上 下
223 / 263
二年目 叔母様来襲

本当の目的

しおりを挟む
「いまだに紹介してもらえないけど、あなたは?」

 眉間にしわを寄せていたのは一瞬のことで、キュウリ婦人は表情を取り繕うと小首を傾げる。
彼女の発言は自己紹介をしろと言うことだろう。
念の為に一応、アスタールさんに視線を向けると、小さく頷き返された。
自己紹介はしていいらしい。

「アスタールさんの元で錬金術を学ばせていただいている、リエラです。……エルドランの領都で育ちました」

 その場に立ち上がり名乗ると、小さくお辞儀をしてから腰掛け直す。
最後にどこで育ったかを追加したのは、さっき話した基礎学校がどこにあるのかを説明する手間を省くためだ。

「そう。ラディとラエルからの手紙で、よく名前が出てくる子ね。とても優秀な子だと聞いてるわ」

 納得したように頷くと、そんな評価を口にする。
そうですか。
アスラーダさんとラエルさんからそんなことが手紙に書いてあるんですか。
……いや、手紙を書くならリエラのことなんかよりももっと別に書くことあるよね?
なんで、二人そろってリエラのことを書いてるの?

「私はこの子達の叔母のラヴィーナ。お仕事は国王の母親よ」

 余計なことを考えている間に自己紹介を終えた彼女は、更に妙なことを口走った。

「……それに、本当に似ているわね」
「へ?」
「ああ、今はそんな話をしている場合じゃないわね」

 リエラが誰に似ているというのか。
気になることを口走るだけで、詳しく説明してくれるでもなく彼女は話のかじを切りなおす。

「エルドランとラブカとの間での領地のやり取りが行われたのは、三十年近く前のことらしいから仕方ないのかもしれないけれど……。基礎学校では経緯も含めた教育もするように指導しなくちゃ」
「それよりも、伯母上。ウガリとの間の山道の話は一体どこから出てきたんだ?」
「ああ、ぶっちゃけていうなら三度にも渡る見合い話を断り続けてメンツをつぶした代償だそうよ」

 いや、それって言いがかりだよね。
ラヴィーナさんも同じことを思っているんだろう。
やや投げやりな口調で、アスラーダさんにそう返す。

「三度? エドゥラーン家からの話は、初耳なのだが……」

 アスタールさんは、そんな言いがかりよりもむしろ『三度に渡る見合い話』の方が気になったらしい。

「あー……学生時代に、長女との婚約話があったんだが流れてる」

 なんと。
アスラーダさんに、一の姫様とのお見合い話があったんだ?
学生時代って言うことは、グラムナードに戻ってくる前ってことだと思うから、アスタールさんが知らなくても仕方がないのかな?

「だとしても、今回のと併せて二回ではないのかね?」
「多分、今回の二人分を二回と数えてるんじゃないかしら」
「なるほど。そもそもが、見合いや弟子入りの話は難癖をつけるための話であって、実際にそれが成立するかどうかはどうでもいいことだと言う訳か」
「そんなところだと思うわ。『そもそもが、開発もなにもされる気配のない山道があっても無くてもグラムナードとしては何の問題もないだろう。むしろ、代わりに管理してやるんだから感謝してほしいくらいだ』ですって。」

 おおう、暴論!
そして、ものすごい上から目線だ。

「いっそ山道を塞いでしまう方が手っ取り早いように感じるのだが……」
「塞いで、その後はどうするのよ?」
「中町と外町を合併して、このカルディアナ山脈の中だけで世界を完結させてしまいたいところだ。そうすれば、煩わしい見合い話ともきっぱりさっぱり縁が切れる」

 いや、アスタールさん。
お見合い話から逃げる為に山道をつぶすのはちょっと、なんであれなんじゃないでしょうか?

「ちょっと、それは困るわ」

 イニティ王国は、鉱物資源をグラムナードの迷宮から得ているって話だったはずだから、確かにそれを手に入れる方法が無くなるのは困るよね。

「こちらとしては別に問題ないのだが……。それならば、いっそ東か西に別の山道を作ってしまうというのはどうかね?」
「あら、それはいいわね!」
「二人とも落ち着け。そうなると今度は、自分のところにないのが不公平だと言い出すのが目に見えているだろう」
「それはあるわねぇ……。ラディ、あなたからはいい案ないかしら?」

 結局、リエラのお腹が大きな音を立てたのをきっかけに、また翌日話し合うことになった。
キュウリ婦人――ラヴィーナさんは、弟子フロアの空き室にお迎えが来るまでの間お泊りするらしい。
王族が弟子部屋でいいのかっていう疑問は感じたけど、下手な宿よりずっと上等な部屋だから問題ないかと思い直す。

 ところでラヴィーナさんが想定通り、前国王様にお嫁に行った人だったのはいいんだけど……
『国王の母親』って職業じゃないよね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様に加護2人分貰いました

