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二年目 山道視察

携帯糧食

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 お日様が大分高く上がってきた頃合いで、山道の端に寄ってちょっと早いお昼休憩に入る。
ただ、どこも座りたくない程度に汚い。
仕方がないから、休む予定の場所では『洗浄』さんの出番だ。
ラヴィーナさん曰く、「使えるものは使っていい」らしい。
魔法を使えない人の目線で見るのも大事だけど、それはイコール使っちゃいけないってことじゃないんだそうだ。
ちょっと詭弁の臭いがするけど、ありがたいので気付かなかったことにしようと思う。

 それにしても、山道の視察で一番最初に気付いたのがトイレの重要性とか……
なんか、思っていたのと違う気がする。
まあ、これも気づきの一つなんだけどね。

「リエラ、少し靴を脱いで足を冷やした方がいい。伯母上もいかがですか?」

 道端に座り込んでいると、アスラーダさんが濡らした布を渡してくれたからありがたく使わせてもらう。
ちょこちょこ休憩はとっていたんだけど結構な距離を歩いていたからか、すでに足がパンパンだ。
靴を脱いでジンジンと痛い足の裏に当ててみると、それだけでとっても気持ちがいい。
足の裏が熱を持っているのかすぐにぬるくなってしまったのを、冷やしなおしてもう片方……

「リエラちゃん、器用なことするのねぇ」
「ラヴィーナさんもできますよね?」
「出来るけど、ちょっとめんどくさいかしら」

 リエラの隣に座り込んだ彼女は、アスラーダさんから受け取った布で首筋を押さえながら微笑を浮かべる。
それも気持ちよさそうだと、足を冷やすのに使っているのとは別の布を取り出す。
足の方は、ちょっと冷やした程度じゃ間に合わないから仕方がない。

「兄ちゃん、俺には?」
「濡らしてやるから、自分のを出せ」

 アスタールさんは何のかんの言いながら、ダンさんが出してきた汚い布切れに『洗浄』をかけて綺麗にしてから濡らしてあげている。
ここまでの道中でそれなりに仲良くなったのか、単に世話焼きなだけなのか……
まあ、世話焼きな方かな。
アスラーダさんだし。

「お昼ご飯は自分の荷物から出してちょうだいね」
「あ、はい」

 ラヴィーナさんに言われて、慌てて自分が背負っていた荷物の中からお弁当を取り出す。
今日は初日だから、宿で作ってくれた美味しそうなサンドウィッチだ。
ウキウキしつつ、包みを開けるとダンさんと目が合う。

「嬢ちゃんの昼飯、随分と旨そうだな」
「え? あげませんよ」

 リエラはサッと、ダンさんの目からお昼ご飯の包みを隠す。
だって、歩き続けで足がパンパンなだけじゃなく、お腹もペコペコなんだから!

「いやいや、とりゃしねーよ」

 隣の芝生は青いっていうやつだろうか?
ダンさんのお昼ご飯も美味しそうにみえる。
具体的には、彼の手の中にある薄切りにした焼き肉がたくさん挟まれているサンドウィッチが美味しそうだ。
リエラの持っている、魚の揚げ焼きが入ったものが美味しいのは確実だけど、肉も捨てがたい。

「……交換だったら」
「んじゃ、ひとつづつ交換すっか」

 ジーっと物色した挙句にそう提案すると、彼は肩を震わせながら交換してくれた。
普通に笑ってくれてもいいんですよ?
食い意地のはった小娘だって。
事実だから仕方がない。

「まあ、初日の夜くらいまではそこそこのものを食えるからなぁ」
「それは言えてるわね。その後は、携帯糧食になっちゃうけど」

 携帯糧食というのはアレだ。
干した肉と野菜に、固焼きパンの三種類がちんまりとコンパクトに包まれた代物。
ぶっちゃけ、見た目からして美味しそうとは思えない。
そりゃあね、孤児院にいた頃には、お肉があるだけでもご馳走だった。
でも、工房で働き始めてからは、毎日セリスさんの作ってくれる美味しいご飯三昧だ。
今更食べたいとは思えない代物なんだけど……
残念なことに、明日からはそれが主食になる。
考えただけでもため息を吐きたくなるけど、仕方がない。
これも、歩きでグラムナードを目指す人の目線で経験するという、お仕事の一環なんだから。

「アレも、スープにできりゃぁそんなに悪くないんだが……」
「お湯でふやかすだけじゃないんですか?」
「そのためだけに、薪を背負って歩くわけにもいかないだろう?」
「魔法が使えないと、大変よねぇ」
「……そりゃ、そうですね」

 ラヴィーナさんの、正に他人事と言わんばかりの物言いに呆然としながらうわの空で相槌を打つ。
いや、だってね?
お湯を沸かしてスープを作ることもできないとなると、グラムナードに着くまでの間、かたーいパンと干し肉の生活になるんだよね?
昼間は日に照らされて暑い分、夜は寒く感じる。
せめて、暖かいものが食べたいよね。

 開発するなら、食事の面も改善できないか考えてみることにしよう。
ご飯は大事!
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