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動き出す運命
★決め事
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意を決して行った謝罪は苦笑混じりの、「了解。」のただ一言で終った。
それを伝える事によって、リリンに軽蔑されるのではないか?
嫌われてしまうのではないだろうか?
もしも、彼女に嫌われてしまったら、私はどうしたらいいのだろうと怯えながらも、決死の覚悟で口にした言葉だったのに。
実は、もうすでに彼女には見限られてしまっているのではないだろうかと、目の前が暗くなりかけた。
「アル。ちょっとだけリエラちゃんと2人で話したい。」
だから、席を外して?
言外にそう言っているのが、流石の私にも理解出来た。
その時に、彼女がエスキモーのキスをしてくれていなかったのなら、膝から崩れ落ちてしまっていたかもしれない。
そうならなかったのは彼女の目の中に、私を心配する色が見えたからだ。
ただ、リエラと話をしたい案件と言うのが、私には聞かせたくない物だと言う事は容易に想像が付いた。
そうでなかったら、私を同席させた方が話が早いのだから。
彼女とリエラの話し合いは随分と長引いた。
暇つぶしに始めた釣りも、いい加減飽きたなと思い始めたところでやっとリリンが迎えに来て、私の釣果を確認しながら、「何を作ろうか~?」と暢気に訊ねてくる。
「君の手料理なら何でも。」
「お寿司とお刺身は食べれなかったのに?」
「ナマはちょっと……。」
私の答えに、少し意地悪く笑いながら返して来た料理の名前を聞いて、思わずうめき声が漏れた。
生の魚は、ちょっと怖い。
「なめろうでも作って、アルの分はハンバーグ風に焼いてあげる。」
「ああ。アレは美味だ。」
前にも作ってくれた、アジのなめろうバーグを思い出して思わず頬が緩む。
アレなら、パンに挟んでも美味しかった。
「結構、長くやってたから飽きたでしょ。帰る?」
「君が隣に居てくれるなら、もう少し続けても良い。」
「……じゃ、少しだけ私も一緒にやるかな。」
そう言うと、彼女も釣竿を取り出して海に糸を垂れる。
寄り添い合って、アタリが来るのを待つこの時間を私がこの上なく愛しているのを彼女は知っているのだろうか?
暫く、心地よい無言の一時を楽しんでから、手を繋いで家への短い距離を移動する。
「ルールを決めようか。」
その途中で、不意にリリンが沈黙を破る。
「ルール……?」
「『のぞき見』の。」
「……決まりを作るだけで良いのかね?」
「絶対に見るなって言われたら、聞くの??」
正直に、決まり事を作っただけで彼女が納得できるのかと疑問に思ったのだが、それに対する返答に、ぐぅの音も出ない。
『絶対に見ない』と言う約束をしたとしても、きっと守る事は出来ないだろう。
そもそも、『彼女の視界を共有する』事によって、あちらに行く時の目標地点の指標を得る為にはまるで見ないと言うのは約束できない。
「確かに、約束する事は出来ない。」
「だよね。」
「君は、それで良いのかね?」
「いつ見られるのか分からないのも、着替えやお風呂を覗かれるのも勘弁して。」
「……。」
「エッチ。」
「つい……。」
切り口上で告げられたソレは、実際にやってしまった事だった。
しかし、敢えて言おう。
あの光景を見ることが出来たのは、至福の時であったと!!!
……今、彼女から氷の様な眼差しを向けられることがなかったのならば、だが。
それでも、反省はするが後悔はしない。
「また、アホな事考えてるでしょ。アルのエッチ。」
ジト目で膨れる彼女には、筒抜けだ。
「うむ。反省はする。」
「どうだか。」
そう言いながら、大きくため息を吐いて彼女は言葉を繋ぐ。
「とりあえず守って欲しいルールは、お風呂や着替えの時と寝ている時は見ない事。」
「……善処する。」
「厳守して。」
「……出来るだけ。」
「画面を最小にする事!」
「……。」
「返事は?」
「……。」
「へ・ん・じ・は?」
「……ハイ。」
なんとか譲歩を引き出せないかと粘って見たが駄目だった。
これ以上、彼女を怒らせたくなくて渋々ながら了承の返事をする。
どうせなら、偶然と言う事にしてまた見たかった……。
現物で見ることが出来ないのだから、少し位、とついつい思ってしまうのだ。
「後ね……」
ルール云々の話は、それで終わったのかと思いきや、まだ追加があるのかと身構えたものの、声音の調子が少し違う事に気が付く。
先刻までの、必ず呑ませると言う雰囲気は無く、言うかどうかを躊躇う様に一拍置いて、彼女が口にしたのは今まで選択肢に載せた事の無かった言葉。
「アルが、私の世界に執着しているのは、今となっては私だけが目的じゃないと言うのは分かってる。
でも、万が一。何か不測の事態が起きた時には……私をそっちに連れて行く事も考えておいて欲しい。」
それを伝える事によって、リリンに軽蔑されるのではないか?
