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トレルリ神民国~『普通』を体験してみよう~
路銀を稼ごうっ! その7
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にぃにとクリナムさんがお買い物に出かけてしばらくすると、ふと、思い出したようにピエリスさんがわたしを見て口を開く。
「そだ、思い出したっ。フェリシアちゃんさ。小さい方のチーズなら売れそげ」
「え、いいの?」
「朝のうちなら、割とフツーに売ってた」
「うにうに、なるほど。売り物が増えるのは良いことです」
よく煮込まれたお肉の入ったおにぎりを頬張りながら、大きくうなずく。
「あ、に~さんに~さん! ちょい、みてかん? このナイフ、シンプルな分、使いやすさは抜群なんよ」
ピエリスさんの呼び込みで足を止めた猫耳族のお兄さんが、にぃにのナイフを手にとってためすがめつしてから小さく首を振る。
――お気に召さなかったっぽい。
「せっかく腕がいいんだから、もっといい素材を使えばいいのに」
「作ったヤツが聞いたら、めっちゃ喜ぶっ」
「よろしく伝えてくれ」
こう言って去っていったのは、この人が初めてじゃない。
にぃにの腕は、見る人が見れば分かるのだと誇らしい気分で口角を上げる。『また来てね』の気持ちを込めて手を振ると、照れくさそうにお兄さんのシッポが揺れた。
「なあなあ、オレも、触ってみていいかっ?」
ちょっぴりベテランぽさを醸してた猫耳兄さんがいなくなると、次に来るのは十~十三歳位までの狩人見習いっぽい男の子達。自分で良し悪しの判別をつけるのはまだ難しいから、見る目の有りそうな人が『良い』と言われたものに飛びつく子が多い――と言うのが、ピエリスさんの談。
実際に何度もそういう場面をみたものだから、信憑性があるなと納得中だ。
あーでもない、こーでもないとピエリスさん相手に話していた結果、五人の子が自分のお財布と相談してナイフを購入してくれた。にぃにが練習用と称する金属の矢尻がついていない矢も四セット売れたところをみると、客寄せって大事だと思います。
「ピエリスさん、売り込み上手だねぇ」
「そぉ?」
「うん。上手上手」
「コツを知りたいな」と、上目遣いでお願いすると、ピエリスさんは困った顔で半笑い。
「フェリシアちゃんなら、愛想振りまきゃ何でも買わせることは出来んだろ~けど、それはやりたいことと違うっしょ?」
「……ちがうね」
「愛想振りまくのも、グーちゃんに怒られそ~だし。黙って座っといたほうがいいと思う」
メチャクチャ真剣な顔で諭された。
「残念無念……」
「つ~か、フェリシアちゃんの笑顔目当てで来んのは、客層がちが過ぎっから寄せないほうがいいっしょ」
わたしの笑顔につられてくるのは、ナンパ目的か変質者。そうでなければいかがわしい商売の人だと言われると、頷かざるをえないところだ。
「あっ、買い出しのおばちゃんなら愛想よくしていいっしょ!」
ポンと手を打ち、告げられた対象に、今度はわたしが渋い顔。
――ソレは、食料品の売り込み相手ですね?
にぃにのお手伝いをしたいのに、にぃにのお客さんじゃない。明後日方向で、わたしのお客さんだ。愛想振りまくのに異論はないけど、やりたいこととはだいぶ違う。
「路銀を稼ぐのは、簡単なのになぁ……」
「フェリシアちゃんの悩みって、贅沢すぎっしょ……」
目の前を流れていく人を眺めつつ呟くと、ピエリスさんが小さな声で苦笑する。
――贅沢……そうだよね。贅沢な悩みだと思う。
村にいたときと違って、聖域と奉納スキルがあるおかげで、欲しいものは何でも手に入る。安全な寝床も、美味しいご飯も思いのままだ。
実際には奉納スキルにも制限があって、わたしが知らないものは手に入らない。神々が『与えたい』って思ったら別だけど、むしろ魔神様がくれようとするものは、聖域みたいにこの世界に存在していないものの可能性が高い。
そうやって色んな物を与えつつ、神々が望んでいるのはこの世界で様々な人と関わりつつ幸せに暮らすことだ。
案外、難易度が高いよね。
それとも、わたしがどう見ても子供にしか見えないせいで難しく感じるのかな。
「……なんか、むっかし~顔してっけど――」
「うにゅ」
「『要らない』って言われんまで、俺ら、ちゃんと守っから」
そっと、頭の上で手が跳ねて、静かに離れる。
「そうそう。チーズ売んなら、宿で乳搾りさしてもらわんと……って、この町にいつまで滞在するん?」
「ん~……せっかく色々と用意したから、しばらく、露店ごっこで遊びたい」
「りょーかい。んじゃ、宿に交渉して乳搾りする場所用意すっから」
「そこで絞った分で作れる量だけ販売すればいい?」
「ソレでヨロ」
――勝手に滞在延長を決めちゃったけど、にぃにが反対するわけがないよね。
追加の素材の買い出しに行ったくらいだし。
案の定、戻ってきたにぃにに滞在延長を告げると、勝手に決めたことにむくれていたけど反対はしなかった。
最終的なわたしの売上は、大銅貨五枚と銅貨一枚。
にぃにの売上は、銀貨一枚に大銅貨と銅貨が三枚ずつ。
――売上、メチャクチャ負けてるよっ!?
