秘密の異世界交流

霧ちゃん→霧聖羅

文字の大きさ
上 下
40 / 80
大陸へ -第四夜~

★船旅

しおりを挟む
 無事、クエストを終らせた私達は、今は海の上に居る。
正確に言うのならば、『船の上』ではあるのだが。

「アスタール君のところには、こう言う大きい船は無いの?」
「うむ。漁船の類はあるのだが、このようなものは存在しない。」

 風にドリル(とリリンが言っていた)を靡かせながら目を細めるハニーちゃんに答えながら、舳先に近い場所に陣取り進行方向を見詰めていると、後ろから軽い足音が迫って来るのが聞こえた。

「アール! 楽しんでる?」
「うむ。稀に見る体験だ。」
「ソレは良かった♪」

 後ろから飛び着いてきたリリンは、そのまま私の肩から手を回して背中にぶら下がる様な形のまま、楽しげに頬を首筋へと擦り付ける。
彼女を見ようと首を捻ると、スッとその手が離れていってしまう。

「ね、アル?」
「……なにかね?」

 自分からそのぬくもりが離れてしまった事に悄然としていると、彼女はスッと手を上げて少し離れた場所で何やら、イカ下足君が両手を広げて風を受けるハニーちゃんの腰を支えている姿を示す。

「あれ。」
「む?」
「アレ、やろう!」
「構わないが……。」
「にしし。一度やってみたかったんだよねぇ♪」

 そう言いながら、上機嫌に尻尾を揺らすと彼等のやっている様な恰好を取りながら、その元ネタとやらを教えてくれた。

「……私は、悲劇よりもハッピーエンドの方がいい。」
「現実の話ならわたしもそうさぁ♪」

 ナンチャラごっこはもうお終いらしい。
彼女は振り向くと、わたしの首に手を回して鼻先を触れ合わせた。

「お2人さん。甲板はもう堪能したし、中も覗いてみよう。」
「定番の遊びも終った事だし、ね。」
「いいねー♪ 折角、海上スキップしないで乗ってるんだから楽しまないとね。」

 そう。
この船での移動は、任意で『船での移動を堪能する』ことと『船での移動はスキップする』の2つから選ぶ事ができる。今回は、他の3人が後者を選ぼうとしたところで、私が乗ってみたいと主張した事によって今の状態があるのだ。
我儘を言う事に、少し躊躇いはあったものの今となっては悔いは無い。
意を決して主張して良かった。本当に良かった。
このゲームを始めて、リリンと会って声を交わす以外では、初めてこんなに感動した様な気がする。
何故、私の世界では船と言う物が発達しなかったのだろう?
 そう考えながら、船室探索に行くと張り切るリリン達の後を追う。
中の施設も素晴らしい。
廊下は少し狭目で、2人並んで歩くのには支障があるものの、ぴったりくっつけば問題ない。
私としては役得だと思いながら、リリンの腰を抱き寄せると手をつねられた。


痛い。
コレくらい、いいではないか。


 船室……船内で宿泊する為の部屋は、ソファとベッドを兼ねた物が左右の壁に作り付けになっている。
眠る時には毛布を掛けるらしい。
部屋の中にはティーセットが置かれており、4人でお茶を楽しんだ。

「揺れはあるのに、ティーセットとその中身は微動だにしないのね。」
「あはは。ゲーム的なご都合主義?」
「落ちるの気にしないで済むのは助かるわぁ。」

 ハニーちゃんの言葉に、テーブルの上に置かれた茶器を観察してみると、確かに陶器の擦れ合う音すらも経たない。リリンの言う通り、ゲーム的な処理なのかもしれないがイカ下足君の言葉通り煩わしい事を気にしないで済むのは楽で助かる。
ちなみに、お茶はリリンが淹れた物よりも私が淹れた方が好評だった。
……スキルの差だろうか?
このゲーム内だけでもハーブティーを大量に淹れているなと、みんなにお代わりを注ぎながら大量に淹れたハーブティーの量を振り返る。

「移動をスキップしなかったのは、正解だわなぁ。」
「だねぇ。」
「売店で限定っぽいレシピが沢山あったものね。」
「まぁ、船に乗ってのんびりって言うのも、思ったよりいいよねぇ。」
「後は、夕飯が出るんだったわよね。」
「そうそう、楽しみだわ。海鮮系みたいだし。」

 海鮮系の食事と言うのがどんなものか、彼等の話を聞いていると私も楽しみになって来る。
考えてみればこのゲームの中で、リリン以外の作る物を口に入れるのは初めてかもしれない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

処理中です...