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再出発
お宿に到着っ
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わたし達は寄り道しつつのんびり旅を楽しんでいたけど、クリナムさん達は効率重視でサクサク進む。時々、騎獣を休ませるために休憩はするだけで、それだってお水を飲ませて少し休ませるだけですぐ出発するものらしい。
「なんだか、忙しいね」
はじめての休憩でわたしがそう言うと、ピエリスさんは笑って答えて質問を返してきた。
「こんなん、のんびりしてる方っしょ。むしろ、今まではどうやって移動してたん?」
「ん~っ」と呟きつつ考えをまとめて、のんびり採集をしながら進んでいたことを話すと、「クリナムと気が合いそ」というお返事。どういうことかと思ったら、暖かい時期には彼もそうした旅が好きらしい。
「アイツ、薬師だかんさ。新鮮な薬草を探して夜が来ちゃったなんてことも良くあるんよ」
それができるのは暖かい季節限定なので、冬が迫ってくると暖かい国に移動する。暖かい国に着くと、またのんびりと採集をしつつ移動する――そんな生活を彼らは送っているらしい。
「まぁ、今回みたいに母国にもどることもあるけど、あちこちうろついてる方が好きなんよ」
「そういえば、母国って?」
「ここの南西の方角にあるんだけど、行ってみるぅ?」
「そこは、にぃにとご相談です」
大事なことだし、勝手に決めるのはNGだ。
大きなバッテンを作って答えると、ピエリスさんは頭の上で手を跳ねさせた。
「ま、考えとき~っ」
そのまま自分の騎竜にまたがるところを見ると、もう休憩はおしまいらしい。にぃにに手伝ってもらいつつ、フォレチェルに乗るときに「何を考えとけって?」と耳元でささやかれてお耳がビビビと激しく動く。
「耳元で、突然ささやくのは禁止ですっ!」
「で?」
耳を押さえて抗議するわたしを見下ろすにぃにの目が、冷たくすがめられたことにムッとして、わたしは口を尖らせる。一応、一緒に行動することになった相手なんだから、多少のおしゃべりは問題ないと思うんだけど……にぃにはちょっと、人見知りがすぎると思う。
「南西にある母国まで一緒に行かないかって聞かれたから、にぃにと要相談って答えたよ」
「なるほど。信用に値するか、見定めてからの話だね」
小さく頷いて、わたしの頭をポンポンポン。
「うかつにうなずかなかったのは、褒めたげる」
「にぃにが思ってるのと、たぶん、理由が違うけどね」
褒められたけど、即答しなかったのはピエリスさんが信用できるかどうかは関係ない。全く別の理由なのだ。
わたし達の生まれた国は、どうやらとても暮らしにくい場所らしい。
巫女様夫妻が気持ち悪くて、わたしはずっと二人の目の届かないところに逃げたいと思ってた。だから、村が滅んでしまったのは、逃げきるために良いチャンスで――国の外に出ることを決めたのだって、どうせならもっと遠くに逃げたらもっと安心だと思っただけ。
まさか、加護者に対して、国そのものが巫女様と同じ方針だなんて思いもしなかった。
「わたし、この国からは遠くに行きたいけど、行った先が同じような場所じゃ意味ないでしょう?」
「まぁ、そうだね」
「なので、ピエリスさん達以外からもお話を聞いてから決めるべきだと思ったの」
「そっか」
納得したように耳元で囁いたにぃにが、お耳の根本を指先で優しくカリコリくすぐる。
――あっ、コレはダメッ!
気持ちよくって、トロンとなっちゃうっ!
「フェリシアがのびのびと幸せになれる場所を探そうね」
「ふにゃぁ……」
「それに、同時進行で互いのツガイも探さないとだ」
「うにうに。見極めよろ~」
願わくば、情報神様みたいな人だと嬉しいんだけど……あんな人が果たして存在するものだろうか?
ぎゅうっとされて、背中をポンポンされると、とっても気持ちが落ち着くの。
まぁ、情報神様が欲しいんじゃなく、『みたいな人』がいいなってだけだから、こう――包容力があって、一途に愛してくれる人がいいのかも。
なんにせよにぃには、頑張ってわたしのお相手を探してくれるはずだ。あちこちから嫁に乞われる姉妹がいると、甲斐性がある男だと認められてとってもモテるのだ。
ただ、頑張りすぎると、自分の姉妹以上に魅力的な異性を見つけられなくて泣く羽目にもなるらしい。にぃにには、ほどほどに頑張って欲しいと思います。
ピエリスさん達と出くわしたのがお昼すぎだったから、結局、休憩は一回だけで本日のお宿とやらに到着した。
小神殿付きの宿場と聞いていたから、村落があるんだと思ってたんだけど――
「……これもきっと、ツリーハウスだね」
「うん……たぶん、そう」
聖域の我が家に負けず劣らずぶっとい木の枝にあるのは、大きな木の実のようにも見える、小さなお家だ。幹にはぐる~っと、階段がついていて、ソレを上って中に入れるようになってるみたい。
「こ~ゆ~の見るの、初めてっしょ?」
「創世神殿から遠ざかると、植物の成長速度が早すぎて家を維持できないから、国同士をつなぐ道沿いの宿場はこうやって樹上に作ることが多い」
「宿の代金は、地上に近いところのほうが高くて、上に上がるほど安くなるんよ」
「ほみゅほみゅ」
どうやら、上に登るのが大変なのと、建物が古くなるのの相乗効果で宿泊料が安くなるってことらしい。
ちなみに、宿の経営者の住居と宿泊者用の受付&食事処は地上にある普通の建物だ。
「今の時間だと、下の方は空いてないかもなぁ……」
悪い予感というのは当たるもので、空いてたお部屋は上の方。
