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二年目 叔母様来襲

本当の目的

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「いまだに紹介してもらえないけど、あなたは?」

 眉間にしわを寄せていたのは一瞬のことで、キュウリ婦人は表情を取り繕うと小首を傾げる。
彼女の発言は自己紹介をしろと言うことだろう。
念の為に一応、アスタールさんに視線を向けると、小さく頷き返された。
自己紹介はしていいらしい。

「アスタールさんの元で錬金術を学ばせていただいている、リエラです。……エルドランの領都で育ちました」

 その場に立ち上がり名乗ると、小さくお辞儀をしてから腰掛け直す。
最後にどこで育ったかを追加したのは、さっき話した基礎学校がどこにあるのかを説明する手間を省くためだ。

「そう。ラディとラエルからの手紙で、よく名前が出てくる子ね。とても優秀な子だと聞いてるわ」

 納得したように頷くと、そんな評価を口にする。
そうですか。
アスラーダさんとラエルさんからそんなことが手紙に書いてあるんですか。
……いや、手紙を書くならリエラのことなんかよりももっと別に書くことあるよね?
なんで、二人そろってリエラのことを書いてるの?

「私はこの子達の叔母のラヴィーナ。お仕事は国王の母親よ」

 余計なことを考えている間に自己紹介を終えた彼女は、更に妙なことを口走った。

「……それに、本当に似ているわね」
「へ?」
「ああ、今はそんな話をしている場合じゃないわね」

 リエラが誰に似ているというのか。
気になることを口走るだけで、詳しく説明してくれるでもなく彼女は話のかじを切りなおす。

「エルドランとラブカとの間での領地のやり取りが行われたのは、三十年近く前のことらしいから仕方ないのかもしれないけれど……。基礎学校では経緯も含めた教育もするように指導しなくちゃ」
「それよりも、伯母上。ウガリとの間の山道の話は一体どこから出てきたんだ?」
「ああ、ぶっちゃけていうなら三度にも渡る見合い話を断り続けてメンツをつぶした代償だそうよ」

 いや、それって言いがかりだよね。
ラヴィーナさんも同じことを思っているんだろう。
やや投げやりな口調で、アスラーダさんにそう返す。

「三度? エドゥラーン家からの話は、初耳なのだが……」

 アスタールさんは、そんな言いがかりよりもむしろ『三度に渡る見合い話』の方が気になったらしい。

「あー……学生時代に、長女との婚約話があったんだが流れてる」

 なんと。
アスラーダさんに、一の姫様とのお見合い話があったんだ?
学生時代って言うことは、グラムナードに戻ってくる前ってことだと思うから、アスタールさんが知らなくても仕方がないのかな?

「だとしても、今回のと併せて二回ではないのかね?」
「多分、今回の二人分を二回と数えてるんじゃないかしら」
「なるほど。そもそもが、見合いや弟子入りの話は難癖をつけるための話であって、実際にそれが成立するかどうかはどうでもいいことだと言う訳か」
「そんなところだと思うわ。『そもそもが、開発もなにもされる気配のない山道があっても無くてもグラムナードとしては何の問題もないだろう。むしろ、代わりに管理してやるんだから感謝してほしいくらいだ』ですって。」

 おおう、暴論!
そして、ものすごい上から目線だ。

「いっそ山道を塞いでしまう方が手っ取り早いように感じるのだが……」
「塞いで、その後はどうするのよ?」
「中町と外町を合併して、このカルディアナ山脈の中だけで世界を完結させてしまいたいところだ。そうすれば、煩わしい見合い話ともきっぱりさっぱり縁が切れる」

 いや、アスタールさん。
お見合い話から逃げる為に山道をつぶすのはちょっと、なんであれなんじゃないでしょうか?

「ちょっと、それは困るわ」

 イニティ王国は、鉱物資源をグラムナードの迷宮から得ているって話だったはずだから、確かにそれを手に入れる方法が無くなるのは困るよね。

「こちらとしては別に問題ないのだが……。それならば、いっそ東か西に別の山道を作ってしまうというのはどうかね?」
「あら、それはいいわね!」
「二人とも落ち着け。そうなると今度は、自分のところにないのが不公平だと言い出すのが目に見えているだろう」
「それはあるわねぇ……。ラディ、あなたからはいい案ないかしら?」

 結局、リエラのお腹が大きな音を立てたのをきっかけに、また翌日話し合うことになった。
キュウリ婦人――ラヴィーナさんは、弟子フロアの空き室にお迎えが来るまでの間お泊りするらしい。
王族が弟子部屋でいいのかっていう疑問は感じたけど、下手な宿よりずっと上等な部屋だから問題ないかと思い直す。

 ところでラヴィーナさんが想定通り、前国王様にお嫁に行った人だったのはいいんだけど……
『国王の母親』って職業じゃないよね?
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