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ブロッキ神国横断中
クリナム、決意を新たにする
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「んじゃ、あとはよろしくなっ! クリナムっ」
「ああ」
宿に着いたところでピエリスが出かけなおしていくのはいつものことだ。
「ピエリスさんはどこに行くの?」
いつもと違うのは、俺の元に二人の子供が残っていること。
不思議そうな表情でピエリスの背中と私を交互に見ながら訊ねるのは、柔らかな薄茶の髪に覆われた頭の上で大きな三角の耳をピコピョコ揺らす小柄な少女――フェリシアだ。
「いつもの情報収集だと思う」
『誰から・どうやって』という部分はあえて省いてそう告げると、フェリシアはピエリスが姿を消した通りに視線を戻して「ふ~ん?」と呟く。
「酒場で仲良くなってた兎耳族のお姉さんと仲良くしに行ったんじゃないんだ」
「フェリシア……そういうのは、見て見ぬふりをするもんだよ」
グラジオラスにひじでつつかれながら「うにゃ」と声を出したフェリシアが、彼の言葉を理解したかどうかは微妙なところだが、ピエリスが女性と仲良くしに行ったのは、困ったことに間違いではない。
十歳になったばかりの子ども達に、私がそうだと伝えたくないだけだ。
なんというか……こう、情操教育に良くない気がして。
とはいえ、彼らが生まれ育った村の環境が(私にとっては)だいぶ特殊だったのか、男女の機微に関してわからぬままに男女の営み自体は知っている雰囲気があるのだから、これは余計な気遣いなのかもしれない。
「じゃあ、クリナムさん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「寝てる間に部屋に入ってきたりしないでよ?」
この国での子供対する扱いが怪しげだから、今日の部屋は奮発して、二つの寝室と居間があるタイプのものにした。フェリシアとグラジオラスの部屋には窓もないし、隠し通路のようなものがないのもピエリスが確認しているから大丈夫だろうが……なにか不測の事態が起きたなら、二人を部屋から連れ出す必要がある――んだが……
「分かった」
そんな事態が起こらなければ、子ども達が寝ている部屋に入る必要もない。妙なことを言って不安にさせる必要もないだろう。
私の返事に満足した子ども達が部屋にはいるのを見届けてから、仕事道具をプライベートフィールドから取り出した。ピエリスは、日付が変わる前には戻る前にはもどるだろう。それまでの間、ここまでの道中で使ってしまった薬の補充をしておこう。これからの道中で、治療行為をしないと約束したとは言え、いつまた必要になるかわかったものじゃないのが薬というやつだ。
作れるときに作っておかないと、いざという時に自分が困る。
――治癒師には対処しづらい症状だからな……
薬を作りはじめてすぐに思い浮かぶのは、ブロッキ神国で流行っている熱病のこと。
この病は、体温が極度に上がったかと思うと突然下がることがあるというタチの悪いものだ。実際、解熱したところで急に熱が下がって、そのまま帰らぬ人となった者も多い。
「――子供がかかったら、まず助からないんだがな……」
正直なところ、フェリシアが助かったのは奇跡的な偶然が重なった結果なのだと思う。
病にかかったのが、加護の儀を行う時期の直前だったこと。
グラジオラスが、神殿で彼女の回復を願ったこと。
彼女がご加護を授かれたのも運がいい。しかも、ご加護を授けてくださったのが魔神様だと(思われる)いうことも。
実際のところ、フェリシアが魔神様のご加護を授かっているというのは、私とピエリスの憶測でしかないのだが――まあ、間違いないだろう。
実のところ、上位神の魔法神様のご加護でも、全属性を示す虹色の瞳の説明はつく。
ただし、フォレルーポを使役していなければという注釈がつくのだが……
瞳の色が単色で、なおかつフォレルーポを連れていたのだったら、上位神の獣神様のご加護だと考えたのだろうが、虹の瞳にSランク魔獣のコンボとなると、魔神様のご加護――むしろ、ご寵愛を賜っている以外にありえない。
フェリシアの兄のグラジオラスも、年齢の割に弓の扱いが達者だ。
武神様系の神々――弓神様もしくは狩猟神様から寵愛を賜っているだろうというのが私達の予想になる。
ただ、魔神様と違って、武神様の眷属神のご加護はそれほど珍しくない。たとえ武神様の寵児だったとしても、フェリシアほどの危険はないだろう。
彼女の加護が魔神様からのものであるなら、それこそ通りすがりにさらわれてもおかしくないのだから……
実際、グラジオラスが警戒心をむき出しにしてるのも無理もない状態だ。
フェリシア本人はまるで気づいていない様子だったが、アレは、おそらく『魅了』スキルの影響なのだと思う。
商売女の一部に身につけているものがいるというスキルだが、フェリシアが笑顔を振りまくたびに興奮状態がひどくなる男が何人もいた。まだ、どうみても幼児の域を出ない見た目のお陰で、食い意地の張ったフェリシアが喜びそうな料理を貢ぐ程度で済んでいたが――
――警戒しておかなねばならないだろうな。
薬神様から賜った神託もあるが、フェリシアとグラジオラスには窮地を救われた恩もある。
武力で守るには力不足だが、それ以外の面での助力はできるだろう。
