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二年目 不本意な継承
セリスさんの思い出話 上
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翌日、改めて要点をまとめた上で話してもらう事にしてくれた――セリスさんが。
リエラには既に、その辺のお話を纏めるだけの気力が残ってなかったんだよ。
それにしても、セリスさんが部屋から連れ出してくれた時はホッとした……。
凄く疲れたんだよ、主に精神的に。
「――ビックリしちゃったわよね」
「……?」
アスタールさんの執務室の扉を閉めると、そこに体重を預けながらため息交じりにセリスさんが呟く。
首を傾げるリエラに微笑みかける彼女の表情は、ホッとしたようでもあり淋しそうでもある複雑なモノで、より一層リエラを混乱させた。
「もしリエラちゃんが良かったら、私の話も聞いてもらえるかしら?」
「……はい」
どんなに疲れてたって、セリスさんのお誘いをリエラが断れる訳がない。
特に、こんな風に縋るように見つめられちゃったら尚更だ。
執務室を出た時点で、時間はもう九時を回ったところだったから、セリスさんのお部屋にお泊りするのは確定。
一度部屋に寄って、着替えを持参してから彼女の部屋に向かった。
セリスさんのお話は、案の定というかなんというか、主題はアスタールさんが詳しく話したがらなかった話の補足的なモノ。
「先代様って、凄いスパルタだったんですね……」
「スパルタと言うよりも、むしろ虐待じゃないかしら?」
「……確かに、煎じる為の適温を覚えさせる為に熱湯に手を突っ込ませるのは、スパルタを超えてますね」
その話題の代表が、先代様の元から逃げ出したかった理由について。
セリスさんの補足によると、どうも先代様の指導方法というのも逃げ出したかった理由の一端だったんだろうと言うのが、リエラの感想。
薬草を煎じる事に限らず、どうも命にかかわらない範囲ではそういった『体に覚えさせる』方法での指導が日常的に行われてたらしい。
それなら、執拗に逃げ出そうとする理由も分かるよ……。
リエラに限らず、一部の特殊な性癖の持ち主くらいじゃないかな?
そう言った環境に身を置き続けようと思える人は。
「私が三つか四つの頃ね。……ルナが生まれたばっかりだったから、四つだったかしら? 初めて、アスタール様にお会いしたのは……。父がどこからか連れてきたアスタール様は、ボロボロになったみすぼらしい大人用の服を羽織っただけの姿で、ガリガリに痩せた姿だったものだからビックリして泣いちゃったわ」
その時の事を思い出してか、セリスさんはその綺麗な秋空の色をした瞳を潤ませる。
セリスさんが四歳って事は、六歳年上のアスタールさんは当時一〇歳位か。
大人が近づくと逃げ出そうとするからと、食べ物を運んだり服を渡したりするのはセリスさんがやったらしい。
女の子って、そのくらいの年齢だとお手伝いするのが大好きだから、きっと嬉々としてアスタールさんのお世話を焼いたんだろう。
ちょっと、想像するだけで和む。
「最初の日なんか、なかなか食べようとしないものだから、私が食べちゃって……」
ふふふ、とその時の事を思い出してセリスさんが微笑する。
なんでも、その時のショックを受けたようにビビビと揺れたアスタールさんの耳が面白かったらしい。
今でもビックリするとやるよね、ソレ。
セリスさんの気持ちは痛いほど良く分かるよ。
「その次に持って行ったら、慌てて必死になって食べてたわ。また、私に食べられちゃうと思ったのね」
その、あんまりにも必死な様子を見て笑いだしたセリスさんに、アスタールさんは毒気を抜かれたらしい。
でも、セリスさんを経由すればなんとか大人達とも話が出来るようになった頃になって、とうとう先代様に見つかってしまい、彼が迎えにやってきた。
「父は、アスタール様がどんな環境にいるのか知ってたみたいで……。だから、先代様にアスタール様を渡すまいとしたわ。視線も向けずに、魔力のうねりだけで父を壁にたたきつける先代様は本当に怖かった」
幼いセリスさんと一緒に、クローゼットの中に隠れていたアスタールさんは、震えながら涙を流すセリスさんを一度だけ抱き締めてから、自ら先代様の元に戻って行ったらしい。
自分も、足が震えてたって言うのに。
その後、何日かは優しいお兄ちゃんが怖いおじさんに連れて行かれてしまったと泣き暮らすセリスさんに、彼女のお父さんは難しい話だと前置きをした上で、色々と話して聞かせてくれたらしい。
曰く、怖いおじさんはこの町の生き神様である事。
その生き神様がこの町の全てを支配してる事。
セリスさんの優しいお兄ちゃんは、次の生き神様になる為のお勉強をしてる事。
セリスさん達姉弟は、あのお兄ちゃんがいなかったら次の生き神様候補として、怖いおじさんのところに連れて行かれるはずだった事。
「私だけじゃなく、レイや、ルナがあの先代様の下で育てられる可能性があったって理解できたのは、その事件よりずっと後の事だったけど、理解した時、あんまりだと思った。私達の幸せな生活が、アスタール様の犠牲の下に成り立ってるなんてひどすぎるじゃない」
その事もあって、セリスさんは一二歳になった頃に先代様が亡くなるとすぐに、アスタールさんの下でのお世話役を願い出たんだそうだ。
