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二年目 見習い期間

みんな知ってる

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 考え事に没頭しすぎたせいか、気が付いたらエリザちゃんとポッシェの二人が椅子を片付けて部屋を出て行った後だった。
我ながら、集中しすぎ。

「さて、全員終わってからするはずだった話を先にしてまで、彼女には出て行ってもらったんだ。
 ……話せるね?」
「……ハイデス。」

 そういえば、エリザちゃんの前ではまだバンダナをとってなかったな、とこの時になってやっと思い当たる。
なのに、ラエル師の前では取るんだ??


――エリザちゃんにおでこの目を見られたくないのにヘンなの。


 私は、アッシェが殊の外あっさりとバンダナを外すのを見ながら首を傾げた。

「ふぅん……やっぱり。」

 アッシェのおでこの目をじっと目を眇めつつ見つめていたラエル師が、ポツリとつぶやく。

「君のこの瞳は、魔力の要と言ってもいい代物だね……。
 隠したままだと、魔法を使うのは難しいかもしれない。」

 まるで、最初からアッシェのおでこにもう一つ目があるのを知ってたような口ぶり。

「そりゃあ、アスラーダからの報告書にあったからだよ。
 正直なところ、君が多眼族である事は全員が知っているから、隠す理由が分からないね。」

 そう言ってフンと鼻を鳴らす姿は、子供じみた姿でやるとちょっと生意気すぎ。
折角整った容姿なのに、もったいないことこの上ない。
それにしても――

「……多眼族?」

 多眼族って、アッシェの種族の事?
今まで、三つ目族って呼ばれてたと思うんだけど。

「ああ……。
 やっと最近、彼女の種族の名称が定まったそうでね。
 その名称が『多眼族』。
 彼女が住んでたと思われる島にいるのが、三つ目だけとは限らないからとその名称になった。」

 って事は、目が三つあっても四つあっても多眼族でひとまとめにしちゃおうって、そういう事かな?
随分とアバウトな感じ。

「ほぇー……そうなのです?」

 一方で、そう区分されることになった本人はどうでも良さそうな反応。

「他人事?」
「だって、そうですよー。
 種族が何て呼ばれたって、アッシェはアッシェなのです。」
「……確かに。」

 そうなんだけどね、なんかこー、もうちょっと何か反応ないのかな?
そう思いながら、ジト目でアッシェを見つめてると、彼女は不意に真面目な顔になってラエル師に向かって問いを放つ。

「それよりも大事な事なのです。
 この工房の人ってみんな、アッシェのおでこの目の事を知ってるのです?」

 そう言えば、アッシェがバンダナを着けたままにする事にしたのって、アスタール師に注目されたくないからだったっけ。
アッシェの『女神様』が、アスタール師の元に現れるまでの間、目立たず地味に潜伏するって言うのが彼女の作戦だったんだよね。

「君たちと一緒にきたエリザ君は知らないようだけど、他の者はみんな知っているね。」
「……無駄な努力だった。」
「おおう……。」

 ラエル師の返答に、私がとどめを刺した形になってしまって、アッシェがガックリと肩を落とす。

「実際問題、妙な人間もいるからね。
 工房の外で隠しておくの自体は悪い事ではないけれど、修行の時は邪魔になるから外すように。」
「了解なのです……。」

 本人的には嫌で仕方ないものを必死の思いで身に着けてたのに、それが無駄だと聞かされた脱力感からか暗い表情でアッシェは頷く。

「後……」
「まだあるのです?」
「アッシェ君はここで生活するのにあたって、アスタール君に対する敵愾心をキチンと隠すべきだね。
 本人は周囲に関心がないから流しているけれどね……。
 今のままの態度を続けてるなら、早晩追い出されることになる。」

 まだ続くのかとゲンナリした様子のアッシェだったけど、ラエル師の言葉を聞いて顔をひきつらせる。

「彼は、この地の人間にとっての信仰対象だから。
 それを頭に入れて行動すると良い。
 本音を隠すのは、得意、だよね?」

 ラエル師の顔に浮かべられた温度のない笑みを自分に向けられたわけでもないのに、背中を冷たい汗が流れて行く。

「ラエル師、ご忠告痛み入るです。」

 そう口にするアッシェの顔にも、同じような笑みが浮かぶ。
その後、二人は暫くの間そうやって温度のない笑顔を交わし合い、私を散々怯えさせてくれた。
笑顔って、気持ちを暖かくさせてくれるものだとばかり思ってたんだけど、そうじゃない物もあるんだなんてはじめてしったよ。
あー……こわかった……。
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