「とはいえ、まずは信頼を得るところからか……」
少々、先が長そうだ。
「ああ」
宿に着いたところでピエリスが出かけなおしていくのはいつものことだ。
「ピエリスさんはどこに行くの?」
いつもと違うのは、俺の元に二人の子供が残っていること。
不思議そうな表情でピエリスの背中と私を交互に見ながら訊ねるのは、柔らかな薄茶の髪に覆われた頭の上で大きな三角の耳をピコピョコ揺らす小柄な少女――フェリシアだ。
「いつもの情報収集だと思う」
『誰から・どうやって』という部分はあえて省いてそう告げると、フェリシアはピエリスが姿を消した通りに視線を戻して「ふ~ん?」と呟く。
「酒場で仲良くなってた兎耳族のお姉さんと仲良くしに行ったんじゃないんだ」
「フェリシア……そういうのは、見て見ぬふりをするもんだよ」
グラジオラスにひじでつつかれながら「うにゃ」と声を出したフェリシアが、彼の言葉を理解したかどうかは微妙なところだが、ピエリスが女性と仲良くしに行ったのは、困ったことに間違いではない。
十歳になったばかりの子ども達に、私がそうだと伝えたくないだけだ。
なんというか……こう、情操教育に良くない気がして。
とはいえ、彼らが生まれ育った村の環境が(私にとっては)だいぶ特殊だったのか、男女の機微に関してわからぬままに男女の営み自体は知っている雰囲気があるのだから、これは余計な気遣いなのかもしれない。
「じゃあ、クリナムさん。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「寝てる間に部屋に入ってきたりしないでよ?」
この国での子供対する扱いが怪しげだから、今日の部屋は奮発して、二つの寝室と居間があるタイプのものにした。フェリシアとグラジオラスの部屋には窓もないし、隠し通路のようなものがないのもピエリスが確認しているから大丈夫だろうが……なにか不測の事態が起きたなら、二人を部屋から連れ出す必要がある――んだが……
「分かった」
そんな事態が起こらなければ、子ども達が寝ている部屋に入る必要もない。妙なことを言って不安にさせる必要もないだろう。
私の返事に満足した子ども達が部屋にはいるのを見届けてから、仕事道具をプライベートフィールドから取り出した。ピエリスは、日付が変わる前には戻る前にはもどるだろう。それまでの間、ここまでの道中で使ってしまった薬の補充をしておこう。これからの道中で、治療行為をしないと約束したとは言え、いつまた必要になるかわかったものじゃないのが薬というやつだ。
作れるときに作っておかないと、いざという時に自分が困る。
――治癒師には対処しづらい症状だからな……
薬を作りはじめてすぐに思い浮かぶのは、ブロッキ神国で流行っている熱病のこと。
この病は、体温が極度に上がったかと思うと突然下がることがあるというタチの悪いものだ。実際、解熱したところで急に熱が下がって、そのまま帰らぬ人となった者も多い。
「――子供がかかったら、まず助からないんだがな……」
正直なところ、フェリシアが助かったのは奇跡的な偶然が重なった結果なのだと思う。
病にかかったのが、加護の儀を行う時期の直前だったこと。
グラジオラスが、神殿で彼女の回復を願ったこと。
彼女がご加護を授かれたのも運がいい。しかも、ご加護を授けてくださったのが魔神様だと(思われる)いうことも。
実際のところ、フェリシアが魔神様のご加護を授かっているというのは、私とピエリスの憶測でしかないのだが――まあ、間違いないだろう。
実のところ、上位神の魔法神様のご加護でも、全属性を示す虹色の瞳の説明はつく。
ただし、フォレルーポを使役していなければという注釈がつくのだが……
瞳の色が単色で、なおかつフォレルーポを連れていたのだったら、上位神の獣神様のご加護だと考えたのだろうが、虹の瞳にSランク魔獣のコンボとなると、魔神様のご加護――むしろ、ご寵愛を賜っている以外にありえない。
フェリシアの兄のグラジオラスも、年齢の割に弓の扱いが達者だ。
武神様系の神々――弓神様もしくは狩猟神様から寵愛を賜っているだろうというのが私達の予想になる。
ただ、魔神様と違って、武神様の眷属神のご加護はそれほど珍しくない。たとえ武神様の寵児だったとしても、フェリシアほどの危険はないだろう。
彼女の加護が魔神様からのものであるなら、それこそ通りすがりにさらわれてもおかしくないのだから……
実際、グラジオラスが警戒心をむき出しにしてるのも無理もない状態だ。
フェリシア本人はまるで気づいていない様子だったが、アレは、おそらく『魅了』スキルの影響なのだと思う。
商売女の一部に身につけているものがいるというスキルだが、フェリシアが笑顔を振りまくたびに興奮状態がひどくなる男が何人もいた。まだ、どうみても幼児の域を出ない見た目のお陰で、食い意地の張ったフェリシアが喜びそうな料理を貢ぐ程度で済んでいたが――
――警戒しておかなねばならないだろうな。
薬神様から賜った神託もあるが、フェリシアとグラジオラスには窮地を救われた恩もある。
武力で守るには力不足だが、それ以外の面での助力はできるだろう。
「とはいえ、まずは信頼を得るところからか……」
少々、先が長そうだ。
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