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二年目 錬金術師のお仕事

誰でも好き嫌いはあるよね

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 アスタールさんのお供二日目の今日は、森の氏族の居住区訪問。
昨日行ったばかりの獣の氏族の居住区を右手に眺めながら、川沿いの道を更に北に向かう。
ヤギとは今日も一戦やらかしたけど、鼻水攻撃は何とかしのいだから、リエラの勝利!

「森の氏族については、何か知っているかね?」
「ルナちゃんにお風呂で聞いた程度ですが……」

 ヤギ車が動き出してしばらくすると、書類を眺めつつアスタールさんが気のない様子で問いかけてくる。
話しながら書類を読むなんて、随分と器用ですね、アスタールさん。
リエラの返事に頷くところを見ると、きちんと内容も耳に届いてるらしい。

「ルナはなんと?」
「森の氏族はアスタールさんたちのおばあ様の出身氏族なんですよね」
「うむ」

 聞いたことを話し始めると、アスタールさんは相槌を打ちながらリエラの声に耳を傾ける。
その様子を確認すると、リエラは昨日、ルナちゃんに教えてもらった事を思い出しながら口にしていく。

 森の氏族は、アスタールさんのおばあ様を先代様に差し出す事によって、箱庭を下賜された氏族だ。
地属性の中でも植物を操る魔法に長けた氏族で、調薬師も多いんだとか。
ちなみに、下賜された箱庭は森の氏族が最も利用しやすいように、深い森とそこそこ広い平原で構成されている。
だから、彼らは箱庭から木材を得たり、森の恵みを収穫して暮らしているらしい。
木材は木工製品として利用されたり、様々な道具の素材になる。
森の恵みは、果物やキノコだけじゃないし、平原では穀物や野菜を育てているそうだから随分な優遇っぷりだよね。

 ついでに、ルナちゃんたちもお母さんがこの氏族。
工房に入る前はセリスさんやルナちゃん達も、この森の氏族の居住区で生活していたらしい。
なので、エリザが調薬を学ぶ為に、毎日通っている場所でもあるという事だ。

「――今日は、箱庭の見学と各種工房の見学のどちらがいいかね?」
「むむむ……。なかなか難しい質問です」

 リエラが口を閉じると、数秒の間があってから質問の言葉がやってくる。
取り敢えず、前知識としては問題がなかったのかな?
その事にはホッとしたけど、『箱庭』と『工房』の見学、どっちがいいかって聞かれると、ちょっと悩んでしまう。

「これからは毎週、同じ順番で各氏族の元を訪れるのだ。最終的にはどちらもくまなく回る事が出来るから、適当に選ぶと良い」
「そっか……」

 散々迷った挙句、今日は箱庭をのぞかせて貰う事に決めた。
理由は、構成がリエラの素材回収所箱庭を彷彿とさせるから。
素材回収所は、平原じゃなくて丘だけど、まぁ似たようなもんだよね。

「じゃあ、箱庭の方で」
「森の氏族は、獣の氏族ほどがっついてはいないだろうが……。念の為、案内には必ず叔父上を着けて貰えるように頼んでおこう。少しは抑止力になるはずだ」

 なんか、不穏なことを言い出したよ。
がっつくって、コンカツダンシの事だよね? きっと。

「がっつくって……。叔父さんって事は、ルナちゃんのお父さんですよね?」
「うむ、ルナたちの父親だ。――切羽詰まっていると言った方が良かったかね?」
「いや……なににがっついて、切羽詰まってるんですか……」
「獣の氏族は、箱庭を所有していない」
「……はい」
「箱庭を所有していない理由は、唯一、先代の寵を得ていないからだと思っているらしい」
「……」

 いやいや、まさか。
アスタールさんならともかくとして、リエラじゃ、先代様の身代わりにはなれないよね?

「それもあって、私のところにも散々、女性をあてがおうとしてきている」
「――何気なく現在進行形なんですね……。もしかして、昨日の人たちってリエラと結婚できたら箱庭がもらえるかもしれないと思っているって事ですか?」
「愚かしい事だ」

 ふぅ――。
後ろで大げさにアスタールさんはため息を吐く気配に、リエラはがっくりと脱力する。

「いやいや。それなら、昨日の事は結婚が難しくなってるってのとは関係ないじゃないですか。なんで昨日は嘘を教えたんですか?!」
「嘘を吐いてはいない。むしろアレは一石二鳥を狙ったのだろう」
「だとしたら二鳥どころか、三鳥くらいは狙ってるような……」
「ふむ……? 嫁・箱庭……もう一つは?」
「子供とか、アスタールさんからの恩寵とか?」
「いまだしつこく女性を宛がおうとする相手に、好意など持つわけがない」
「ソーデスネ……」

 とりあえず理解したのは、アスタールさんが獣の氏族を個人的に好きじゃないらしいって事か。
むしろ昨日、リエラに前情報を与えなかったのは、それが原因――?
って言うのは、穿って考えすぎかな?
森の氏族に対しては、そう悪い感情もないっぽいかな?
昨日と違って、随分と饒舌だし。

 それでも、昨日の事がある。
リエラは遠くに見えてきた森の氏族の居住区を眺めながら、心の中で気合を入れなおした。
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