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トレルリ神民国~『普通』を体験してみよう~
増えたっ!
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町への出入りを管理している大きな門をくぐり抜けて真っ先に目に飛び込んできたのは、魔神様とその眷属神だと思われる女神様の像だった。
夕闇の迫る中、あちらこちらに開いている明り取りの窓から女神像に茜色の柔らかな光が静かに照らしてる。祀られている女神様だけを見るならば静謐な空気が似合いそうな雰囲気なのに、ここは町の出入りを担う通用門だ。
残念なことに、ガラガラワイワイと騒がしい。
誰だ!
こんな騒がしい場所に神像を祀ったのは!?
当然、この国の責任者(王様?)なんだろうけど、ちょっと物言いを付けたい気分になってしまう。
ちなみに、女神像が祀られているのは門の内側にある大広間の中央部。
女神像をグルリと円を描くように騎獣や獣車のための道と、人が通るための道が敷かれている。外周が騎獣用だから広く取られていて、内周が歩行者用の通路になってるみたい。
――歩行者用の通路は、騎獣用よりも高い位置にあるんだね。
歩行者用の通路は騎獣への乗り降りが楽そうな高さにあるから、獣車で混んでるときには騎獣から降りて歩くっていう手も使えそう。
「……あ、祭壇」
歩行者用の通路をみているうちに、神像の足元にある奉納用の祭壇に行けるようになっているのを発見!
思わず呟くと、にぃには呆れた顔で歩行者用の通路に下ろしてくれる。
「毎日奉納してるのに、まだ足りないの?」
「いやいや、感謝の気持は大事っしょ」
「信心深いのは良いことだ」
ため息交じりのお小言に、ピエリスさんとクリナムさんが代わりに答えて横に立つ。どうやら、祭壇までお付き合いしてくれるっぽい。
「うにうに。感謝はいくらしてもいいものです」
なにせ、毎日美味しいご飯を食べれるのは、魔神様が色々教えてくださるおかげですからっ!
ムフフンと呟きドヤ顔で見つめると、にぃには大きなため息をつく。
「大きな町だと、ここのように中位神を祀る神殿を四方の門にすることがよくある」
「なんで?」
「加護者がいりゃあ、魔獣のたぐいは入ってコレないっしょ?」
たしかに魔獣から身を守ることだけを考えるなら、入り口に神殿を配置するのは悪くないかも。二十四時間、いつでも開けっ放しにしておける。
「悪い人は?」
「基本、素通りしてっかなぁ……」
「犯罪者を識別する魔道具はあるんだが、初めて町に入る者以外にはあまり使われていない。二回目以降は通行許可証を掲示するだけで済むから――他人の許可証を奪えば素通りすることも可能だ」
「あ、獣車の連中は、かる~く荷物の確認もあんよ」
神殿に入ってこないのは魔獣だけ。なので、実質的には犯罪者――山賊やら強盗なんかは入り放題なんだとか。犯罪者の中でも悪質な人には賞金がかかっていて手配書は出回っているそうだ。ただ、目の前で犯罪行為をしない限りは気づかぬふりをしていることも多いらしい。
「気付いたら捕まえれば良いのでは?」
「それは、あまりオススメできないな……。手配書の似顔絵も描き手によって上手い下手があるし、他人の空似ということもあるから難しいという理由もある」
「自分にそっくりな他人が、最低三人はいるんっしょ?」
「実際に会ったことはないが、いるらしいな」
――他人の空似……?
クリナムさん達のやり取りを聞いて、ジッとにぃにの顔を見る。
「にぃにのそっくりさんもいるのかな?」
「間違えて、赤の他人についていかないでよ。フェリシア」
「そんな事しないよ、わたし」
『だって、匂いは違うでしょう?』と言うのは、とりあえず黙っておいた。
祭壇の前に着くと、聖域でドルチェブーンが集めてくれたチェリントとリコントの実をカゴにいっぱいお供えしてから、みんなで一緒にお祈りを捧げる。
移動神殿のおかげでどこでもなんでも奉納はできるけど、普通の祭壇にお供えするのはなんだか少し、気分が違う。
『魔神様、新しい町についたよ』
『初めての町らしい町だね。おめでとう』
魔神様のお祝いの言葉にお礼を返し、ついでに眷属神様へのお祈りをすると、なんだかキャッキャと念話に反応する声が増えた気がした。
――気のせいってことにしておこう……
気のせいじゃなくっても、聖域にお見えになるお客様が増えるだけだろうし……
まぁ、問題ない? かも。
『まぁ……わたくしもご挨拶させていただいてよろしいかしら? こちらの国の担当ではないのですけれど、トニエ神民国で薬神をしております。どうぞ、お見知り置きくださいな』
アホなことを考えてしまったせいか、トニエ神民国の薬神様を筆頭に四柱の女神様とお知り合いになってしまったらしい。獣神様に魔道具神様と、料理神様にもう一柱の薬神様って――さては、わたしがもってるスキルの神様ですね?
あ。魔神様の眷属神ってことは、なにをどうしてもそうなるのが自然なのか。
なるほど納得。
『せっかくお見知りおきいただくのですから、形ばかりにはなりますけれど……わたくしからも加護を授けます』
でもね、コレは予想外。
トニエ神民国の薬神様だと名乗った声に釣られるように、他の女神様達も揃って『なら、私も』って――ご加護が五つも増えちゃったよ……!?
