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二年目 不本意な継承
失言
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どうやら、アスタールさんは先祖様の後を継ぐのが本当にどうしようもなく嫌だったらしく、アスラーダさんが五歳の時に王都に連れ去られた後、何度も逃げ出そうとしたらしい。
脱走に成功した事も何度かあったらしく、それが原因で完全に外に出れない様にされたんだそうだ。
そこで普通なら諦めるんだろうけど、アスタールさんは諦めきれずに色々と方法を探ったらしい。
「散々試行錯誤していた頃に、賢者の石で他の世界の光景を覗くことに成功して、その世界の情報を集め始めたのだ」
「ソコに逃げ出そうと思った訳ですね」
「うむ。そこは、君のような丸耳族しかいない世界の様だったが、なんとか文字を覚えて現地の人間とコンタクトを取る事に成功したのだ」
「賢者の石で、異世界との交流を始めた……と」
「その相手がリリンだった」
――リリンだった。
からの先が長かった……。
そりゃあもう、微に入り細を穿つ勢い。
文字での交流だって言ってたから、彼女とのやりとりっていわゆる文通だよね?
その文通で交わした文章だけに飽き足らず、その時に感じた気持ちやなんやらまで身振り手振りを交えて(!)ひたすらアスタールさんは語り続けた。
途中でセリスさんがお夕飯を運んできてくれたんだけど、それに目もくれないとか、一体どういう事?
リエラ? リエラはちゃんとお礼を言って食べたよ。
お腹も空いてたし。
そもそもが、せっかくお夕飯を持ってきてくれたセリスさんに失礼でしょう。
入ってきたことにすら気が付かないとか……。
セリスさんは話の内容を耳にして苦笑を浮かべてたから、何度も聞いた事がある話なのかもしれない。
とにかく、ひたすら話し続けるアスタールさんに適当に相槌を打つ道具にでもなった気分で頷き続けた。
結局は最終的に要点までいかない内に、時間切れ。
ちなみに時間切れの理由は、アスタールさんがリリンさんとデートをする時間になったからなんだよね。
彼女の住んでる世界には行けないんじゃないかと聞いてみたら、疑似的に会う事はできるんだとか。
……もう、訳が分かんないよ。
そんな、半ば苦行になりかけていたのろけ話が中断されたのは、アストールちゃんを寝かしつけたセリスさんが苦笑交じりに時間を告げたお陰だった。
「アスタール様、もうそろそろ九時になりますよ」
「ああ……、いつの間にかそんな時間か」
執務机の上に置かれた時計草で時間を確認すると、いそいそと腰を上げるアスタールさん。
その様子が妙にウキウキした様子なものだから、リエラは首をかしげる。
だって、ねぇ?
あれだけ楽しそうに話し続けていたのろけ話よりも優先する事って何だろうって思うよね。
「――ああ、今からリリンに会いに行くのだ」
「リリンさんに? 彼女の住んでる世界にはまだ行けないんじゃなかったんですか??」
「彼女の住む世界に『今のままの私』が行く事はできないが、彼女の世界で疑似的に作られた仮想世界にある依り代のようなものに心の一部を降ろすことはできるのだ」
『疑似的に作られた仮想世界』って言うのがどんなものなのか、さっぱり分からなかったんだけど、それを聞いた瞬間にリエラが思った事は考える前に口から飛び出していた。
「疑似的にでも会えるんだったら、もう、それでいいんじゃないですか?」
リエラのその言葉を口にした途端に、室内の空気が凍り付く。
今の言葉がどうやら逆鱗に触れたらしいと理解はしたものの、もう、時すでに遅し。
「……リア充爆発しろ」
永遠にも感じられた――多分、ほんの数舜の沈黙を破ったのは押し殺した呪詛の言葉。
その言葉の意味は分からなかったけど、なんというか、こう妬ましそうな響きの籠った言葉だ。
アスタールさんの目が明確な敵意を込めて向けられていて、リエラは心底震え上がった。
「アスタール様、ダメですよ」
そんな空気をものともせず、セリスさんがアスタールさんの後ろ頭をペチンと叩くと、ほんの一瞬前までの凍り付くような空気が霧散する。
「セリス……」
