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二年目 不本意な継承

宿題

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 お夕飯の後、セリスさんの後片付けを手伝って食堂を出ようとしたところで、アスタールさんが廊下で待ち構えていた。
なんだか、その表情はすごく憂鬱そうだ。
そんなに待っているのが嫌だったなら、呼びつけてくれればいいのに。
大体、用事があるなんて聞いてないし……。
変だなと思いながらも大人しく要件に耳を傾けると、来週の紫月の日までに調べ物をしてくるようにと言うお達しでした。
いわゆる宿題ってやつだよね?
宿題の内容は『グラムナード外の一般社会における魔法』と『グラムナード内の普通』について。

「誰かに教えて貰ってもいいんですか?」
「うむ」
「アスタールさんは教えてくれないんですよね……?」
「私が話すのは、君がきちんと学んできてからにさせてほしい」

 『誰か』に教えて貰うのは良いのに、その『誰か』がアスタールさんじゃいけない理由が分からなかったけど、とりあえず頷いた。
最終的には教えてくれるっぽいから、きっと、何らかの理由があるんだよね?
リエラと別れて自室へ向かうアスタールさんの背中は、今はどこかウキウキして見える。
宿題を出す瞬間に憂鬱そうだったのはなんだったんだか。

 ところで、今、アスタールさんに言われてみて初めて気が付いた。
リエラってば、魔法が魔術学院に入って学ぶものらしいって言う、ぼんやりとした事位しか知らないんだよ。
どうやって学ぶのかもそうだけど、そもそもが、グラムナードに来るまでは魔法を使ってる人を見る機会もなかったのも理由の一つだと思う。
エルドランだと、貴族街には魔法使いが明かりを灯してるって噂があった程度だし……。
あ、後は街道の整備も魔法が使われてるって聞いた事があるかな?
後は、物語の中の人物が使っていたようなモノばっかり。
『グラムナード外』と限定されてるって事は、グラムナードでは違うのか。
別口で『グラムナード内の普通』なんて宿題もある事だし。

 こういうお話を聞くのなら、ラエルさんかスフェーンさん?
まずは明日の魔力操作の講義の後に、ラエルさんから話を聞かせてもらうのがいいかな?
スフェーンさんからはその後で。
アスラーダさんは、王都で育ったとはいえグラムナードの人だから……お二人からお話を聞いた後に聞いてみる事にしよう。


 もう一つの『グラムナード内の普通』も、既に一年以上ここで暮らしてるのにもかかわらず、実はあんまり知らなかったりする。
何せ、基本的にお休みの日もこの工房に籠って魔法薬や魔法具を作ってみる作業に没頭してるからね。
たまーに機材を買いに出掛ける事もあるけど、用事が住んだらすぐに帰ってくるし。
知ってる事と言ったら、グラムナードの民の殆どの人が魔法を使える事と、三〇〇年近い時を生きられるほどに魔力が高いらしいって事。
グラムナードの中町にしろ外町にしろ、知り合いは殆ど工房の中に居る人だけだよ……?!

 あ、アレだ!
探索者ギルドのお姉さま方が居た!!
――でも、お姉さま方はグラムナード内の人じゃないから、今回の場合はノーカウント、かな……?
外の常識だけしか聞けないもんね。
むしろ、それならリエラも知ってる可能性が高いから除外……と。
ああ、『魔法』の方の話だったら、お姉さま方にも聞いてみた方がいいかも。
探索者さん達が使う(かもしれない)魔法の事も教えて貰えそうだし。

 それにしても、中町でグラムナード内の普通そう言ったお話を気軽に聞けそうな相手ってなると、やっぱり工房内の人になるよね。
具体的なところだと……セリスさん、ルナちゃん、レイさん辺り?
セリスさん……は、キチンと教えてはくれそうだけど、むしろ、彼女もリエラと一緒で殆ど工房から出ない人だ。
グラムナード内の常識は知っていても、外の常識が分からない……かも?
ルナちゃんなら外町にもしょっちゅう行ってるし、夕飯の後にお茶に誘えば気軽に色々と教えて貰えるね。
レイさんは……男の人だし、最近はあんまり接触する機会もないので保留、かな。
まずは、ルナちゃんからお話を聞いて、ある程度の基礎知識を得た状態でセリスさんにも教えて貰う事にしよう。
あ、魔法の常識を聞く時に、アスラーダさんにもグラムナード内の常識についても聞いてみた方がいいかな?

 でも、今更なお話かもしれないけど……。
交友関係がほとんどないって、ちょっと一三歳の若い身空でちょっとアレだよね……?

 自分の部屋に戻って、ルナちゃんが今から来ても大丈夫なように軽く中を整えると、リエラはルナちゃんのお部屋に向かう事にした。
善は急げ、だ。
急に誘ってもダメかもしれないけど、その場合は時間が取れそうな日を教えて貰う事にしよう。
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