上 下
87 / 200
逃走植物と虫の森

420日目 どうやって?

しおりを挟む
 久しぶりに見たアスラーダさんの姿に我を忘れて大騒ぎしてしまったせいで、まだ寝ていなかったらしいアッシェがやってきてしまって、2人で抱き合ってるのをがっつり見られてしまった。

「……ごゆっくりですぅ」

 ニヨニヨしながら、彼女はさっさと退散したので今は2人きりなんだけど……。
アッシェに見られてしまったことで頭が冷えてしまった私には、なんというか、今の状態はなんとも恥ずかしい……。
そーっと、床に視線固定したまま彼から離れようと試みると、ヒョイと横抱きに抱えあげられてしまった。

「にゃぁぁああ?!」
「他のは寝ている時間だろう?」

 思わず上げてしまった奇声に彼は肩を震わせながら、小声で私の声の大きさを窘めた。
口調から、からかっているのは分かったものの、あんまりだと一応抗議を試みる。

「そんなの、アスラーダさんのせいでしょう? いきなり抱き上げたりなんかするから変な声がでちゃうんだよぉ……。」
「悪かった悪かった。」
「そう言いながら、口元が緩んでいたんじゃ誠意が感じられません。」

 抗議をした上で、頬を膨らませて睨みつけて見たものの、本気で怒ってる訳じゃないと分かっているらしくてアスラーダさんは堪えた様子もない。怒っているふりも馬鹿らしくなってきて、彼に運ばれるまま、2人して居間のソファに落ち着いた。

「膝から降りる権利を主張します。」
「却下。」
「この体勢じゃ、落ち着いてお話ができないよ?」

 お願いの言葉は聞こえなかった事にされたらしく、彼は私を膝の上に抱えたまま降ろしてくれる気配は無い。久しぶりに会えたと思ったら、リエラをクッション代わりにされるのかと思いつつ、ため息混じりに諦めることにした。

アスラーダさん。
いくら久しぶりとはいえ、ちょっと距離が近過ぎるよ……?

「それで、ため息の理由は?」

 私の髪に顔を埋めながらの質問に、どう答えたものかと悩んだ物の、結局ラエルさんにしたのと同じ内容を話す事にした。ちょっと話が長くなるけど、明日は休日だから夜更かしになってもいいだろう。
と、そこまで考えて、ふと気が付く。

「それより、アスラーダさんはどうやってこんな時間にここまで来たんですか。」
「え?」
「それに、さっき一緒に居た男の子はどこにいったの?」
「炎麗の事か?」
「…………アスラーダさん。やっぱり、こういうのはきちんと互いの情報を交換してからにさせていただけませんか?」
「仕方ないな……。」

 改まった口調でそう要求すると、渋々とではあるもののやっと彼の手が私から離れた。
膝から降りて正面に座り直すと、なんだかむくれている。
子供じゃないんだからと吹き出しそうなのを堪えるのに苦労した。

「さて、順番を追ってお伺いしたいんですが……。」
「ああ。」
「王宮にお勤めした筈のアスラーダさんが、今ここに居られる理由と……いつまで居られるか、からお願いします。」
「王宮での部署が本決まりになって休みが確定したから、炎麗にここまで飛んで貰って来た。
明日は休みだから、夕方までは居られる。」

はて?
炎麗ちゃんって、アスラーダさんと一緒に飛べる程大きくなかったよね?
少なくとも、3か月前は肩乗りサイズだったはず。

 首を傾げると、アスラーダさんはふてくされたふりをするのをやめて説明を追加してくれた。

「先月、炎麗の1次成長が来たんだ。」
「1次成長ですか?」
「ああ。大人になる1歩前なんだそうだが、そのせいで急に大きくなった上に人型もとれるようになったんだ。」

 そう言って、さも当たり前のことのように説明してくれたけど、前に説明聞いた事があったっけ……。
まぁ、忘れたのかもしれないな。
正直なところ、竜人の生態に興味はあんまりないし。

「なにはともあれ、配属先が決定して良かったです。随分とお仕事が忙しいみたいだったから、心配してたんだ。」

 王宮にお勤めを始めたばかりの頃、騎乗ウサギを届けた時に王都のお屋敷に泊まった時にも殆ど会えなかった事を思い出しつつそう口にすると、少し彼の目元が和んだ。

「配属先によっては、激務の部署もあるからな。新任でいきなりそういう部署からだったから、結構きつかった。」
「朝しか会えませんでしたものねぇ……。」

 互いに、その時の事を思い出して苦笑を交わす。
それから、彼は表情を引き締めて私の方の近況を訊ねてきた。

「実は……。」

 彼に対して隠す様な事は特にないと判断した私は、グラムナードから戻った後にあった事を、出来るだけ簡潔に説明し始めた。
しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

処理中です...