上 下
61 / 123
再出発

お宿に到着っ

しおりを挟む
 わたし達は寄り道しつつのんびり旅を楽しんでいたけど、クリナムさん達は効率重視でサクサク進む。時々、騎獣を休ませるために休憩はするだけで、それだってお水を飲ませて少し休ませるだけですぐ出発するものらしい。


「なんだか、忙しいね」


 はじめての休憩でわたしがそう言うと、ピエリスさんは笑って答えて質問を返してきた。


「こんなん、のんびりしてる方っしょ。むしろ、今まではどうやって移動してたん?」


 「ん~っ」と呟きつつ考えをまとめて、のんびり採集をしながら進んでいたことを話すと、「クリナムと気が合いそ」というお返事。どういうことかと思ったら、暖かい時期には彼もそうした旅が好きらしい。


「アイツ、薬師だかんさ。新鮮な薬草を探して夜が来ちゃったなんてことも良くあるんよ」


 それができるのは暖かい季節限定なので、冬が迫ってくると暖かい国に移動する。暖かい国に着くと、またのんびりと採集をしつつ移動する――そんな生活を彼らは送っているらしい。


「まぁ、今回みたいに母国にもどることもあるけど、あちこちうろついてる方が好きなんよ」

「そういえば、母国って?」

「ここの南西の方角にあるんだけど、行ってみるぅ?」

「そこは、にぃに・・・とご相談です」


 大事なことだし、勝手に決めるのはNGだ。
大きなバッテンを作って答えると、ピエリスさんは頭の上で手を跳ねさせた。


「ま、考えとき~っ」


 そのまま自分の騎竜にまたがるところを見ると、もう休憩はおしまいらしい。にぃに・・・に手伝ってもらいつつ、フォレチェルに乗るときに「何を考えとけって?」と耳元でささやかれてお耳がビビビと激しく動く。


「耳元で、突然ささやくのは禁止ですっ!」

「で?」


 耳を押さえて抗議するわたしを見下ろすにぃに・・・の目が、冷たくすがめられたことにムッとして、わたしは口を尖らせる。一応、一緒に行動することになった相手なんだから、多少のおしゃべりは問題ないと思うんだけど……にぃに・・・はちょっと、人見知りがすぎると思う。


「南西にある母国まで一緒に行かないかって聞かれたから、にぃに・・・と要相談って答えたよ」

「なるほど。信用に値するか、見定めてからの話だね」


 小さく頷いて、わたしの頭をポンポンポン。


「うかつにうなずかなかったのは、褒めたげる」

にぃに・・・が思ってるのと、たぶん、理由が違うけどね」


 褒められたけど、即答しなかったのはピエリスさんが信用できるかどうかは関係ない。全く別の理由なのだ。
わたし達の生まれた国は、どうやらとても暮らしにくい場所らしい。
巫女様夫妻が気持ち悪くて、わたしはずっと二人の目の届かないところに逃げたいと思ってた。だから、村が滅んでしまったのは、逃げきるために良いチャンスで――国の外に出ることを決めたのだって、どうせならもっと遠くに逃げたらもっと安心だと思っただけ。
まさか、加護者に対して、国そのものが巫女様と同じ方針だなんて思いもしなかった。


「わたし、この国からは遠くに行きたいけど、行った先が同じような場所じゃ意味ないでしょう?」

「まぁ、そうだね」

「なので、ピエリスさん達以外からもお話を聞いてから決めるべきだと思ったの」

「そっか」


 納得したように耳元で囁いたにぃに・・・が、お耳の根本を指先で優しくカリコリくすぐる。

――あっ、コレはダメッ!
  気持ちよくって、トロンとなっちゃうっ!


「フェリシアがのびのびと幸せになれる場所を探そうね」

「ふにゃぁ……」

「それに、同時進行で互いのツガイも探さないとだ」

「うにうに。見極めよろ~」


 願わくば、情報神様みたいな人だと嬉しいんだけど……あんな人が果たして存在するものだろうか?
ぎゅうっとされて、背中をポンポンされると、とっても気持ちが落ち着くの。
まぁ、情報神様が欲しいんじゃなく、『みたいな人』がいいなってだけだから、こう――包容力があって、一途に愛してくれる人がいいのかも。
 なんにせよにぃに・・・は、頑張ってわたしのお相手を探してくれるはずだ。あちこちから嫁に乞われる姉妹がいると、甲斐性がある男だと認められてとってもモテるのだ。
 ただ、頑張りすぎると、自分の姉妹以上に魅力的な異性を見つけられなくて泣く羽目にもなるらしい。にぃに・・・には、ほどほどに頑張って欲しいと思います。


