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逃走植物と虫の森

420日目 魔法具技術交流会

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 折角、昨日の晩にアスラーダさんが帰って来たというのに、今日は商工会議所で魔法具工房の技術交流会をやる予定の日だった。
交流会が終る時間に彼はもう、王都に帰ってるんだなぁと後ろ髪を引かれながら、必要な道具を手にコンカッセ達と現地に向かう。そうそう、その道中でトーラスさんの館に寄ってアルンも連れて行く事になっている。彼女には魔法具の作り方はまだ教えていないものの、魔力操作が出来るようにさえなれば一応簡単なものなら作れるからね。こういう場に参加するのも勉強の内だ。
アッシェは、『魔法具はコンちゃんに任せるですぅ』と言って不参加。
まぁ、彼女の場合は既に自分の方向性を決めてしまっているから本人の意向に沿う事にした。
 交流会に参加する事になっているのは、マーティン魔法具工房のマーティンさんとそのお弟子さん3人と、トゥルマ錬金術工房の魔法具担当者10人。そこに私・コンカッセ・フィフィの3人と、見学でアルンが来る形だ。
 フィフィは売り子としてウチの工房で働いていたんだけど、今年からコンカッセの元で魔法具の作成を勉強し始めていて、魔力石に『微風』やなんかの簡単な魔法なら封じられる様になっている。魔力もいい感じに育ってきていて、風の属性石を作ったり初歩の魔法を封じる位なら多分、100個近くは問題なくやれるんじゃないかな?
結構有能なお姉さんだと思う。
 ちなみに『微風』の魔法は単体だとちょっと微妙なんだけど、魔法具に組み込む事によってコンカッセの作る『涼気』の魔法具がパワーアップした。
といっても、『涼気』を『微風』で部屋の中を循環させると良い感じに涼しくなるってだけなんだけど、この夏一番のヒット商品になってる。
 今回の交流会ではは、そう言った1人じゃ出来ないけど、力を合わせたら出来ちゃうかも?
的な商品開発を皆でしようと言う会だ。
実り多い会になると良いなぁ。



「冬の鉄板は、コンカッセさんのとこの『涼気』循環器を『暖気』循環器にしたやつでしょー!」
「これは間違いないよなぁ~!」
「でも、それだけだとつまらない。」

 交流会では、トゥルマ錬金術工房の若い人達がコンカッセを囲んで大盛り上がりだった。
同じ魔法具を作る、成人したての美少女に彼等は大興奮だ。
年が明けてから開店したトゥルマ錬金術工房は、今年スフィーダ魔法学園を卒業した人達が出資し合って作ったお店だ。そのせいもあって、構成員はみんな若い男性ばっかり。確か、18~24歳だったかな。
開店時の挨拶にも来たらしいんだけど、代表のガウディーノさんって人だけで回ったそうで、私達と彼等が顔を合わせたのは半年たった今日が初めてだった。

「あと、カップに『保温』かけるやつも、凄いっしょー!」
「アレはもう、定番。」
「コンカッセさん、いっそ俺の嫁になって下さい!」
「間にあってる。」

 そうでなくても、創造神様と同じ髪色だという銀髪で顔立ちも整っている彼女は人目を引く。
どうも、そんな可愛い子が自分達と同じものを作る同志だと、そう思って尚更盛り上がっているらしい。
盛り上がられている本人は、至極不機嫌だけど。

「魔法具師の女の子は少ないからねぇ……。」
「見習いだけど、私も魔法具師なんだけどなぁー。」

 マーティンさんの苦笑混じりの言葉に、フィフィが口を尖らせた。
丸耳族で茶髪に新緑色の瞳の彼女は、良くも悪くも普通の容姿だと思う。
愛嬌のある笑顔がとっても魅力的なんだけど、男性とは縁遠いらしい。
 それにしても、これじゃぁ技術交流会にはならないなぁと苦笑いしていたら、同じ様に感じていたらしいマーティンさんが仕切り直してくれた。
良かった、放置されている女子の立場で同じ事をやろうとすると、妙な反感を買いそうで口出しが躊躇われたんだよね……。大勢の年上男性に睨まれるのは怖いし。

「コンカッセ嬢が素晴らしいのは確かですが、その話はまた後日と言う事にしましょう。
今日はアトモス村で初めて魔法具技師が集まっての、この村の特産品ともいえる魔法具を開発するための交流会です。商品について話し合おうじゃありませんか。」

 彼のその言葉で、コンカッセの周りに集まっていた彼等もハッと我に返ってくれたらしい。
ちょっと気まずそうにしながらだけど、やっとそれぞれが席に着いた。
 最初はちょっとぎこちなかった物の、一旦話し合いの方にスイッチが切り替わると盛んに意見の交換が行われ出す。良い感じ。
要所要所で、マーティンさんが軌道修正をしながらの交流会が終る頃には一つ成果があった。

 翌週、その成果品の販売が始まると思ったよりも評判が良く、月末には全員で祝杯を上げる事になった。

新商品
風のカーテン
暖簾の様に入り口の上に渡して使用する魔法具。
魔力石がある間は常に下に向かって緩やかな風が流れて、外気の浸入を防ぐ。

お値段 50000ミル
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