琳太
ファンタジー
ある日白い部屋で白い人に『勇者として召喚された』と言われたが、気づけば魔法陣から突き落とされ見知らぬ森の中にポツンと1人立っていた。ともかく『幼馴染』と合流しないと。 気付けばチートで異世界道中楽々かも?可愛いお供もゲットしたフブキの異世界の旅は続く…… この世界で初めて出会った人間?はケモ耳の少女いろいろあって仲間になり、ようやく幼馴染がいると思われる大陸へ船でやてきたところ…… 旧題【異世界召喚、神様に加護2人分貰いました】は改題され2018年3月書籍化、8巻まで発売中。 2019年7月吉祥寺笑先生によるコミカライズ連載開始、コミック1巻発売中です。 ご購入いただいた皆様のおかげで続刊が発売されます。

生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら
BL
【2024/06/01 更新再開しました】 目の前に飛び出して来た高校生を轢きそうになった瞬間、異世界に引っ張られた主人公は、神様のルールに則って異世界に転移する事になった。 今までの生活を振り返り、自分に正直に生きる事を目指すのだが、その境遇に同情し絆された神様たちがくれた加護の相乗効果でセカンドライフは波乱の幕開け? 「親にも捨てられたんだ、誰かの役に立ち続けないと生きることも許されない」 ずっとそういう気持ちを抱え、自身のセクシャリティからも目を背けていた主人公が、実は昔から彼を見守り続けていた神様の世界で幸せになるための物語。 □■□ ●たまに戦闘やグロいシーンがあります。注意喚起※付けます。苦手な方はご注意ください。 ●物語の舞台となる世界の設定上、同性婚でも子供が授かれるようになっています。 ●恋愛&ラブHは第4章92話以降~。 ●作中に出て来るイヌ科やネコ科といった獣人族の分類は地球のものとは異なります。異世界ファンタジーだと割り切って頂けますようよろしくお願い致します。 2022/05/13 タグ編集 2022/05/22 内容紹介編集 2022/06/27 タグ・内容紹介編集 2022/07/03 タグ編集 2022/09/06 タグ・内容紹介編集 2022/09/20 本編タイトル表記統一等調整しました

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

最狂公爵閣下のお気に入り

白乃いちじく
ファンタジー
「お姉さんなんだから、我慢しなさい」  そんな母親の一言で、楽しかった誕生会が一転、暗雲に包まれる。  今日15才になる伯爵令嬢のセレスティナには、一つ年下の妹がいる。妹のジーナはとてもかわいい。蜂蜜色の髪に愛らしい顔立ち。何より甘え上手で、両親だけでなく皆から可愛がられる。  どうして自分だけ? セレスティナの心からそんな鬱屈した思いが吹き出した。  どうしていつもいつも、自分だけが我慢しなさいって、そう言われるのか……。お姉さんなんだから……それはまるで呪いの言葉のよう。私と妹のどこが違うの? 年なんか一つしか違わない。私だってジーナと同じお父様とお母様の子供なのに……。叱られるのはいつも自分だけ。お決まりの言葉は「お姉さんなんだから……」  お姉さんなんて、なりたくてなったわけじゃない!  そんな叫びに応えてくれたのは、銀髪の紳士、オルモード公爵様だった。 ***登場人物初期設定年齢変更のお知らせ*** セレスティナ 12才(変更前)→15才(変更後) シャーロット 13才(変更前)→16才(変更後)

馨の愛しい主の二人

Emiry
BL
瑞峰 柚羽音 ずいほう ゆうね (瑞峰組 調教師兼情報管理担当) 瑞峰 虎龍 ずいほう こりゅう (瑞峰組若頭後に組長になる予定) 瑞峰 馨 ずいほうかおる (元 澤野組の次男) 馨は澤野組の次男として自由に遊んでいたが、ある日 馨の父 澤野組組長から電話で呼び出される その後 裏SM店の店長の彬の息子 柚羽音に引き合わされ 柚羽音のモノになる

虹かけるメーシャ

大魔王たか〜し
ファンタジー
己だけのユートピアを作るために世界征服を企む邪神ゴッパは、 異世界だけでなく地球にまでその手を伸ばそうとしていた。 生物だけでなく、世界そのものを滅ぼしかねない邪神のチカラを目の当たりにした主人公のメーシャは、 その野望を阻止するために龍神のチカラを持つ勇者となり、地球と異世界ふたつの世界を救う旅に出る。

天涯孤独になった僕をイケメン外国人が甘やかしてくれます

波木真帆
BL
日本の田舎町に住む高校生の僕・江波弓弦は、物心ついた時には家族は母しかいなかった。けれど、僕の顔には父の痕跡がありありと残っていた。 光に当たると金髪にも見える薄い茶色の髪、そしてグリーンがかった茶色の瞳……日本人の母にはないその特徴で、父は外国人なのだと分かった。けれど、父の手がかりはそれだけ。母に何度か父のことを尋ねたけれど、悲しそうな顔をするだけで、僕は聞いてはいけないことだと悟り、父のことを聞くのをやめた。母ひとり子ひとりで大変ながらも幸せに暮らしていたある日、突然の事故で母を失い、天涯孤独になってしまう。 どうしたらいいか途方に暮れていた時、母が何かあった時のためにと残してくれていたものを思い出し、それを取り出すと一枚の紙が出てきて、そこには11桁の数字が書かれていた。 それが携帯番号だと気づいた僕は、その番号にかけて思いがけない人物と出会うことになり……。 イケメンでセレブな外国人社長と美少年高校生のハッピーエンド小説です。 R18には※つけます。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。