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二年目 駐屯所

領主様とアスラーダさん

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 朝食が終わると早速、初日に捕まえていた水売りさんを一組解放した。
山道で商売をしてはいけないと知らなかっただのなんだのと騒ぎ立てていたそうだけど、そんな言い訳が通じる訳もない。
最後には渋々と商売許可証を提出して、グラムナードに向かって行った。
 
 水売りさんの解放を終わらせたアスラーダさんが戻ってきたら、二階の集会所で昨日の会議の続きだ。
彼が駐屯所の中に引っ込むのを窓から確認したリエラ達は、集会所へ移動する。
グラムナードの人じゃないラヴィーナさんまで会議に参加する理由は『逃亡防止のため』。
どれだけ信用がないんだろうね?
ラヴィーナさん。

 二人で集会所に出ると、オーダスさんが領主様に指示されながら今日の会議内容を箇条書きにしていた。
話し合う予定は――駐屯所の取り扱いについてと、トイレや駐屯所の増設に関してらしい。
書きだされている内容はこんなかんじ。


    ・駐屯所に来る予定の人員が着き次第、仕事の引継ぎ作業に取り掛かる。
    ・引継ぎが終了したら、ウガリまでの道中と同じ間隔でトイレを作りつつグラムナードへ向かう。
    ・水場に着いたらここと同じように駐屯所を作成し、人員が着くまで待機。
     再度、引継ぎを行い移動する。


 水場が無くなる後半は、トイレを作って移動するだけになる。
書きだされた予定は、これで終了だ。
書かれている内容から考えると、駐屯所の引継ぎ要員がやってきたら、トイレや駐屯所を作りながら歩いてグラムナードに向かうことになるようだ。

 ところで、昨日のうちに放浪民の子達をどうするかをアスラーダさんに相談しようと思っていたのに、タイミングを逃しまくっていていまだに話せていない。
本人達が希望するなら、駐屯所で昨日のように下働きをしてもらえたらいいんじゃないかと思うんだけど……
それもまた『自分で責任を持たない』って、ラヴィーナさんに非難されちゃうんだろうかな。
でも、例えリエラが勝手に手を差し伸べたからと言われても、本人が何にもしないのに全ての面倒を見るなんておかしいと思うんだよね。
それこそ、本人達が自立することができなくなってしまう。
お仕事の斡旋をするのが、一番、彼等の助けになるんじゃないかな。
……発言できそうなタイミングを探して、提案してみることにしようと思いつつ、自分の席に着く。

 会議の席は、オーダスさんが壁書きしている正面にあたる席に領主夫妻。
個室寄りの席には、アスラーダさんとダンさんの二人が並んで座る。
昨日の夜は同席していなかったダンさんがいるところをみると、何か、彼に頼むつもりなのかも。
階下への階段寄りの席に、リエラとラヴィーナさん。
階段寄りって本来は下座だ。
仮にも王母である彼女に相応しい席じゃないと思う。
でも、これも多分、逃亡防止策の一つだ。
だって、階段を降りたところには護衛さん達が待機しているけれど、個室に人はいない。
そっちの方に逃げられてしまうと、空を跳んで「さようなら」されてしまいかねないよね。
空を跳んで逃げるなんてことを常日頃からやっているラヴィーナさん対策なんだろうと思うと、領主様の苦労がしのばれる。

 アスラーダさんが戻ってきて正面の席に着くと、炎麗ちゃんがテーブルを横切ってやってきた。
グイグイと頭で胸を押されるので隙間を開けたら、膝の上で落ち着く場所を探す。
アスラーダさんの肩の上が定位置なのに、珍しいこともあるもんだ。

「全員揃ったところで、始めさせてもらおう」

 領主様はそう前置きすると、まず最初に今日の自分達の予定を話し始める。
それによると、この会議が終わったらすぐに、リエラとラヴィーナさんを連れてグラムナードに向かうらしい。

「え? 私も、ですか?」
「な!? なんで、リエラまで!?」

 アスラーダさんと同時に、驚きの声が飛び出した。
だって、ほら。
アスラーダさんは?
それに、トイレや駐屯所の設置、誰がやるの??
いくらなんでも、アスラーダさん一人にやらせるとか言わないよね???
あれって、結構な領の魔力を使うし。
道中に作ったのだって、炎麗ちゃんやラヴィーナさんがお手伝いしながら作ったんだよ。
一人じゃ流石に辛いと思う。
あ、炎麗ちゃんはいるのか。
それでも、ラヴィーナさんが抜けると大分きついんじゃないかな?
ラヴィーナさんがいなければ、リエラもお手伝いできると思っていたし、一緒に作業するつもりだったんだけど……
領主様と一緒にラヴィーナさんも移動するって話は、たしか昨日もあった。
でも、今日帰還するメンバーに自分が入っているなんて、想定外もいいところだ。

「アスラーダにはこの後、仕事を頼むつもりなので……。申し訳ありません、リエラ様」

 領主様は、同時に声を上げたアスタールさんに一瞬だけ視線を向けた後、リエラの方に向き直って申し訳なさそうな様子で頭を下げる。
というか、なんで領主様の方がリエラよりも低姿勢?
それに、なんで『様』付けなの!?

「リエラちゃんの場合、グラムナードでは『錬金術師見習い』だっていう時点でお兄様よりも立場は上よ」

 びっくりして固まっていると、隣に座ったラヴィーナさんがこっそりと教えてくれた。
いや、それは知ってるけどね?
領主様だよ?
領主様!
生き神様扱いの錬金術師アスタールさん本人ならとにかく、その弟子リエラは錬金術師と同格じゃないよね?
だいぶ慣れてきたつもりだったけど、領主様までが影響下にあるなんて思わなかったよ……
だって、アスタールさんって、領主様の息子だよね……?
親にまで、輝影の支配者として接されるアスタールさんのことを考えたら、なんだか複雑な気分になった。
赤の他人であるリエラでさえ、かなり微妙な気持ちになるんだ。
実の親にこんな態度をとられたら、もっと複雑な――悲しくて、身の置き所の無い気持ちになるんじゃないだろうか?

「あー……えっと、領主様とご一緒するのは、大丈夫、です。でも――」
「なんで、リエラが父上と一緒に戻る必要がある?」

 言いかけた言葉は、アスラーダさんの険のある声にかき消された。
驚いて視線を向けると、彼は怒った表情で領主様を睨みつけている。
隣に座っているダンさんが、声にならない悲鳴を上げているのがチラッと視界の端に映った。
こんな風に怖い顔をするアスラーダさんなんか、リエラは知らない。
なんだか急に、彼が知らない人になってしまったような錯覚にとらわれて、炎麗ちゃんを抱きしめる手に力がこもった。
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