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能力の使い方

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「それにしても……どうしたもんだろ。」

 深い深い眠りに落ちている、アルの寝顔を眺めつつ一人呟く。
やる事が無くなったせいもあってか、少し遠くにいっていた左手の痛みが戻って来ている。
すっぱりと切り落とされたそこを、今更ながら確認してみると、恐れていた様な生々しい傷口とかではなく、なんだか人形の腕を鋭利な刃物ですっぱりと切り落としたみたいだ。
逆に綺麗過ぎるから、カモフラージュに包帯でも巻いた方がいいかも。
ただ、この切断面からは血が流れていない代わりに、淡い紫色の『ナニカ』がとめどなく流れ出していっているのが見えた。
とりあえず、『わたし』には。
他の人に、同じモノは見えるんだろうか?
アルの両親っぽい人達の態度からすると、万人に見える物と言う雰囲気では無かったキガスル。

「痛いなぁ……。」

 色んな意味で。
物理的にも、『魂』レベルでも痛みを感じた。
魂に関しては、千切られたんだから当然か。
どっちかというと、スピリチュアル系的なのとか弱い方だったんだけどな。
淡い紫色の『ナニカ』は、今のわたしから見ると魂からこぼれ出した血の様に見える。
ソレと一緒にキラキラした何かがこぼれ出てるのは、身体を構成している何かだろうか?
この身体が一体何から造られたのかは分からないけど、結構な力の……『魔力』の固まりである様な気がした。

「何とかする方法、考えんと。」

 考えるのは苦手だけど。
それにしても、腕が酷く痛む。
腕、一本だもんな……。
巻き爪の手術で爪の側面切り取ったけど、アレの麻酔が切れた時位に痛い様な気がする。
コレも何とかする方法、ないだろうか?
そうでなくても得意じゃないのに、より一層考えなんか纏まりやしない。
ため息混じりに左ひじの上あたりをギュウっと握ってみると、少しだけ痛みが和らぐような気がした。
気休めかもしれないけど、少しキツメに縛ってみようか?

「リリン、さん。」

 扉が叩かれる音と共に、聞き覚えのある声がわたしの名を呼ぶ。
返事をすると、綺麗に畳まれた衣類らしいものを手に、アルの一番弟子リエラちゃんアルのお兄ちゃんアスラーダさんらしい人と一緒に部屋に入って来た。
リエラちゃんは小柄な赤毛の女の子で、確か17歳だったかな?
綺麗可愛い感じの美少女で、メチャクチャ頭が良いらしい。
私の目から見ても、デキル女の子! ってイメージだ。
アルがVRMMOの世界セカンドワールドにも連れてきていたので、わたしとは顔見知り以上友達未満な関係だと思う。

「服、用意。」
「ありがと。」

 わたしが寝間着とは言え、一応、服を着ているのを見て一瞬驚いた様子だったものの、すぐにその表情を消して手に持ったものを差し出す。
カタコトだけど、日本語を耳に出来てちょっとほっとする。
やっぱり、まるでわからない言葉ばっかり耳にしていると不安になるよね。
渡された服を確認してみると、きちんと下着もあるみたいで、一安心。
無いと、やっぱり心もとないもんなんだよね……。
でも、流石に今穿く訳にはいかないなと思いながら、弟の寝顔を確認しているアスラーダさんをチラッと窺う。

「アスラーダ$#、&%$@*#$+%$@&%$*。」
「@$%&。」

 彼女が何か言うと、彼はわたしに軽く頭を下げて部屋を出る。

「着替え、手伝い、する。」
「え、へーきへーき! 1人で出来るから!!」

 さっき渡してくれた服を取りあげると、さっさと着せつける為の用意をしながら彼女は、わたしの左手を指差した。

「片手、ない。困難。」
「うう……。」

 仕方なく、彼女の介助を受け入れる。
こう……。
なんていえばいいんだろう?
ボケてないのに介護を受けなきゃいけない人の気持ちが少し理解出来たキガスル……。
とほほ……。



 着替えが終ると、彼女はアスラーダさんを呼びもどした。
彼はすぐ外で待っていたらしくて、即座に戻ってくる。

「話す、する。」

 そう言って部屋の外を差し示すって事は、彼女と隣の部屋で話している間はアルの様子を彼が見ていてくれると言う事か?
身じろぎひとつせずに昏々と眠り続ける姿を確認すると、わたしは彼女の提案に頷いて部屋を後にする。



 彼女は、隣の執務室っぽい部屋に入ると、ソファセットを身振りで勧めてきて私が座るとその前に陣取った。

「#$%、*@$。」

 何か言いつつ、彼女はローテーブルの上に、小さな座布団を敷いた水晶玉みたいなものを置いた。
なんだか美味しそうだなと思った、寝室の近くに並べてあったのと同じようなモノに見える。
思わずそう呟くと、彼女は驚きに目を瞠って一瞬固まった。


ありゃ。
美味しそうに感じるのはわたしがおかしいのか。


 確かに、人間の食べる物には見えないもんなぁと思いながら、どうしたもんかと思っていると、どうぞとお勧めされたので有難く頂いた。
というか、手に取ったら身体に融け込んでいったんだけど。
それと同時に、さっきから左腕の切断面から流れ出ているモノと同じ質のモノが体内に蓄えられる感覚を覚え、『ああ、これが私のご飯になるものなのか』と納得した。
多分、この身体は今のモノと同質のモノによって創られてるんじゃないだろうか?
ちなみに、結構美味しい。
……様に感じる。
純粋な味覚とはまた別モノな感じで、どんな風に美味しいのかって言うのを上手く説明する事は出来ないんだけど……。
うーん。
高原の空気を美味しく感じるのと、もしかしたら似た感じかもしれない??

「……美味し♪」

 そう呟くと、リエラちゃんは困ったような複雑な表情を浮かべた。

「今のは、地球の言葉をこちらの言葉に翻訳するようにアスタールさんが作ってくれた『賢者の石』なんですが……。
リリンさんにそれをあげると、こちらの言葉が話せるようになると伺ったのでお渡ししました。
言葉は、通じていますか?」
「おお。」

 成程。
これを彼女がわたしにくれたのは、どうやら創造主様の指示らしい。
あのまま普通に転生していれば、赤ちゃんスタートだから言葉は順を追って覚えていけばいいって事で、無理に覚えこませる事はしなかったらしい。
でも、実際にはそうはせずに、わたしがここに来てしまったので緊急措置をとる事にしたって事か。
まぁ、創造主様って人は、ワザとそうなるかもしれない隙を作った様に感じるんだけどね……。
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