夕闇の迫る中、あちらこちらに開いている明り取りの窓から女神像に茜色の柔らかな光が静かに照らしてる。祀られている女神様だけを見るならば静謐な空気が似合いそうな雰囲気なのに、ここは町の出入りを担う通用門だ。
残念なことに、ガラガラワイワイと騒がしい。
誰だ!
こんな騒がしい場所に神像を祀ったのは!?
当然、この国の責任者(王様?)なんだろうけど、ちょっと物言いを付けたい気分になってしまう。
ちなみに、女神像が祀られているのは門の内側にある大広間の中央部。
女神像をグルリと円を描くように騎獣や獣車のための道と、人が通るための道が敷かれている。外周が騎獣用だから広く取られていて、内周が歩行者用の通路になってるみたい。
――歩行者用の通路は、騎獣用よりも高い位置にあるんだね。
歩行者用の通路は騎獣への乗り降りが楽そうな高さにあるから、獣車で混んでるときには騎獣から降りて歩くっていう手も使えそう。
「……あ、祭壇」
歩行者用の通路をみているうちに、神像の足元にある奉納用の祭壇に行けるようになっているのを発見!
思わず呟くと、にぃには呆れた顔で歩行者用の通路に下ろしてくれる。
「毎日奉納してるのに、まだ足りないの?」
「いやいや、感謝の気持は大事っしょ」
「信心深いのは良いことだ」
ため息交じりのお小言に、ピエリスさんとクリナムさんが代わりに答えて横に立つ。どうやら、祭壇までお付き合いしてくれるっぽい。
「うにうに。感謝はいくらしてもいいものです」
なにせ、毎日美味しいご飯を食べれるのは、魔神様が色々教えてくださるおかげですからっ!
ムフフンと呟きドヤ顔で見つめると、にぃには大きなため息をつく。
「大きな町だと、ここのように中位神を祀る神殿を四方の門にすることがよくある」
「なんで?」
「加護者がいりゃあ、魔獣のたぐいは入ってコレないっしょ?」
たしかに魔獣から身を守ることだけを考えるなら、入り口に神殿を配置するのは悪くないかも。二十四時間、いつでも開けっ放しにしておける。
「悪い人は?」
「基本、素通りしてっかなぁ……」
「犯罪者を識別する魔道具はあるんだが、初めて町に入る者以外にはあまり使われていない。二回目以降は通行許可証を掲示するだけで済むから――他人の許可証を奪えば素通りすることも可能だ」
「あ、獣車の連中は、かる~く荷物の確認もあんよ」
神殿に入ってこないのは魔獣だけ。なので、実質的には犯罪者――山賊やら強盗なんかは入り放題なんだとか。犯罪者の中でも悪質な人には賞金がかかっていて手配書は出回っているそうだ。ただ、目の前で犯罪行為をしない限りは気づかぬふりをしていることも多いらしい。
「気付いたら捕まえれば良いのでは?」
「それは、あまりオススメできないな……。手配書の似顔絵も描き手によって上手い下手があるし、他人の空似ということもあるから難しいという理由もある」
「自分にそっくりな他人が、最低三人はいるんっしょ?」
「実際に会ったことはないが、いるらしいな」
――他人の空似……?
クリナムさん達のやり取りを聞いて、ジッとにぃにの顔を見る。
「にぃにのそっくりさんもいるのかな?」
「間違えて、赤の他人についていかないでよ。フェリシア」
「そんな事しないよ、わたし」
『だって、匂いは違うでしょう?』と言うのは、とりあえず黙っておいた。
祭壇の前に着くと、聖域でドルチェブーンが集めてくれたチェリントとリコントの実をカゴにいっぱいお供えしてから、みんなで一緒にお祈りを捧げる。
移動神殿のおかげでどこでもなんでも奉納はできるけど、普通の祭壇にお供えするのはなんだか少し、気分が違う。
『魔神様、新しい町についたよ』
『初めての町らしい町だね。おめでとう』
魔神様のお祝いの言葉にお礼を返し、ついでに眷属神様へのお祈りをすると、なんだかキャッキャと念話に反応する声が増えた気がした。
――気のせいってことにしておこう……
気のせいじゃなくっても、聖域にお見えになるお客様が増えるだけだろうし……
まぁ、問題ない? かも。
『まぁ……わたくしもご挨拶させていただいてよろしいかしら? こちらの国の担当ではないのですけれど、トニエ神民国で薬神をしております。どうぞ、お見知り置きくださいな』
アホなことを考えてしまったせいか、トニエ神民国の薬神様を筆頭に四柱の女神様とお知り合いになってしまったらしい。獣神様に魔道具神様と、料理神様にもう一柱の薬神様って――さては、わたしがもってるスキルの神様ですね?
あ。魔神様の眷属神ってことは、なにをどうしてもそうなるのが自然なのか。
なるほど納得。
『せっかくお見知りおきいただくのですから、形ばかりにはなりますけれど……わたくしからも加護を授けます』
でもね、コレは予想外。
トニエ神民国の薬神様だと名乗った声に釣られるように、他の女神様達も揃って『なら、私も』って――ご加護が五つも増えちゃったよ……!?
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