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回り道

アスタールの求人旅行 11

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 隣町まで行くという駅馬車は、大型の荷馬車に座席を取り付けたというのが分かりやすい形をしていた。
客席は三種類。
御者台のすぐ後ろは小柄な種族用。
そのすぐ後ろの二列は平均的な体格の種族用。
一番後ろの一列は大柄な種族用となっていて、想定では最大十六人程度は乗れるようになっているらしい。
『客席は』と区別したのは、それ以外の席もあるからだ。
巡回馬車には御者以外に、乗客の安全を守るための護衛も乗り込んでいた。

「御者の爺さんの隣に一人、後ろの座席の後ろに二人乗ってるのが護衛役の探索者さね」

 隣りに座ったおしゃべり好きな女性が、ニコニコ笑いながら説明する。

「護衛って言ったって、そうそう危ないことなんてありゃあしないんだけどね」

 そう言ってテシテシと私の膝を叩くと、手荷物の中をゴソゴソと探ってアメの包を取り出す。

「あんたも舐めるかい? アメちゃん」

 訊ねる風でありながら、私の答えを待たずに手の中に押し込んでくるのは年齢的なデフォルトなのだろうか。
経験したことのない距離感に戸惑いながらも、なんとかご婦人に礼を伝えて飴を口に放り込む。
んむ、甘い。

「危ないことだってあるから、俺達みたいなのが雇われるんだろうがよ。おばちゃん」
「おや。そうかい? あたしゃ、何度も巡回馬車に乗っているけどね、野盗はおろか、動物にだって襲われたこともないよ」
「そりゃ、運がいいな。おばちゃん」

 ……女性はいくつになっても『お姉さん』だと、私はリリンに教わった。
正確には、そのように扱ったほうが面倒事が少ないのだそうだ。
リリンが言うには『おばちゃん』だの『お婆さん』だのの年齢を感じさせるような物言いは避けたほうが良いらしい。
聞いたときには「馬鹿らしい」と思った言葉だが、今は「なるほど」と納得するしかなかった。
イコール、隣の女性の雰囲気が大変恐ろしい。
女性と、口の悪い探索者の男性が丁々発止とやり合いはじめる。
「だからお前さんは~」と言う女性の言葉からすると、二人は知り合いなのだろうか。

「あーもう! 分かった、分かったから!!」
「分かりゃあいいんだよ」

 一方的にけちょんけちょんに言い負かされた口の悪い探索者をやりこめた女性は、フンと鼻を鳴らすと私の方に笑みを向けた。
なかなかの変わり身だ。

「それで、何を話してたっけか」
「さて……」

 笑顔で問われて首を傾げる。

「はちみつ飴がとても美味しかったのは覚えているのだが……」
「おや、気に入ったのかい。もう一つあげようね」

 催促したつもりではなかったのだが、ありがたく受け取った。
それなりに流通しているらしいとはいえ、飴玉も贅沢品の一つだ。
決して安いものではない。
ホイホイと貰うばかりというのも気が引けて、お返しに渡せるものがなかったかとしばし悩む。
ああ、セリスに年のために持っていくように言われたアレがいいかもしれない。

「では、お返しにこれを。中には、切り傷などに効く軟膏が入っている」

 腰につけた小袋に入れてあった、軟膏入りの小さな入れ物をご婦人の手に握らせる。

「おやおや、気にしなくていいのに」
「家人の作ったものだが、効果は保証する」
「じゃあ、ありがたくいただこうかね」

 手のひらに乗る大きさというのも受け取りやすかったのだろう。
一度遠慮してみせただけで、あっさりとご婦人は軟膏を受け取った。
それを見て色めき立ったのは探索者達だ。

「いや、ちょ! まさかそれって……」
「おばちゃん、それ見せてくれよ!」
「あたしが貰ったんだから、ちゃんと返しておくれよ?」

 ご婦人が言っていたとおり、護衛としての仕事などあってないようなものなのだろう。
魔法を使って周囲の様子を探ってみたが、平穏そのものだ。
飢えた魔物はおろか肉食獣の類もおらず、ましてや、敵対行動を取りそうな人間なんて影も形もない。
警戒する必要性が殆どないから、人と喋る余裕があるのだろう。

「これってあれだよな?」
「だなぁ」

 二人は軟膏の入れ物を確認してから頷きあうと、同時に私に視線を向けてくる。

「「なあ、あんた! コレ、他にも持ってないか!?」」
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