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二年目 いざ、グラムナードへ!

商隊とのお別れ

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 八日にも及んだ商隊との旅も、今日が最終日。
正確には、あと数時間後にエルドランの町に着いたらおしまい。

「長かったような、短かったようなって感じなのです。」
「結構、山賊って沢山いるもんなんだね。」
「同感。」

 この八日の間にあった山賊の襲撃は、なんと四回。
二日に一度はあった計算になるんだけど、こんなに沢山の山賊が存在するなんて思わなかったよ。
ひどい時は夜明けと夕刻との二回なんて日もあったし。
普段はここまで多くないんだって、オーバンさんは言ってたんだけどね。
アッシェが言うのには、どうも半分は世にも珍しい『三つ目族の娘っ子』を狙っての襲撃だったらしい。
……標的、アッシェじゃん。
やっぱり、もっと早くにバンダナでおでこの目を隠しておくべきだったんだなと改めて思ったのは仕方ないと思う。

「エルドランが見えてきたぞー!」

 前を行く馬車の方からそんな声が聞こえてきたのは、それから一時間くらい後の事。
私達は顔を見合わせると、後ろの幌を跳ね上げて向かう先を少しでも見ようと身を乗り出した。





 エルドランの町を囲む防壁は、なんだかとってもゴツゴツとしたイメージ。
暗い色の石材を積み上げて作られたソレは、フレトゥムールの町を囲う白い壁を見慣れてた私にはとっても威圧感があるように見える。

「フレトゥムールの町とは、随分と違うのです。」
「ん。」

 アッシェも私と同じ感想を持ったらしい。

「……頑固なおじさんみたいだね。」
「ソレです。」

 ポッシェの喩えは私達がイメージしたモノを人に置き換えた感じ。
言いえて妙すぎたもんだから、思わず笑っちゃう。

「そしたら、フレトゥムールの町はどんな喩えになるんだ?」

 ポッシェにそう訊ねたのはオーバンさん。
さっきの喩えも彼のツボにはまったみたいで、私と一緒に笑ってる。

「んー……、肝っ玉かーちゃん?」
「ぶは!」

 少し、悩んでからポッシェ返した返答は、更にオーバンさんのツボにハマっちゃったみたい。
ゲラゲラと笑いだしたその声がうるさいと、荷馬車を牽く馬が不機嫌そうに嘶く。

「なんでかーちゃんなんだよ!」
「だって、守ってもらえそうじゃない?」

 笑いすぎて、目尻に涙をためたオーバンさんがそんなツッコミを入れたのは、随分とエルドランの町が近づいてきたころの事。
そうして返されたポッシェの言葉に、また彼は大笑いしちゃうとか。
オーバンさんって、結構笑いの沸点が低いのかも。





 その晩は、商隊の人達と同じ宿に泊まる。
宿泊料は素泊まりで三千ミル。
道中の一日当たりの金額とあんまり変わらない。
やっぱり、随分と負担を掛けちゃったんじゃないかと恐縮する私達に、大都市だから宿泊料も高いんだと説明してくれたけど……。
本当か嘘かは判別が出来なかったけど、有難くその言葉を受け取る事にする。

 今日の晩御飯は、宿の食堂じゃなくてご近所にあるって言う、美味しいと評判の酒場。
私達は、初めての酒場体験。

「未来の、魔道具師と調薬師に乾杯!」
「かんぱーい!!!」

 商隊の隊長さんであるアメデさんの音頭にあわせて、エールの入ったジョッキが一斉に高く掲げられ、今日まで一緒にやってきたおじさん達が同時に唱和する。
みんな、息がピッタリ。
長く一緒に行動してきてるからかな?
私達も、一瞬遅れてジュースが入ったコップを掲げた。

 これは、私達の為に開いてくれたお別れ会。
商隊のみんなはこの町で1週間くらい滞在するし、私達も、もう一日宿をとって明日は一日のんびりする予定。
だけど、一緒に居たのは一週間と少しだけど、これから更に遠くに行く私達を励ますために……なんて言われたら、断る事なんてできないよね。
でも、その後にアメデさんが

「将来、錬金術工房で一人前になったら是非、安く仕入れさせてくれよ!」

なんて言い出すもんだから、思わず笑っちゃったけど。
きっと、その言葉の半分は本気だと思う。
残りの半分は、「頑張れよ」って言う激励かな。
精進しよう。
いつか、「本当にこんなにすごい魔道具師になるとは思わなかった。」って言われることが出来るように。
きっとそれが、一番の恩返しになる。


――いい人達と旅が出来て良かったなぁ……。


 なんて、思わず感慨深く感じちゃったり。


――ああ、なんか目の前がゆがんで良く見えないな。


 きっと、この酒場に人が多いからちょっと熱いのかもしれない。
いわゆる蜃気楼的なヤツ。

「あー……、もう、コンちゃんてば感動屋さんすぎなのです。」

 なんて言いながら、アッシェがハンカチで目のあたりを拭いてくれると一瞬だけ視界が晴れるのはきっと気のせい。
うん、間違いない。
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