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ごめんね

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 その日は、急に暑くなってきた春先。
即売会に出ている友人を訪ねて家を出た私は、結局、会場に着く前に家に引き返す事にした。
どういう訳だか、急に目の前が暗くなって足元がふらつく。
ゲーム内でしか会った事の無かった、年下の友人達に会うのを楽しみにしていたんだけど仕方がない。
暫くの間、標識の柱部分に摑まって目を閉じていると少し気分が良くなった……様な気がする。

「駄目だ。帰ろう……。」

 目を開けると、目の前の地面が揺れた。
これは、自分が揺れてるのか、具合が悪すぎて揺れた様に感じてるのかどっちだ?
判別がつかないなと思いながら、重い足を前へと進める。


こう言う時、東京の人って声掛けてくる人っていないよなー
アレか。
クスリやってる的な雰囲気に見えるのかも。
それにしても、家を出る時には何ともなかったのに。
一体どうしちゃったんだろう?


 やっとの思いで改札を通ると、次の関門が現れる。
長い長ーい階段orながいながーいエスカレーター。
さもなきゃ、エレベーター。
残念な事にエレベーターは今さっき下に向かって行くのが見えたから、暫く戻ってこない。


仕方がない。
エスカレーターにしよう。
階段よりはマシに違いない。


 エスカレーターに乗って、少しすると急に体が軽くなる。
ついさっきまで、真面目に倒れる寸前って感じだったのに??
この体調だったら、やっぱり会場に向かおうかと思った瞬間、エスカレーターが急に止まり、フワッと体が浮き上がる感覚に目を見開く。いつもだったら、ギュ―っと握っている手すりに、今日は手を置いてさえいなかった。まぁ、手すりを握ってたとしても効果があったかはしらないけど。


ああ。
死ぬわ。
このエスカレーター、やたらめったら長いし。


 宙に投げ出された体が空気抵抗かなんかの関係か、半回転して後ろを向く。


いいね。
叩きつけられる予定の地面なんか見たくもないし。
それよりも……

 いつもVRMMOの中で、最愛の人が居てくれる方向に視線を向け、手を伸ばす。
異世界に住んでると言う、わたしの恋人。
ネットの世界でしか会う事が出来なかった、幻の様な人。
どんな方法を使ってかは説明して貰ってもよく分からなかったけれど、彼がこちらの世界に居るわたしの姿を追っているらしいと言うのは知っていた。
さっきから少し視線を感じるから、きっとこの瞬間も見ているんだろうと思う。

「ごめんねぇ、アル。」


もう、会えそうに、ないや。


 体に衝撃を感じると同時に、あっという間に何も感じなくなる。
意識が飛んだのは一瞬の事だったらしいというのは、足元に転がるモノが教えてくれた。


ははは
漫画とかだけの話だと思ってたよ。


 私の足元には、私だった『モノ』が中々グロい状態で転がってる。
おびただしい量の血があちこちに飛び散って、さらに現在進行中で通路の床に広がっていた。


即死で良かった。


 他人事の様にそう思う。
いや、この状態で意識が残ってたりとか、結構ゾッとしないし?
首は間違いなく折れてるし、後頭部を打ちつけたみたいだから後ろは酷い事になっているだろう。
いや、顔もやばいけど。
衝撃で色々とアレでコレな感じになってる。


アルの視線を感じたけど、コレは見ないで欲しかったな……。
そもそも、咄嗟の事で思い浮かばなかったけど、私が死ぬ瞬間なんて見てしまって彼は大丈夫だろうか?


 不意に、大きな手に掴みあげられた様な感じがして、あっという間に足元の光景が変化していく。
目まぐるしく変わる光景に、『おお、航空写真みたい!』『いや、衛星写真?!』『地球って本当に青かったんだ』なんてどうでもいい感想がクルクルと心に浮かんでは消えていった。
突然、その変化が緩やかになり、なんだか狭い場所に突っ込まれる様な感覚が走る。


死んで、魂(?)だけの状態になってもそう言う感覚ってあるんだ。


 なんて事を思う間に、先に詰め込まれた足の方(イメージ的にね)からツンツンと引っ張られ、ソレがしばらく続く。
引っ張られる感覚が終るのは突然で、スポン! という擬音がピッタリな感じに突然わたしは、引っ張られていた先に抜けだしていた。
引っ張り込まれたのとほぼ同時に、自分の『魂』と呼ばれるに違いないソレが大きく強く補強されていくのを感じ、それと同時に、ここの基本情報の様なものが意識の中に流れ込む。
ここは、『キトゥンガーデン』。
アルが逃げ出したいと切望し続けていた、世界。
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