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婚礼

750日目 妊娠促進剤

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 翌日の夜にはセリスさん達がグラムナードに戻り、私はその翌日、アトモスへの帰路についた。
アスタールさんの『知識の図書館』から手に入れた情報を元に、帰りついてから、『妊娠促進剤』の作成を館の実験室で行った。手に入れた情報には、作り方から処方の仕方、更には副作用まで仔細に記されていたのだ。
『避妊薬』は、少し特殊な材料が必要な為すぐには作れなかったものの、『妊娠促進剤』の方は割と初期に用意した組み合わせで作成する事が出来ると言う事が分かって、正直なところかなり凹んだ。
なんというか、調薬する為の手法が間違っていたのが原因で、完成に至れていなかったのは痛恨のミスだったと思う。あと一歩だったのか……。
そうして今、手の平の上にある仄かに白く光る錠剤を転がしながら思案する。
この薬の消費期限はとても短く、作ってから、24時間ほどしか効果が持続しないのだそうだ。
それは、生の素材を使っている事に由来していて、『高速治療薬』を入れる為に作ったような容器ではその効果を維持する事は出来ない。
使用方法は……ゲフンゲフンゲフン。
未婚の女性が口にするのが憚られる方法だ。
そして、副作用としてはなんというか、エッチな気持ちになるらしい。
突発的に作ってしまったから、特に誰に渡すとかは考えていなかったんだけど、これはお蔵入りにしようかと思っていると、実験室の戸が叩かれる。

「リエラちゃん、もう、遅いからそろそろ休んだ方がいいんじゃないかしら?」

 戸を開けると、被験者候補第一号のミーシャさんが立っていた。
うーん……。
タイムリー。
私が空の長旅から帰って来て、疲れているのではないかと心配して様子を見に来てくれた彼女を見詰めながら、『どうしようか。』と考える。

「どうしたの?」

 チョコンと首を傾げる彼女に合わせるように、私も一緒に首を傾げる。

「……どうしようかと思って。」
「何を??」

 再び反対側へチョコン。
ミーシャさん、めちゃくちゃ可愛い。
首を傾げる度に、兎耳もゆらゆらと揺れた。
ふと、彼女の視線が私の手の上でほんのり光る錠剤に移る。

「それ、なぁに?」

 目を瞬いて、良くそれを見ようと身を乗り出してくるのに、思わず後ずさる。
いや、なんというか。
この薬を作ろうと思った経緯を考えて……ちょっと怖くなったんだ。
薬を完成させてから気付くのは遅すぎると思うんだけど……。
これはかなり、余計なお世話だったんじゃないかと、改めてミーシャさんの顔を見た瞬間にそう思ってしまった。
だって、嫌だよね……。
養女に『子供が出来ない』事を変に気遣われるなんて。
それに……、この薬を使ったからと言って、必ず子供が授かる訳でもないんじゃないかと思う。
もしそうなら、同じ様に出産率の下がっているグラムナードで、もっとおおっぴらに使っていても良い筈なのに、そうじゃないし。

「その……これは……。」

 何と説明していいのか分からなくなってしまい、目を逸らして口ごもる。
悪い事をするつもりがあった訳じゃないけど、なんだか後ろめたい。

「新しいお薬?」
「……まぁ、そうです……。」
「なんだかとっても嬉しそうに実験室に走って行ったから、グラムナードで新しいお薬を覚えてきたのかと思ったんだけど、やっぱりそうだったのね。」

 彼女がそう言って無邪気に笑うので、とうとう私は自分の手にしたものの正体を彼女に白状した。
ミーシャさんは私の話を聞き終えると、目を丸くして、それから頬をほんのりと赤らめて嬉しげに微笑んだ。

「実は……アッシェちゃんから、リエラちゃんがその……そう言うお薬を研究してるって聞いてたから、もしかしたらって思って気になって見に来ちゃったの。」

 彼女はそう言うと、恥ずかしげに頬を両手で挟んではにかみつつ俯く。

「アッシェから……。」


あの子は、また覗き見してたのか……。


 彼女の思考の盗み見をするクセも、何とか矯正しないといけないなと思いながらも、そんな事はしないでも大丈夫かなとも思う。一応、話す事と黙っている事の選別はきちんとしているみたいだし。
なにはともあれ、是非使ってみたいと言うミーシャさんには、調合したばかりの妊娠促進剤の使い方やらなんやらを説明して、武運を祈りつつ部屋に戻っていくのを見送った。
成果があっても無くても、数ヶ月は分からないんだろう。

「ああ……。」


なんか、研究内容がが筒抜けになっているのを知らなかったせいで、余分な事を考えて疲れたな。


「取り敢えず、寝るか。」

 ポツンと呟いて、自室に向かう。
お布団にもぐりながら、アッシェに明日になったら文句を言ってやろうと心に決める。
せめて、ミーシャさんが実子を欲しがっているって言う事だけでも、教えておいて貰いたかった。
そうすれば、出来上がってから渡すのに変な躊躇をしないで済んだのに。
……ちょっと、八つ当たりっぽいなと自分でも思ったところで睡魔さんがやってきた。
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