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回り道

アスタールの求人旅行 8

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 職業斡旋所を後にすると、私はぶらぶらと街の散策をはじめる。
レンガや石材を用いて作られたエルドランの建物は、見ているだけでも面白い。
私からすると、全体的に建物の背は低いように感じる。
これは、グラムナードの住居が元々あった岩山をくり抜いて作られているせいだろう。
岩山をそのまま使っているため高さ自体はまちまちだが、エルドランにある建物よりも高いものが多い。
外観をいじる場合も最小限で、遠目で見ると分からないような形で細工されている。
見目鮮やかな色合いであったり、角ばっていたりする建物というものが身近にないのだ。

 昨日は祭りのために窓から窓へと渡されていた色とりどりのリボンも取り去られているが、日常の風景も良いものだと思いつつのんびりと散歩を楽しむ。
好きな場所を歩き回れるというのは、なんとも充足感がある。
知らない場所を歩くのもまた、それを助長しているかもしれない。
鼻歌でも歌いたい気分で歩を進めると、風にのって美味しそうな匂いが流れてくる。
そういえば、朝食代わりに食べたのは昨夜の残りの串焼きが一本。
正直なところ、少し物足りなかったところだ。
私はいそいそと匂いが流れてくる方向へ向かった。



 ところで、このエルドランという街では祭の日でなくとも屋台が出ているらしい。
私は街の一角にあった屋台の一つで買ったスープを啜りながら、周囲を見回す。
馬車が入り込めないこの場所は生鮮食品を売る市場でもあるようで、道の真ん中には生鮮食品を詰め込んだ木箱が積まれ、中身を売ろうと張り上げる声で賑やかだ。
グラムナードでは中町でも外町でも、屋台というものは認められていない。
それなのに、エルドランでは日常的にこの場所で近隣の村からやって来た者達によって食料が売り買いされているのだとか。
要は行商というやつなのだろう。
最低限の管理はされているようなのだが、私にとってこれは少しかるちゃーしょっくだ。
……かるちゃーしょっくと言う言葉の引用方法はこれであっているはずだが、後でリリンに確認してみよう。

 ちなみにグラムナードの外町だと、行商をするためには仮店舗を借りなくてはならない。
中町には、そもそも外部の人間は入れないようになっており、商売をやりたいような者はすでに店舗を持っている。
祭りでもない日にこのような場所で店を開こうとは思わないのは、必要性がないからだ。
そもそもが、近隣に村などないのだから売りに来る人間もいないのだが……
中町では氏族間でもののやり取りが行われるのが主体であり、余ったものを外町の店舗で売っているから、このような形式の市場は不要だろう。

 外部との交流があるのは外町だが、あそこは今、叔母が亡くなるまでという条件で国に貸している状態だ。
返却されるまでは管理もできない。
大体が隣町から徒歩で七日もかかるのだから、同じような市場を作ったとしても需要はなさそうだ。
ちょっと楽しそうだと思ったのだが、グラムナードに導入するのは諦めよう。
そう結論づけながら宿へと戻る。
あまり長い時間うろついていると、職業斡旋所から連絡が来た時に宿の人が困ってしまうに違いない。

 結論から言うと、手遅れだった。
私が職業斡旋所を出たすぐ後に応募があったようで、今なら捕まえられるかもしれないと探しに出た女性に宿に向かう途中で捕まったからだ。
後で宿の人には謝っておこうと思いつつ、斡旋書の女性にどのような人物が応募してきたのかを訪ねてみる。

「今年基礎学校を卒業したての女の子で、成績も優秀みたいです」

 女の子と聞いて、先程ファイルを抱えていた少女を思い出す。

「もしかすると、赤毛の――」
「そうそう。ちょっと暗めのリンゴ色の髪の子です」
「なるほど」

 即座に応募してくるとは思わなかったが、やはりという気持ちが強い。
斡旋所につくまでの間に他に聞けることがないかと問うてみたものの、彼女はこれ以上は分からない様子だった。
きっと、慌てて私の後を追ったのだろう。
彼女の不揃いなサンダルをチラリと眺めて視線を戻す。
誰か、彼女が飛び出していく前に履物を注意してやれば良いのに……
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