「そんな顔をしてもダメですよ。『爆発しろ』なんて、可愛い弟子に言うセリフじゃありません」
「だが……」
「アスタール様、『ごめんなさい』は?」
「いや、しかし……」
「『ごめんなさい』は?」
「……」
「『ごめんなさい』は??」
「……すまなかった……」
叩かれた頭を押さえつつアスタールさんがセリスさんに視線を向けると、彼女は腰に手を当てて怒っている事を示しつつアスタールさんと視線を合わせる。
そのあとのやり取りは、まるで小さな子供が悪い事をしてしたのを叱るお姉さんの図だ。
不本意そうな様子を見せながらもリエラに謝るアスタールさんが視線を合わせようとしないのもまた、さらに叱られるのが嫌で謝罪を口にする子供そのもののように見える。
アスタールさんに敵意を向けられたショックで硬くなっていた体からいつの間にか力が抜けていたのは、多分、そんな光景を孤児院でよく見ていたせいだろう。
「こちらこそ、失言しました。申し訳ありません……」
アスタールさんに謝罪を返しながら、自分の言葉の何が彼の怒りを引き出したのかに気が付いて蒼くなった。
リエラのさっきの発言は、アスタールさんが家族以上に近しく思っている相手を諦めろって言ってるのとほとんど同じな挙句、協力したいと自分で口にしたくせに、その協力自体がそもそもいらないんじゃないかって言ってしまっているじゃないか。
そりゃあ、アスタールさんじゃなくても怒るよ……!
昔、スルトと出会ったばっかりの頃にもやってしまったのと同じ事を、更に悪化させた状態でまたやってしまうなんて……。
反省はしたつもりだったけど、身に染みて理解はできていなかったって事なのか。
ひたすら頭を下げ続けたら、アスタールさんもため息を吐きながらではあるものの謝罪を受け入れてくれたけど……。
次にこんな事をやらかさないように、もっと、リエラは自分の心と向き合おうと心に誓った。
脱走に成功した事も何度かあったらしく、それが原因で完全に外に出れない様にされたんだそうだ。
そこで普通なら諦めるんだろうけど、アスタールさんは諦めきれずに色々と方法を探ったらしい。
「散々試行錯誤していた頃に、賢者の石で他の世界の光景を覗くことに成功して、その世界の情報を集め始めたのだ」
「ソコに逃げ出そうと思った訳ですね」
「うむ。そこは、君のような丸耳族しかいない世界の様だったが、なんとか文字を覚えて現地の人間とコンタクトを取る事に成功したのだ」
「賢者の石で、異世界との交流を始めた……と」
「その相手がリリンだった」
――リリンだった。
からの先が長かった……。
そりゃあもう、微に入り細を穿つ勢い。
文字での交流だって言ってたから、彼女とのやりとりっていわゆる文通だよね?
その文通で交わした文章だけに飽き足らず、その時に感じた気持ちやなんやらまで身振り手振りを交えて(!)ひたすらアスタールさんは語り続けた。
途中でセリスさんがお夕飯を運んできてくれたんだけど、それに目もくれないとか、一体どういう事?
リエラ? リエラはちゃんとお礼を言って食べたよ。
お腹も空いてたし。
そもそもが、せっかくお夕飯を持ってきてくれたセリスさんに失礼でしょう。
入ってきたことにすら気が付かないとか……。
セリスさんは話の内容を耳にして苦笑を浮かべてたから、何度も聞いた事がある話なのかもしれない。
とにかく、ひたすら話し続けるアスタールさんに適当に相槌を打つ道具にでもなった気分で頷き続けた。
結局は最終的に要点までいかない内に、時間切れ。
ちなみに時間切れの理由は、アスタールさんがリリンさんとデートをする時間になったからなんだよね。
彼女の住んでる世界には行けないんじゃないかと聞いてみたら、疑似的に会う事はできるんだとか。
……もう、訳が分かんないよ。
そんな、半ば苦行になりかけていたのろけ話が中断されたのは、アストールちゃんを寝かしつけたセリスさんが苦笑交じりに時間を告げたお陰だった。
「アスタール様、もうそろそろ九時になりますよ」
「ああ……、いつの間にかそんな時間か」
執務机の上に置かれた時計草で時間を確認すると、いそいそと腰を上げるアスタールさん。
その様子が妙にウキウキした様子なものだから、リエラは首をかしげる。
だって、ねぇ?
