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二年目 錬金術師のお仕事

ヤギステーキ

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 今年に入ってもう既に4か月目。
夏の三日月に入って、日差しがますます厳しくなってきた。
コンカッセちゃん達の使用期間も今月でおしまいだ。
エリザを除けば、みんな特に何の問題もなくそれぞれの仕事の技量を着々と上げて行っているみたい。
月末には、本採用になるんだろうなと思う。
エリザに関しては……このままだと、セリスさんのご両親のもとで働く事になるのかな?
出来る事なら、同じ工房で働けたらと思わないでもない。
けれどその反面、エリザには彼女自身が自然体でいられる環境にいてほしいとも思う。
これはきっと、リエラのただのわがままなんだろうけど。

 月が替わったことによって、また、リエラの仕事の内容が変化した。
仕事が変わった理由は月が替わったからと言うよりも、アスタールさんに協力すると約束したのが大きいような気がするけど。

 で、一番最初にやる事になったお仕事なんだけど……。

「では、今から牽き具ハーネスを取り付けて見せるから君自身でもやってみてくれたまえ」
「メ”-」

 それは、今、リエラの目の前にいるでっかいヤギをヤギ車に繋ぐ事。
アスタールさんのヤギはでかい。
どの位でかいかと言うと、頭の位置がリエラのはるか上。
むしろ、アスタールさんの頭よりも上の方にある。
イコール、背中の位置もリエラの目線よりも高いところにある訳だ。
正直、大きすぎてめっちゃ怖い……。

 あまりのヤギの大きさに腰が引けているリエラの前で、アスタールさんは慣れた様子で牽き具を着けていく。
なんだかちょっと楽しそうに作業してるのは、アスタールさんが割とお出かけ好きだからか。
ヤギは牽き具を着けられている間中、ずっと大人しくしていたからリエラは少し安心した。

「メ”ェエエエェエ」

 うん。この瞬間まではって言う注釈が付くんだけどね……。
ヤギはどういう訳か、牽き具を着けてもらい終わった途端、リエラに向かってバカにしたように長く鳴く。
バカにされたと感じたのは、鳴きながら顎を持ち上げて目を細めたからだ。
なんか、喧嘩売られてる?!

「――とまあ、この様に装着させるのだが……きちんと見ていたかね?」
「あ、はい! 見てました!!」
「では、一度外すからやってみたまえ」

 アスタールさんはそういうが早いか、手早く、装着したばかりの装具を外してしまう。
そうしてヤギから少し離れてリエラが作業できるように場所を空ける。
リエラはちょっぴり嫌な胸騒ぎを感じながら牽き具の取り付け作業に取り掛かった。
意外な事に、ヤギはひどく協力的で少しもたついたものの、問題なく装着が終了!
作業中に、少しアドバイスはもらったけど、初めてにしては上手にやれたんじゃないかな?

「ブフン」

 と、バカにしたように鼻を鳴らしたヤギに、鼻水をひっかけられるまでは思ってたよ。

「ヤギ、君は少し、おふざけが過ぎるのではないかね?」
「メー」

 勢いよく飛んできた鼻水で頭からびしょぬれになったリエラが呆然としていると、アスタールさんがヤギを叱責しながら『洗浄』の魔法をかけてくれた。
体も服もきれいになったけど、セリスさんがこの間作ってくれたばっかりの狼耳と狼尻尾のおニューの服が!
はなみずまみれに!
ハナミズまみれに!!
鼻・水・ま・み・れ・に!!

「や……」
「や?」
「や……」
「や……?」

 グラムナードの、今日も青く晴れ渡った空に、リエラの怨念のこもった声が響き渡る。

「ヤギステーキにしてやる~!!」
「?!」
「メ”メ”メ”ェエエエェエ!!」
「……リエラ?! ヤギも落ち着きたまえ」

 突然勃発したリエラ対ヤギの戦いに、アスタールさんが珍しく狼狽した声を上げていたけれど落ち着ける訳がない。
最終的には、リエラとヤギの頭上に冷たい水が降ってきて今回の喧嘩は文字通りお流れになったのでした。
認めたくないけれど、実際にはリエラが圧倒的劣勢だったって言うのは腹が立つ。
アスラーダさんに鍛えて貰って次は勝って、この服を汚された復讐を果たしてやると、決意する。
――その決意が実を結ぶ日が来るのかは、どっかの猫神当たりなら知ってるかもしれない……?
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