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二年目 駐屯所
寄り道 ヘタレな従兄がやらかした
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予定よりも早くにリエらんが帰ってきた。
それは、まあ、いいんのよね。
ただ、一緒に出掛けて行ったラー兄と叔母様が一緒にいないというのが、ちょっと謎。
ター兄に大急ぎで話さなきゃいけないと言うリエらんと、夜にお土産話をしてもらう約束をしてから、執務室に向かって駆け出す彼女の背中を見送る。
「なあ、ルナ。リエラが帰ってくるのって、まだ三~四日はかかるはずじゃなかったっけ?」
ター兄の車に繋ぐヤギを捕まえて戻ってきたスルとんは、リエらんのおさげが扉の中に消えていくのを目敏く見つけたらしい。
不思議そうに首を傾げつつ、猫耳がピコピコ。
すんなりとした形の良い艶やかな黒い毛におおわれた尻尾がフルンフルンと揺れる。
やだ、私の婚約者、めっちゃ可愛い!
可愛いは正義よね。
ニヨニヨと口元が緩むのを感じながら、ヤギを牽いているのと反対側に身を摺り寄せる。
ふふふ。
し・あ・わ・せ~!
恥ずかしそうに視線を逸らしつつも腰に巻き付けてくる尻尾は、猫系の獣耳族や獣人族にとって本能のようなもの。
自分が番として認めている相手に、無意識にやっちゃう行動なのよね。
スルとん自身は気が付くと、工房の近くにいる時は慌てて私から離れてしまう。
私にとっては嬉しい行為だから、距離を取られるのは寂しいんだけど……
その時に浮かべる、恥ずかしそうなくせに残念だと思っていることが丸わかりな表情も捨てがたい。
「そのへんは、夜にお土産話を聞かせてもらう予定。それよりも、ラー兄と叔母様が一緒じゃないんだよねぇ……」
今も、その表情を浮かべてちょっぴり離れてしまったことに内心でガッカリしながら、いつも通りに何でもないフリをした。
二人きりで迷宮に入ったり、お部屋でくつろぐときはいいのに、なんで工房のそばだと駄目なんだろうなぁ……?
工房の仲間にからかわれるのも、私にとっては『どーだ、羨ましいでしょう?』って言いたくなるくらいに誇らしいことなんだけど。
男の子だから嫌なの?
それとも、スルとんが特別恥ずかしがり屋さんなの?
「ええ? 師匠がリエラから離れる訳ないだろ」
ギョッとして声を張り上げるスルとんに、私は真面目な顔をして頷く。
「だって、リエらんが工房に入って行ってしばらく経つけど、未だにラー兄が姿を現さないんだもの。叔母様にてこずっているにしたって、遅すぎるじゃない」
「いや、それこそその叔母様? を置き去りにしてくるよな。いつもだったら」
まあ、そうだよね。
心持ち背伸びをして砦の方向に視線を向けるスルとんを見ながら、心の中で同意する。
ラー兄がリエらんを大好き――というか、将来の伴侶として見ているのは工房内では暗黙の了解。
気付いていないのはリエらん本人だけって状態なんだもの。
リエらんは、どうにも女の子としての自己評価が低いから「自分は妹扱いだ」なんて言って否定するんだけどね。
妹と恋人繋ぎなんてしないでしょう……!
「なんかあったんだろうけど、夜までお預けかなぁ」
「? 昼飯の時にチラッとなら聞けるんじゃね?」
「多少の体力づくりはしてるけど、リエらんってほぼ工房に閉じこもって生活してるじゃない」
私の言葉に、一度は納得したように頷いたスルとんが「あれ?」と首を傾げる。
「でも、山道の視察って馬で行ったんだろ?」
「だとしても、結構きつかったんじゃないかな。ちょっと、顔色悪かったのよ」
私だって普段、ヤギ車が主な移動手段だもの。
馬なんて乗り慣れていないから、絶対にいつもより緊張して変な疲れが出るに決まってる。
自分で騎乗することができないリエらんなら、尚更だろう。
スルとんにもその様子がやっと想像ができたのか、肩を竦めて工房にチラッと視線を向けてから大きなため息を一つ吐く。
「なんにせよ、さっさとヤギを繋いどかないとアスタール様がでてきちまうな」
「あ、忘れかけてた!」
スルトんに手綱を牽かれたまま放置されていたヤギはすでに、自分の用事はないのだろうと決めつけて近くの雑草をモグモグしながら遠くを眺めて耳をピクピクさせている。
いやいや、これから車を牽いてもらうお仕事があるから!
呑気に食事を続けようとするヤギを二人がかりでヤギ車に繋ぎ終えたところに、まるで待ち構えていたようなタイミングでター兄が姿を現した。
ちなみに、夜になってから山道視察であったことについてリエらんから話しを聞いたんだけど……
私が、心の中でラー兄をタコ殴りにしたのは当然だと思う。
ラー兄!
なーーーーにやってんのよ!!
「妹と思ったことがない」だけじゃ、リエらんがアホな誤解をこじらせるなんてわかり着たことでしょう!?
そこで言葉を止めずに、ちゃんと「女性として見てるから」なりなんなり言わなきゃダメじゃない……!
とりあえず、私の方からは義務感だとかそーゆー方向じゃないってのは説明したんだけど。
どの程度納得したんだろ?