あれだけ楽しそうに話し続けていたのろけ話よりも優先する事って何だろうって思うよね。
「――ああ、今からリリンに会いに行くのだ」
「リリンさんに? 彼女の住んでる世界にはまだ行けないんじゃなかったんですか??」
「彼女の住む世界に『今のままの私』が行く事はできないが、彼女の世界で疑似的に作られた仮想世界にある依り代のようなものに心の一部を降ろすことはできるのだ」
『疑似的に作られた仮想世界』って言うのがどんなものなのか、さっぱり分からなかったんだけど、それを聞いた瞬間にリエラが思った事は考える前に口から飛び出していた。
「疑似的にでも会えるんだったら、もう、それでいいんじゃないですか?」
リエラのその言葉を口にした途端に、室内の空気が凍り付く。
今の言葉がどうやら逆鱗に触れたらしいと理解はしたものの、もう、時すでに遅し。
「……リア充爆発しろ」
永遠にも感じられた――多分、ほんの数舜の沈黙を破ったのは押し殺した呪詛の言葉。
その言葉の意味は分からなかったけど、なんというか、こう妬ましそうな響きの籠った言葉だ。
アスタールさんの目が明確な敵意を込めて向けられていて、リエラは心底震え上がった。
「アスタール様、ダメですよ」
そんな空気をものともせず、セリスさんがアスタールさんの後ろ頭をペチンと叩くと、ほんの一瞬前までの凍り付くような空気が霧散する。
「セリス……」
「そんな顔をしてもダメですよ。『爆発しろ』なんて、可愛い弟子に言うセリフじゃありません」
「だが……」
「アスタール様、『ごめんなさい』は?」
「いや、しかし……」
「『ごめんなさい』は?」
「……」
「『ごめんなさい』は??」
「……すまなかった……」
叩かれた頭を押さえつつアスタールさんがセリスさんに視線を向けると、彼女は腰に手を当てて怒っている事を示しつつアスタールさんと視線を合わせる。
そのあとのやり取りは、まるで小さな子供が悪い事をしてしたのを叱るお姉さんの図だ。
不本意そうな様子を見せながらもリエラに謝るアスタールさんが視線を合わせようとしないのもまた、さらに叱られるのが嫌で謝罪を口にする子供そのもののように見える。
アスタールさんに敵意を向けられたショックで硬くなっていた体からいつの間にか力が抜けていたのは、多分、そんな光景を孤児院でよく見ていたせいだろう。
「こちらこそ、失言しました。申し訳ありません……」
アスタールさんに謝罪を返しながら、自分の言葉の何が彼の怒りを引き出したのかに気が付いて蒼くなった。
リエラのさっきの発言は、アスタールさんが家族以上に近しく思っている相手を諦めろって言ってるのとほとんど同じな挙句、協力したいと自分で口にしたくせに、その協力自体がそもそもいらないんじゃないかって言ってしまっているじゃないか。
そりゃあ、アスタールさんじゃなくても怒るよ……!
昔、スルトと出会ったばっかりの頃にもやってしまったのと同じ事を、更に悪化させた状態でまたやってしまうなんて……。
反省はしたつもりだったけど、身に染みて理解はできていなかったって事なのか。
ひたすら頭を下げ続けたら、アスタールさんもため息を吐きながらではあるものの謝罪を受け入れてくれたけど……。
次にこんな事をやらかさないように、もっと、リエラは自分の心と向き合おうと心に誓った。
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