少しでも、アスタールさんの力になりたいから。
って、それだけの理由で。
リエラには既に、その辺のお話を纏めるだけの気力が残ってなかったんだよ。
それにしても、セリスさんが部屋から連れ出してくれた時はホッとした……。
凄く疲れたんだよ、主に精神的に。
「――ビックリしちゃったわよね」
「……?」
アスタールさんの執務室の扉を閉めると、そこに体重を預けながらため息交じりにセリスさんが呟く。
首を傾げるリエラに微笑みかける彼女の表情は、ホッとしたようでもあり淋しそうでもある複雑なモノで、より一層リエラを混乱させた。
「もしリエラちゃんが良かったら、私の話も聞いてもらえるかしら?」
「……はい」
どんなに疲れてたって、セリスさんのお誘いをリエラが断れる訳がない。
特に、こんな風に縋るように見つめられちゃったら尚更だ。
執務室を出た時点で、時間はもう九時を回ったところだったから、セリスさんのお部屋にお泊りするのは確定。
一度部屋に寄って、着替えを持参してから彼女の部屋に向かった。
セリスさんのお話は、案の定というかなんというか、主題はアスタールさんが詳しく話したがらなかった話の補足的なモノ。
「先代様って、凄いスパルタだったんですね……」
「スパルタと言うよりも、むしろ虐待じゃないかしら?」
「……確かに、煎じる為の適温を覚えさせる為に熱湯に手を突っ込ませるのは、スパルタを超えてますね」
その話題の代表が、先代様の元から逃げ出したかった理由について。
セリスさんの補足によると、どうも先代様の指導方法というのも逃げ出したかった理由の一端だったんだろうと言うのが、リエラの感想。
薬草を煎じる事に限らず、どうも命にかかわらない範囲ではそういった『体に覚えさせる』方法での指導が日常的に行われてたらしい。
それなら、執拗に逃げ出そうとする理由も分かるよ……。
リエラに限らず、一部の特殊な性癖の持ち主くらいじゃないかな?
そう言った環境に身を置き続けようと思える人は。
「私が三つか四つの頃ね。……ルナが生まれたばっかりだったから、四つだったかしら? 初めて、アスタール様にお会いしたのは……。父がどこからか連れてきたアスタール様は、ボロボロになったみすぼらしい大人用の服を羽織っただけの姿で、ガリガリに痩せた姿だったものだからビックリして泣いちゃったわ」
その時の事を思い出してか、セリスさんはその綺麗な秋空の色をした瞳を潤ませる。
セリスさんが四歳って事は、六歳年上のアスタールさんは当時一〇歳位か。
大人が近づくと逃げ出そうとするからと、食べ物を運んだり服を渡したりするのはセリスさんがやったらしい。
女の子って、そのくらいの年齢だとお手伝いするのが大好きだから、きっと嬉々としてアスタールさんのお世話を焼いたんだろう。
ちょっと、想像するだけで和む。
「最初の日なんか、なかなか食べようとしないものだから、私が食べちゃって……」
ふふふ、とその時の事を思い出してセリスさんが微笑する。
なんでも、その時のショックを受けたようにビビビと揺れたアスタールさんの耳が面白かったらしい。
今でもビックリするとやるよね、ソレ。
セリスさんの気持ちは痛いほど良く分かるよ。
「その次に持って行ったら、慌てて必死になって食べてたわ。また、私に食べられちゃうと思ったのね」
その、あんまりにも必死な様子を見て笑いだしたセリスさんに、アスタールさんは毒気を抜かれたらしい。
でも、セリスさんを経由すればなんとか大人達とも話が出来るようになった頃になって、とうとう先代様に見つかってしまい、彼が迎えにやってきた。
「父は、アスタール様がどんな環境にいるのか知ってたみたいで……。だから、先代様にアスタール様を渡すまいとしたわ。視線も向けずに、魔力のうねりだけで父を壁にたたきつける先代様は本当に怖かった」
幼いセリスさんと一緒に、クローゼットの中に隠れていたアスタールさんは、震えながら涙を流すセリスさんを一度だけ抱き締めてから、自ら先代様の元に戻って行ったらしい。
自分も、足が震えてたって言うのに。
その後、何日かは優しいお兄ちゃんが怖いおじさんに連れて行かれてしまったと泣き暮らすセリスさんに、彼女のお父さんは難しい話だと前置きをした上で、色々と話して聞かせてくれたらしい。
曰く、怖いおじさんはこの町の生き神様である事。
その生き神様がこの町の全てを支配してる事。
セリスさんの優しいお兄ちゃんは、次の生き神様になる為のお勉強をしてる事。
セリスさん達姉弟は、あのお兄ちゃんがいなかったら次の生き神様候補として、怖いおじさんのところに連れて行かれるはずだった事。
「私だけじゃなく、レイや、ルナがあの先代様の下で育てられる可能性があったって理解できたのは、その事件よりずっと後の事だったけど、理解した時、あんまりだと思った。私達の幸せな生活が、アスタール様の犠牲の下に成り立ってるなんてひどすぎるじゃない」
その事もあって、セリスさんは一二歳になった頃に先代様が亡くなるとすぐに、アスタールさんの下でのお世話役を願い出たんだそうだ。
少しでも、アスタールさんの力になりたいから。
って、それだけの理由で。
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