住者専用 従業員募集受付■の他に■雇用主様専用窓口■なんてものもあって、それぞれに専用の部屋があてがわれているみたい。
ソレに比べて『滞在者用』に割り当てられているのは大きめの部屋が一つだけだ。
「とりあえず先に、住民用のトコをチラッと覗こっか」
「うにゃっ!? そっち行ってもいいの??」
わざわざ『住民用』と銘打ってあるのに、住民じゃないわたし達が行ったらダメなんじゃないかと思ったけど、ピエリスさんは部屋の外から覗く程度なら大丈夫だとニヤニヤしてる。
「……なんか、ピエリスが言うと本当かどうか疑わしく聞こえるんだけど」
「グーちゃん、ひどっ!?」
「ただの事実でしょう」
わたしの気持ちを代弁するかのように、にぃにがピエリスさんに憎まれ口を叩く。ソレに反応して、ピエリスさんが泣き真似をする姿を最近良く見る。
にぃにはピエリスさんと、ずいぶん仲が良くなったなっていうのが素直な感想。
冬ごもりの前は、あんなにトゲトゲしてたのに。
あーだこーだといいつつも連れてこられた住民用のお部屋の外の通路には、募集内容が書きつけられた板が何枚もぶら下がっている。
受付してくれるお部屋の中にも似た感じの木札がかかっているから、スペースが足りないんだろう。
日雇い専用のお部屋の外には『手紙の配達 十件 銅貨 五枚』だの、『小包の配達 一件 銅貨 五枚』など、お小遣いレベルのものから『荷運び要員 一日 銅貨七枚』なんてものまで幅広い。
――なんか、どれもこれも、稼ぎとしてはイマイチだね。
この感想は、従業員募集用のお部屋の外にあるものでもあまり変わらない。
『宿の掃除係 一名 銀貨八枚/月』という求人には、昨日だけで稼いだ金額を思い浮かべて首を傾げた。
――露店で稼いだほうが、実入りがいいのでは?
実際には露店を開けない天気の日だってあるだろうし、思うように売れないことだってあるかもだけど……わたしの思う『普通』は、普通じゃないのかも。
昨日、ミルギューの乳を絞る場所を貸してくれたお宿の女将さんも『ミルギューを連れた旅人は初めてだ』って言ってたし。女将さんに、今日は露店をお休みするって話したら、朝に絞ったミルクを買いとってくれた。
本当は四頭いるけど、一頭しか見せていないので一頭分を全部。
ミルクの代金としてもらった大銅貨六枚は、お手紙を百二十軒に届けた分と同額だ。それに、誰かが一週間(十二日間)同じ値段で買ってくれたら、銀貨七枚を超えてしまう。
――ってことは、町中で『普通』に稼ぐのって、本当はすごく大変なのかも。
『普通』というのは、なかなか難解だ。
「クリナムさん……」
「うん?」
あんまり大きな声で聞かないほうがいいような気がして、抱き上げてくれているクリナムさんの耳元でコソッとささやく。
「『普通』って、どんな?」
「それは――なかなか、抽象的で難しい質問だな」
自分で聞いといてナンだけど、わたしもそう思う。
この町の建物は、どれもみんな背が高くって頑丈そう。
平屋しかなかった村はモチロンのことながら、聖域にある二階建ての畜舎よりも、もっと高い建物ばかりが並んでる。今、宿泊しているお宿が八階建てで、屋根の高さが同じ位置にあるように見えるから、きっとここも八階建てなんだろう。
『斡旋所』は人気の場所なのか、道に向かって開かれた大きな扉をひっきりなしに人が出たり入ったりしている。
――あそこに入るのかぁ……
出入りする人の多さにゲンナリした気持ちになったのは、ゴチャゴチャと人がたくさんいる場所があまり好きじゃないことにここ数日で気づいたから。
なんというか、露天を開いて店の側から眺める分には問題ない。だけど、お客さん側に入るのは苦手っぽい。
要は、人混みが嫌なんだよね。きっと。
わたしの足が止まったことに気付いたにぃにが振り返る。
「フェリシア?」
戸惑った表情で顔を覗き込んできたにぃには、わたしが中に入るのをためらう理由を勘違いした。
「フェリシアのこと、お願い。中にはいったら、背の高い人に潰されちゃいそう」
頼まれたクリナムさんは、快く引き受けてわたしをサッと抱き上げる。
にぃにのお耳がへニョンとなったのは、きっと、自分がやっても人混みに埋もれることに変わりないと思ったからだろう。
「にぃに……」
違うんだよと言いたかったけど、背伸びしてわたしの頭を撫でたにぃには『分かってる』って顔をして、先に立って斡旋所の中に入っていった。
『斡旋所』の扉をくぐってすぐの場所は、広いホールになっていた。
――あ、ここってホントは住民用の施設なんだ。
というのも、ホールの中央あった大きな立て看板に『住民用窓口』と『滞在者用窓口』で左右別々の矢印があったから。住民用の窓口には■在住者専用 日雇い募集受付■・■在住者専用 臨時雇募集受付■・■在住者専用 従業員募集受付■の他に■雇用主様専用窓口■なんてものもあって、それぞれに専用の部屋があてがわれているみたい。
ソレに比べて『滞在者用』に割り当てられているのは大きめの部屋が一つだけだ。
「とりあえず先に、住民用のトコをチラッと覗こっか」
「うにゃっ!? そっち行ってもいいの??」
わざわざ『住民用』と銘打ってあるのに、住民じゃないわたし達が行ったらダメなんじゃないかと思ったけど、ピエリスさんは部屋の外から覗く程度なら大丈夫だとニヤニヤしてる。
「……なんか、ピエリスが言うと本当かどうか疑わしく聞こえるんだけど」
「グーちゃん、ひどっ!?」
「ただの事実でしょう」
わたしの気持ちを代弁するかのように、にぃにがピエリスさんに憎まれ口を叩く。ソレに反応して、ピエリスさんが泣き真似をする姿を最近良く見る。