嫌われてしまうのではないだろうか?
もしも、彼女に嫌われてしまったら、私はどうしたらいいのだろうと怯えながらも、決死の覚悟で口にした言葉だったのに。
実は、もうすでに彼女には見限られてしまっているのではないだろうかと、目の前が暗くなりかけた。
「アル。ちょっとだけリエラちゃんと2人で話したい。」
だから、席を外して?
言外にそう言っているのが、流石の私にも理解出来た。
その時に、彼女がエスキモーのキスをしてくれていなかったのなら、膝から崩れ落ちてしまっていたかもしれない。
そうならなかったのは彼女の目の中に、私を心配する色が見えたからだ。
ただ、リエラと話をしたい案件と言うのが、私には聞かせたくない物だと言う事は容易に想像が付いた。
そうでなかったら、私を同席させた方が話が早いのだから。
彼女とリエラの話し合いは随分と長引いた。
暇つぶしに始めた釣りも、いい加減飽きたなと思い始めたところでやっとリリンが迎えに来て、私の釣果を確認しながら、「何を作ろうか~?」と暢気に訊ねてくる。
「君の手料理なら何でも。」
「お寿司とお刺身は食べれなかったのに?」
「ナマはちょっと……。」
私の答えに、少し意地悪く笑いながら返して来た料理の名前を聞いて、思わずうめき声が漏れた。
生の魚は、ちょっと怖い。
「なめろうでも作って、アルの分はハンバーグ風に焼いてあげる。」
「ああ。アレは美味だ。」
前にも作ってくれた、アジのなめろうバーグを思い出して思わず頬が緩む。
アレなら、パンに挟んでも美味しかった。
「結構、長くやってたから飽きたでしょ。帰る?」
「君が隣に居てくれるなら、もう少し続けても良い。」
「……じゃ、少しだけ私も一緒にやるかな。」
そう言うと、彼女も釣竿を取り出して海に糸を垂れる。
寄り添い合って、アタリが来るのを待つこの時間を私がこの上なく愛しているのを彼女は知っているのだろうか?
暫く、心地よい無言の一時を楽しんでから、手を繋いで家への短い距離を移動する。
「ルールを決めようか。」
その途中で、不意にリリンが沈黙を破る。
「ルール……?」
「『のぞき見』の。」
「……決まりを作るだけで良いのかね?」
「絶対に見るなって言われたら、聞くの??」
正直に、決まり事を作っただけで彼女が納得できるのかと疑問に思ったのだが、それに対する返答に、ぐぅの音も出ない。
『絶対に見ない』と言う約束をしたとしても、きっと守る事は出来ないだろう。
そもそも、『彼女の視界を共有する』事によって、あちらに行く時の目標地点の指標を得る為にはまるで見ないと言うのは約束できない。
「確かに、約束する事は出来ない。」
「だよね。」
「君は、それで良いのかね?」
「いつ見られるのか分からないのも、着替えやお風呂を覗かれるのも勘弁して。」
「……。」
「エッチ。」
「つい……。」
切り口上で告げられたソレは、実際にやってしまった事だった。
しかし、敢えて言おう。
あの光景を見ることが出来たのは、至福の時であったと!!!
……今、彼女から氷の様な眼差しを向けられることがなかったのならば、だが。
それでも、反省はするが後悔はしない。
「また、アホな事考えてるでしょ。アルのエッチ。」
ジト目で膨れる彼女には、筒抜けだ。
「うむ。反省はする。」
「どうだか。」
そう言いながら、大きくため息を吐いて彼女は言葉を繋ぐ。
「とりあえず守って欲しいルールは、お風呂や着替えの時と寝ている時は見ない事。」
「……善処する。」
「厳守して。」
「……出来るだけ。」
「画面を最小にする事!」
「……。」
「返事は?」
「……。」
「へ・ん・じ・は?」
「……ハイ。」
なんとか譲歩を引き出せないかと粘って見たが駄目だった。
これ以上、彼女を怒らせたくなくて渋々ながら了承の返事をする。
どうせなら、偶然と言う事にしてまた見たかった……。
現物で見ることが出来ないのだから、少し位、とついつい思ってしまうのだ。
「後ね……」
ルール云々の話は、それで終わったのかと思いきや、まだ追加があるのかと身構えたものの、声音の調子が少し違う事に気が付く。
先刻までの、必ず呑ませると言う雰囲気は無く、言うかどうかを躊躇う様に一拍置いて、彼女が口にしたのは今まで選択肢に載せた事の無かった言葉。
「アルが、私の世界に執着しているのは、今となっては私だけが目的じゃないと言うのは分かってる。
でも、万が一。何か不測の事態が起きた時には……私をそっちに連れて行く事も考えておいて欲しい。」
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