「小さい子がいるのにすまないね。このところ、お客が多くてなぁ……」
宿主さんはしきりに謝罪を口にしていたけれど、空いているのは一番上の方らしい。
「なんだか、忙しいね」
はじめての休憩でわたしがそう言うと、ピエリスさんは笑って答えて質問を返してきた。
「こんなん、のんびりしてる方っしょ。むしろ、今まではどうやって移動してたん?」
「ん~っ」と呟きつつ考えをまとめて、のんびり採集をしながら進んでいたことを話すと、「クリナムと気が合いそ」というお返事。どういうことかと思ったら、暖かい時期には彼もそうした旅が好きらしい。
「アイツ、薬師だかんさ。新鮮な薬草を探して夜が来ちゃったなんてことも良くあるんよ」
それができるのは暖かい季節限定なので、冬が迫ってくると暖かい国に移動する。暖かい国に着くと、またのんびりと採集をしつつ移動する――そんな生活を彼らは送っているらしい。
「まぁ、今回みたいに母国にもどることもあるけど、あちこちうろついてる方が好きなんよ」
「そういえば、母国って?」
「ここの南西の方角にあるんだけど、行ってみるぅ?」
「そこは、にぃにとご相談です」
大事なことだし、勝手に決めるのはNGだ。
大きなバッテンを作って答えると、ピエリスさんは頭の上で手を跳ねさせた。
「ま、考えとき~っ」
そのまま自分の騎竜にまたがるところを見ると、もう休憩はおしまいらしい。にぃにに手伝ってもらいつつ、フォレチェルに乗るときに「何を考えとけって?」と耳元でささやかれてお耳がビビビと激しく動く。
「耳元で、突然ささやくのは禁止ですっ!」
「で?」
耳を押さえて抗議するわたしを見下ろすにぃにの目が、冷たくすがめられたことにムッとして、わたしは口を尖らせる。一応、一緒に行動することになった相手なんだから、多少のおしゃべりは問題ないと思うんだけど……にぃにはちょっと、人見知りがすぎると思う。
「南西にある母国まで一緒に行かないかって聞かれたから、にぃにと要相談って答えたよ」
「なるほど。信用に値するか、見定めてからの話だね」
小さく頷いて、わたしの頭をポンポンポン。
「うかつにうなずかなかったのは、褒めたげる」
「にぃにが思ってるのと、たぶん、理由が違うけどね」
褒められたけど、即答しなかったのはピエリスさんが信用できるかどうかは関係ない。全く別の理由なのだ。
わたし達の生まれた国は、どうやらとても暮らしにくい場所らしい。
巫女様夫妻が気持ち悪くて、わたしはずっと二人の目の届かないところに逃げたいと思ってた。だから、村が滅んでしまったのは、逃げきるために良いチャンスで――国の外に出ることを決めたのだって、どうせならもっと遠くに逃げたらもっと安心だと思っただけ。
まさか、加護者に対して、国そのものが巫女様と同じ方針だなんて思いもしなかった。
「わたし、この国からは遠くに行きたいけど、行った先が同じような場所じゃ意味ないでしょう?」
「まぁ、そうだね」
「なので、ピエリスさん達以外からもお話を聞いてから決めるべきだと思ったの」
「そっか」
納得したように耳元で囁いたにぃにが、お耳の根本を指先で優しくカリコリくすぐる。
――あっ、コレはダメッ!
気持ちよくって、トロンとなっちゃうっ!
「フェリシアがのびのびと幸せになれる場所を探そうね」
「ふにゃぁ……」
「それに、同時進行で互いのツガイも探さないとだ」
「うにうに。見極めよろ~」
願わくば、情報神様みたいな人だと嬉しいんだけど……あんな人が果たして存在するものだろうか?
ぎゅうっとされて、背中をポンポンされると、とっても気持ちが落ち着くの。
まぁ、情報神様が欲しいんじゃなく、『みたいな人』がいいなってだけだから、こう――包容力があって、一途に愛してくれる人がいいのかも。
なんにせよにぃには、頑張ってわたしのお相手を探してくれるはずだ。あちこちから嫁に乞われる姉妹がいると、甲斐性がある男だと認められてとってもモテるのだ。
ただ、頑張りすぎると、自分の姉妹以上に魅力的な異性を見つけられなくて泣く羽目にもなるらしい。にぃにには、ほどほどに頑張って欲しいと思います。
ピエリスさん達と出くわしたのがお昼すぎだったから、結局、休憩は一回だけで本日のお宿とやらに到着した。
小神殿付きの宿場と聞いていたから、村落があるんだと思ってたんだけど――
「……これもきっと、ツリーハウスだね」
「うん……たぶん、そう」
聖域の我が家に負けず劣らずぶっとい木の枝にあるのは、大きな木の実のようにも見える、小さなお家だ。幹にはぐる~っと、階段がついていて、ソレを上って中に入れるようになってるみたい。
「こ~ゆ~の見るの、初めてっしょ?」
「創世神殿から遠ざかると、植物の成長速度が早すぎて家を維持できないから、国同士をつなぐ道沿いの宿場はこうやって樹上に作ることが多い」
「宿の代金は、地上に近いところのほうが高くて、上に上がるほど安くなるんよ」
「ほみゅほみゅ」
どうやら、上に登るのが大変なのと、建物が古くなるのの相乗効果で宿泊料が安くなるってことらしい。
ちなみに、宿の経営者の住居と宿泊者用の受付&食事処は地上にある普通の建物だ。
「今の時間だと、下の方は空いてないかもなぁ……」
悪い予感というのは当たるもので、空いてたお部屋は上の方。
「小さい子がいるのにすまないね。このところ、お客が多くてなぁ……」
宿主さんはしきりに謝罪を口にしていたけれど、空いているのは一番上の方らしい。
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