にぃにはピエリスさんと、ずいぶん仲が良くなったなっていうのが素直な感想。
冬ごもりの前は、あんなにトゲトゲしてたのに。
あーだこーだといいつつも連れてこられた住民用のお部屋の外の通路には、募集内容が書きつけられた板が何枚もぶら下がっている。
受付してくれるお部屋の中にも似た感じの木札がかかっているから、スペースが足りないんだろう。
日雇い専用のお部屋の外には『手紙の配達 十件 銅貨 五枚』だの、『小包の配達 一件 銅貨 五枚』など、お小遣いレベルのものから『荷運び要員 一日 銅貨七枚』なんてものまで幅広い。
――なんか、どれもこれも、稼ぎとしてはイマイチだね。
この感想は、従業員募集用のお部屋の外にあるものでもあまり変わらない。
『宿の掃除係 一名 銀貨八枚/月』という求人には、昨日だけで稼いだ金額を思い浮かべて首を傾げた。
――露店で稼いだほうが、実入りがいいのでは?
実際には露店を開けない天気の日だってあるだろうし、思うように売れないことだってあるかもだけど……わたしの思う『普通』は、普通じゃないのかも。
昨日、ミルギューの乳を絞る場所を貸してくれたお宿の女将さんも『ミルギューを連れた旅人は初めてだ』って言ってたし。女将さんに、今日は露店をお休みするって話したら、朝に絞ったミルクを買いとってくれた。
本当は四頭いるけど、一頭しか見せていないので一頭分を全部。
ミルクの代金としてもらった大銅貨六枚は、お手紙を百二十軒に届けた分と同額だ。それに、誰かが一週間(十二日間)同じ値段で買ってくれたら、銀貨七枚を超えてしまう。
――ってことは、町中で『普通』に稼ぐのって、本当はすごく大変なのかも。
『普通』というのは、なかなか難解だ。
「クリナムさん……」
「うん?」
あんまり大きな声で聞かないほうがいいような気がして、抱き上げてくれているクリナムさんの耳元でコソッとささやく。
「『普通』って、どんな?」
「それは――なかなか、抽象的で難しい質問だな」
自分で聞いといてナンだけど、わたしもそう思う。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
夜霧の騎士と聖なる銀月
羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。
※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます
※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています
美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する
くみたろう
ファンタジー
いつもと変わらない日常が一変するのをただの会社員である芽依はその身をもって知った。
世界が違った、価値観が違った、常識が違った、何もかもが違った。
意味がわからなかったが悲観はしなかった。
花嫁だと言われ、その甘い香りが人外者を狂わすと言われても、芽依の周りは優しさに包まれている。
そばに居るのは巨大な蟻で、いつも優しく格好良く守ってくれる。
奴隷となった大好きな二人は本心から芽依を愛して側にいてくれる。
麗しい領主やその周りの人外者達も、話を聞いてくれる。
周りは酷く残酷な世界だけれども、芽依はたまにセクハラをして齧りつきながら穏やかに心を育み生きていく。
それはこの美しく清廉で、残酷でいておぞましい御伽噺の世界の中でも慈しみ育む人外者達や異世界の人間が芽依を育て守ってくれる。
お互いの常識や考えを擦り合わせ歩み寄り、等価交換を基盤とした世界の中で、優しさを育てて自分の居場所作りに励む。
全ては幸せな気持ちで大好きなお酒を飲む為であり、素敵な酒のつまみを開発する日々を送るためだ。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ
夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー
八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。
田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。
でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?
どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。
だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。
そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?
プラス的 異世界の過ごし方
seo
ファンタジー
日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。
呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。
乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。
#不定期更新 #物語の進み具合のんびり
#カクヨムさんでも掲載しています
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる