上 下
56 / 80
初めての?共同作業

★だらだらしたい

しおりを挟む
 リリンを丸めこんで、家の名前を『愛の巣』に確定させた私はすっかりご機嫌だった。
『愛の巣』!!!
何と甘美な響きなのだろう?
2人の名前を入れるのも捨てがたかったが、実際長過ぎるのは好みじゃない。
わざとそれを口にして、彼女の意向に沿った振りをしてこの名前に落ち着かせたのだ。

 家の内装などは、特別どんな物が良いと言う思い入れが無かったので、彼女の好きにして貰ったのだが、思いの外悪くない様に思える。
今までのゲームだと、生産用の施設と山積みになった箱の詰まっただけの部屋が、彼女の家の定番だった。だから、正直今回もそうなってしまったら流石にどうしようかとは思っていたのだが、普通に居心地が良さそうなものが出来上がったのがとても意外だ。
だからこそ、『愛の巣』と言う名称にした訳なのだが……。
いつもの作業場+荷物置きになるんだったら、『物置き』にしようと思っていたと言うのは内密にしておこうと思う。
名称変更の為に模様替えされてしまうと、目も当てられない。
彼女は、変に思い切りがいい事があるから、こういう場合には少々危険なのだ。

「次は、君の家の方を充実させなくてはな。」
「そーねー。」

 すっかり寂しくなってしまった資金を稼ぎ直す為に、出来上がったばかりの作業場で錠剤の作成に勤しみながらそう呟くと、なんとも気のない返事が返ってくる。

「どうしたのかね?」

 ぼんやりと窓の外に視線を向ける彼女に戸惑いながら、私も同じ物に目を向けてみた。
モクモクとした、大きな羊を思わせる雲が浮かんだ青い空の下で輝く、澄んだ青い『海』が彼女の心を捕らえているらしい。


海。
海か……。


 頭に浮かぶのは、『海遊び』という言葉だ。
服と呼ぶのにはいささか体を覆う面積の少ない布切れを身に纏って(纏うと言う程の布は無いのだが)、海の中で戯れるものらしい。


リリンは、『海遊び』がしたいのだろうか?
私はしたい。
彼女と2人きりで。


 一度意識すると、ムクムクとその思いが膨らんできて気が付いたら、私は彼女に海遊びを提案していた。暑い位の太陽の下で、水しぶきの中で笑う彼女もまた美しいに違いない。

「海遊び……。」
「うむ。」
「……水着ないよ?」
「水着でなくとも、軽装で波打ち際で遊ぶくらいなら可能なのではないかね?」

 彼女は、ぼんやりとオウム返しに私の提案を繰り返した後、ハッとした様子で予防線を張ってきた。
水着姿も見てみたくはあるが、それはまた後日でもいい。
すっかり海遊びと言う案に取り憑かれていた私は、なんとか彼女に応じて貰えそうな案を捻りだす。

「……イカ下足君でも呼ぶかね?」
「いや、彼等もやりたいことあるでしょ。」
「そんなに私と2人で海遊びと言うのは嫌かね……?」
「え?! いや、そう言う訳じゃないけど……。」
「では、何が気にかかっているのかね?」
「むー……。」

 彼女の様子を見ていて、ふと、原因に思い当たる。

「家の中でだらだらしたい?」
「うに?」

 私の言葉に、彼女の尻尾が嬉しげに振られた。

「なるほど。家の内装やらで疲れてしまったのか。」
「うにぃ……。」
「ならばそう言ってくれればいいではないか。」

 少し呆れながら、彼女の作業のキリが付くのを待つ。
出来上がった品を仕舞いこんだところで、彼女を横抱きにして3階へと向かった。

「ちょ、アル?!」
「ベッドでだらだらしながらイチャイチャするのも悪くない。」

 慌てる彼女の額に、唇を落とすと頬が真っ赤に色づく。


……この姿が見れるだけでも、良いな。


 彼女を2人で寝てもまだ大きいベッドにそっと降ろし、自分もその横に転がりながら目を細める。
ただ、こうやって隣に横になってだらだらと言葉を交わすのだって悪くない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

令嬢は大公に溺愛され過ぎている。

ユウ
恋愛
婚約者を妹に奪われた伯爵家令嬢のアレーシャ。 我儘で世間知らずの義妹は何もかも姉から奪い婚約者までも奪ってしまった。 侯爵家は見目麗しく華やかな妹を望み捨てられてしまう。 そんな中宮廷では英雄と謳われた大公殿下のお妃選びが囁かれる。

残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん
恋愛
ヒロインに婚約者の王太子の心を奪われて嫉妬のあまりにいじめという名の悪意を振り撒きまくった公爵令嬢は突然ここが乙女ゲー『どきエデ』の世界だと思い出す。既にヒロインは全攻略対象者を虜にした逆ハーレムルート突入中で大団円まであと少し。婚約破棄まで残り二十四時間、『どきエデ』だったらとっくに詰みの状態じゃないですかやだも~! だったら残り一日で全部の破滅フラグへし折って逃げ切ってやる! あわよくば脳内ピンク色のヒロインと王太子に最大級のざまぁを……! ※Season 1,2:書籍版のみ公開中、Interlude 1:完結済(Season 1読了が前提)

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー 数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった! それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。 夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?! 努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

処理中です...