 ピエリスさん達と出くわしたのがお昼すぎだったから、結局、休憩は一回だけで本日のお宿とやらに到着した。
小神殿付きの宿場と聞いていたから、村落があるんだと思ってたんだけど――


「……これもきっと、ツリーハウスだね」

「うん……たぶん、そう」


 聖域の我が家に負けず劣らずぶっとい木の枝にあるのは、大きな木の実のようにも見える、小さなお家だ。幹にはぐる~っと、階段がついていて、ソレを上って中に入れるようになってるみたい。


「こ~ゆ~の見るの、初めてっしょ?」

「創世神殿から遠ざかると、植物の成長速度が早すぎて家を維持できないから、国同士をつなぐ道沿いの宿場はこうやって樹上に作ることが多い」

「宿の代金は、地上に近いところのほうが高くて、上に上がるほど安くなるんよ」

「ほみゅほみゅ」


 どうやら、上に登るのが大変なのと、建物が古くなるのの相乗効果で宿泊料が安くなるってことらしい。
ちなみに、宿の経営者の住居と宿泊者用の受付&食事処は地上にある普通の建物だ。


「今の時間だと、下の方は空いてないかもなぁ……」


 悪い予感というのは当たるもので、空いてたお部屋は上の方。


「小さい子がいるのにすまないね。このところ、お客が多くてなぁ……」


 宿主さんはしきりに謝罪を口にしていたけれど、空いているのは一番上の方らしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

今日も学園はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。【連載版】

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… ◆◇◆◇◆ 【今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。】の【連載版】です。連載するに辺り、タイトル微妙に変更しております。 ●尚、タイトル最初の『0』は短編と同じ物語を掲載しております。御注意下さい。 ◇◆◇注意◇◆◇ ・1章ずつ、一気に書き上げてから掲載しております。その為、ネタが仕上がるまでUPしませんのでご了承下さい。 ・1話三千~八千文字とバラバラになっております。 ・「R15」と「残虐な描写あり」は保険です。 ・なろうにも掲載しております。 5/21 1章の3話目。日本語がかなりおかしい文章が多々あり、アチコチ修正致しました。話も少し違っております。大変申し訳ありませんでした。 【2021年8月 休止中】

二重転生!? ~10月10日で私が消える?~

霧ちゃん→霧聖羅
恋愛
 わたしこと、藤咲りりんはどこにでもいる派遣社員。28歳独身だ。 趣味はゲームに服作り。 最近は異世界に暮らす恋人とVRゲームに興じる日々を送ってる。  その日、ゲーム内での友人に会う為に家を出たわたしは、原因不明の眩暈におそわれた。 こりゃあ即売会場に向かうのは無理だと家に帰ろうとしたところで、 エスカレーターの故障事故に遭ってしまい、命を落としてしまう。  もう、彼とは会えないんだと思いつつ命を落とした筈のわたしは、 彼の暮らすキトゥンガーデンと言う世界に転生する事に?!  じゃあ、アル。…一緒に新婚旅行に出かけようか?   ※『秘密の異世界交流』の続編です。 ※『リエラと創ろう!迷宮都市』と一部リンクします。 ※『魂の護り手』と言う作品はこの作品のスピンオフ的な何かです。 ※視点切り替えがあります。  タイトルの頭が★の場合、アスタール視点。  タイトルの前後に☆★の場合、レプトス&スピネル視点。  無印の場合は、リリン視点です。

おとぎ話は終わらない

灯乃
ファンタジー
旧題:おとぎ話の、その後で 母を亡くし、天涯孤独となったヴィクトリア。職を求めて皇都にやってきた彼女は、基準値に届く魔力さえあれば「三食寮費すべてタダ」という条件に飛びつき、男だらけの学院、通称『楽園』に入学した。目立たないように髪を切り、眼鏡をかけて。そんな行き当たりばったりで脳天気かつマイペースなヴィクトリアは、お約束通りの「眼鏡を外したら美少女」です。男の園育ちの少年たちが、そんな彼女に翻弄されたりされなかったりしますが、逆ハーにはなりません。アルファポリスさまから書籍化していただきました。それに伴い、書籍化該当部分をヒーロー視点で書き直したものに置き換えています。

処理中です...