明日は少し、巻き返さねばっ……!
「そだ、思い出したっ。フェリシアちゃんさ。小さい方のチーズなら売れそげ」
「え、いいの?」
「朝のうちなら、割とフツーに売ってた」
「うにうに、なるほど。売り物が増えるのは良いことです」
よく煮込まれたお肉の入ったおにぎりを頬張りながら、大きくうなずく。
「あ、に~さんに~さん! ちょい、みてかん? このナイフ、シンプルな分、使いやすさは抜群なんよ」
ピエリスさんの呼び込みで足を止めた猫耳族のお兄さんが、にぃにのナイフを手にとってためすがめつしてから小さく首を振る。
――お気に召さなかったっぽい。
「せっかく腕がいいんだから、もっといい素材を使えばいいのに」
「作ったヤツが聞いたら、めっちゃ喜ぶっ」
「よろしく伝えてくれ」
こう言って去っていったのは、この人が初めてじゃない。
にぃにの腕は、見る人が見れば分かるのだと誇らしい気分で口角を上げる。『また来てね』の気持ちを込めて手を振ると、照れくさそうにお兄さんのシッポが揺れた。
「なあなあ、オレも、触ってみていいかっ?」
ちょっぴりベテランぽさを醸してた猫耳兄さんがいなくなると、次に来るのは十~十三歳位までの狩人見習いっぽい男の子達。自分で良し悪しの判別をつけるのはまだ難しいから、見る目の有りそうな人が『良い』と言われたものに飛びつく子が多い――と言うのが、ピエリスさんの談。
実際に何度もそういう場面をみたものだから、信憑性があるなと納得中だ。
あーでもない、こーでもないとピエリスさん相手に話していた結果、五人の子が自分のお財布と相談してナイフを購入してくれた。にぃにが練習用と称する金属の矢尻がついていない矢も四セット売れたところをみると、客寄せって大事だと思います。
「ピエリスさん、売り込み上手だねぇ」
「そぉ?」
「うん。上手上手」
「コツを知りたいな」と、上目遣いでお願いすると、ピエリスさんは困った顔で半笑い。
「フェリシアちゃんなら、愛想振りまきゃ何でも買わせることは出来んだろ~けど、それはやりたいことと違うっしょ?」
「……ちがうね」
「愛想振りまくのも、グーちゃんに怒られそ~だし。黙って座っといたほうがいいと思う」
メチャクチャ真剣な顔で諭された。
「残念無念……」
「つ~か、フェリシアちゃんの笑顔目当てで来んのは、客層がちが過ぎっから寄せないほうがいいっしょ」
わたしの笑顔につられてくるのは、ナンパ目的か変質者。そうでなければいかがわしい商売の人だと言われると、頷かざるをえないところだ。
「あっ、買い出しのおばちゃんなら愛想よくしていいっしょ!」
ポンと手を打ち、告げられた対象に、今度はわたしが渋い顔。
――ソレは、食料品の売り込み相手ですね?
にぃにのお手伝いをしたいのに、にぃにのお客さんじゃない。明後日方向で、わたしのお客さんだ。愛想振りまくのに異論はないけど、やりたいこととはだいぶ違う。
「路銀を稼ぐのは、簡単なのになぁ……」
「フェリシアちゃんの悩みって、贅沢すぎっしょ……」
目の前を流れていく人を眺めつつ呟くと、ピエリスさんが小さな声で苦笑する。
――贅沢……そうだよね。贅沢な悩みだと思う。
村にいたときと違って、聖域と奉納スキルがあるおかげで、欲しいものは何でも手に入る。安全な寝床も、美味しいご飯も思いのままだ。
実際には奉納スキルにも制限があって、わたしが知らないものは手に入らない。神々が『与えたい』って思ったら別だけど、むしろ魔神様がくれようとするものは、聖域みたいにこの世界に存在していないものの可能性が高い。
そうやって色んな物を与えつつ、神々が望んでいるのはこの世界で様々な人と関わりつつ幸せに暮らすことだ。
案外、難易度が高いよね。
それとも、わたしがどう見ても子供にしか見えないせいで難しく感じるのかな。
「……なんか、むっかし~顔してっけど――」
「うにゅ」
「『要らない』って言われんまで、俺ら、ちゃんと守っから」
そっと、頭の上で手が跳ねて、静かに離れる。
「そうそう。チーズ売んなら、宿で乳搾りさしてもらわんと……って、この町にいつまで滞在するん?」
「ん~……せっかく色々と用意したから、しばらく、露店ごっこで遊びたい」
「りょーかい。んじゃ、宿に交渉して乳搾りする場所用意すっから」
「そこで絞った分で作れる量だけ販売すればいい?」
「ソレでヨロ」
――勝手に滞在延長を決めちゃったけど、にぃにが反対するわけがないよね。
追加の素材の買い出しに行ったくらいだし。
案の定、戻ってきたにぃにに滞在延長を告げると、勝手に決めたことにむくれていたけど反対はしなかった。
最終的なわたしの売上は、大銅貨五枚と銅貨一枚。
にぃにの売上は、銀貨一枚に大銅貨と銅貨が三枚ずつ。
――売上、メチャクチャ負けてるよっ!?
明日は少し、巻き返さねばっ……!
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