とりあえず、リエらんが今まで見ないふりをしていた自分の気持ちを自覚したらしい。
だから、多少はなんらかの変化があると思う。
それが良い方向でか、悪い方向でかは微妙なところなんだけど……
なにはともあれ、ラー兄が帰ってきたら『妹じゃない』発言の誤解を早めに解くように言わないと。
そっちの誤解に関しては、何をどう言っても溶けなかったんだもの。
リエらんも、妙なところが強情なんだよね……
それは、まあ、いいんのよね。
ただ、一緒に出掛けて行ったラー兄と叔母様が一緒にいないというのが、ちょっと謎。
ター兄に大急ぎで話さなきゃいけないと言うリエらんと、夜にお土産話をしてもらう約束をしてから、執務室に向かって駆け出す彼女の背中を見送る。
「なあ、ルナ。リエラが帰ってくるのって、まだ三~四日はかかるはずじゃなかったっけ?」
ター兄の車に繋ぐヤギを捕まえて戻ってきたスルとんは、リエらんのおさげが扉の中に消えていくのを目敏く見つけたらしい。
不思議そうに首を傾げつつ、猫耳がピコピコ。
すんなりとした形の良い艶やかな黒い毛におおわれた尻尾がフルンフルンと揺れる。
やだ、私の婚約者、めっちゃ可愛い!
可愛いは正義よね。
ニヨニヨと口元が緩むのを感じながら、ヤギを牽いているのと反対側に身を摺り寄せる。
ふふふ。
し・あ・わ・せ~!
恥ずかしそうに視線を逸らしつつも腰に巻き付けてくる尻尾は、猫系の獣耳族や獣人族にとって本能のようなもの。
自分が番として認めている相手に、無意識にやっちゃう行動なのよね。
スルとん自身は気が付くと、工房の近くにいる時は慌てて私から離れてしまう。
私にとっては嬉しい行為だから、距離を取られるのは寂しいんだけど……
その時に浮かべる、恥ずかしそうなくせに残念だと思っていることが丸わかりな表情も捨てがたい。
「そのへんは、夜にお土産話を聞かせてもらう予定。それよりも、ラー兄と叔母様が一緒じゃないんだよねぇ……」
今も、その表情を浮かべてちょっぴり離れてしまったことに内心でガッカリしながら、いつも通りに何でもないフリをした。
二人きりで迷宮に入ったり、お部屋でくつろぐときはいいのに、なんで工房のそばだと駄目なんだろうなぁ……?
工房の仲間にからかわれるのも、私にとっては『どーだ、羨ましいでしょう?』って言いたくなるくらいに誇らしいことなんだけど。
男の子だから嫌なの?
それとも、スルとんが特別恥ずかしがり屋さんなの?
「ええ? 師匠がリエラから離れる訳ないだろ」
ギョッとして声を張り上げるスルとんに、私は真面目な顔をして頷く。
「だって、リエらんが工房に入って行ってしばらく経つけど、未だにラー兄が姿を現さないんだもの。叔母様にてこずっているにしたって、遅すぎるじゃない」
「いや、それこそその叔母様? を置き去りにしてくるよな。いつもだったら」
まあ、そうだよね。
心持ち背伸びをして砦の方向に視線を向けるスルとんを見ながら、心の中で同意する。
ラー兄がリエらんを大好き――というか、将来の伴侶として見ているのは工房内では暗黙の了解。
気付いていないのはリエらん本人だけって状態なんだもの。
リエらんは、どうにも女の子としての自己評価が低いから「自分は妹扱いだ」なんて言って否定するんだけどね。
妹と恋人繋ぎなんてしないでしょう……!
「なんかあったんだろうけど、夜までお預けかなぁ」
「? 昼飯の時にチラッとなら聞けるんじゃね?」
「多少の体力づくりはしてるけど、リエらんってほぼ工房に閉じこもって生活してるじゃない」
私の言葉に、一度は納得したように頷いたスルとんが「あれ?」と首を傾げる。
「でも、山道の視察って馬で行ったんだろ?」
「だとしても、結構きつかったんじゃないかな。ちょっと、顔色悪かったのよ」
私だって普段、ヤギ車が主な移動手段だもの。
馬なんて乗り慣れていないから、絶対にいつもより緊張して変な疲れが出るに決まってる。
自分で騎乗することができないリエらんなら、尚更だろう。
スルとんにもその様子がやっと想像ができたのか、肩を竦めて工房にチラッと視線を向けてから大きなため息を一つ吐く。
「なんにせよ、さっさとヤギを繋いどかないとアスタール様がでてきちまうな」
「あ、忘れかけてた!」
スルトんに手綱を牽かれたまま放置されていたヤギはすでに、自分の用事はないのだろうと決めつけて近くの雑草をモグモグしながら遠くを眺めて耳をピクピクさせている。
いやいや、これから車を牽いてもらうお仕事があるから!
呑気に食事を続けようとするヤギを二人がかりでヤギ車に繋ぎ終えたところに、まるで待ち構えていたようなタイミングでター兄が姿を現した。
ちなみに、夜になってから山道視察であったことについてリエらんから話しを聞いたんだけど……
私が、心の中でラー兄をタコ殴りにしたのは当然だと思う。
ラー兄!
なーーーーにやってんのよ!!
「妹と思ったことがない」だけじゃ、リエらんがアホな誤解をこじらせるなんてわかり着たことでしょう!?
そこで言葉を止めずに、ちゃんと「女性として見てるから」なりなんなり言わなきゃダメじゃない……!
とりあえず、私の方からは義務感だとかそーゆー方向じゃないってのは説明したんだけど。
どの程度納得したんだろ?
とりあえず、リエらんが今まで見ないふりをしていた自分の気持ちを自覚したらしい。
だから、多少はなんらかの変化があると思う。
それが良い方向でか、悪い方向でかは微妙なところなんだけど……
なにはともあれ、ラー兄が帰ってきたら『妹じゃない』発言の誤解を早めに解くように言わないと。
そっちの誤解に関しては、何をどう言っても溶けなかったんだもの。
リエらんも、妙なところが強情なんだよね……
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