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種合成とシャツの完成

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 シャットントントン
シャットントントン
シャットントントン
アイラが布を織る傍らで、私は大きな土鍋で苗の合成中。
グールグルっとやるたびに、新しい苗が生み出されていくのが楽しくて仕方がない。

 オイルウッドにゴマを合成すると、セサミウッド。これは樹液がゴマ油で、年に一度は花が咲いて実が生る。実は食用には適さないけど、種はゴマと同じ様に使えるらしい。樹液を採りそこねても、種から油が絞れそうで素敵!
ヒマワリや紅花も大体同じ。樹液が油で合成した花が咲いて、種が食べれる。
紅花は花のうちに摘めば、染料にもなるのでは?

 ホットベリーと合成してみた果物の木も、思った以上にいい感じ。
未成熟な実は元になった果物として楽しめるし、成熟した後はフルーツビネガーになるらしい。これって、一粒で二度美味しいっていうやつだよね。
有り体に言って最高だと思います。
 風蝶花の合成に関しても想定通りで、これは花が蝶の形から変化したことくらい。
あ、蜜の量が増えたらしいから、アイラが喜ぶお菓子作りが捗りそうな予感です。

「アイラー」

 後はカラムシと蔦系二種類を合成して、さて、ゲイルベリーを試そうかと言う段階になって思いも寄らないことが起きた。

「なぁに、レイちゃん?」
「トマトの苗、二つ追加お願いしてもいいかな」
「いいけど、足りなくなったの?」

 アイラには、合成の予定を話した上で苗を用意してもらっていたから、不思議そうな表情を浮かべる。

「うん……ちょっと、想定外」

 ほんとに想定外。まさか、再合成できるだなんて思わなかったんだもの。更に、好奇心に負けて合成しちゃったというのがまた予定外でした。

「まあ、無くなっちゃったなら仕方ないわね。はい、これどうぞ」
「ありがと、アイラ。二度手間にさせちゃってごめんね」

 改めて二株の苗を受け取り、作業を再開。グールグルーのポン! で、合成終了。
”検索”で確認してみたものの、どっちも出来上がりは『ケチャベリー』で、同じものだったという残念な結果でした。あ、ちなみに果肉を崩せばケチャップとして使えるらしい。そこに関しては、とてもとても喜ばしい限りです。

 アイラは熱心に布を織り続けているので、声をかけずに別の作業に取り掛かる。
とりあえず作る必要があるのは、鳥小屋用の頑丈な金網付きの扉。
チャッチャと作り上げたら、とっとと設置もしてしまう。後回しにすると、絶対に忘れるヤツだから。
扉の取り付けを終えて戻ってきても、まだ、アイラは機織り中。そろそろ三時だからお茶にでも誘おうかと思ったんだけど、後にしよう。
そう思いつつ、その間の暇つぶし――と考えかけて思い出す。
すっかり忘れてたよ、壁の穴に漆喰塗る仕事!!
大慌てで漆喰塗りを終えたけど、アイラはそこにハーブを植えるとそのままお昼寝をしに寝室に籠もってしまい、結局、お茶に誘うことは出来なかった。
トホホのホ……



 仕方がないので、一人でおやつを食べる。おやつのたびにちょこちょことピタパンを食べてたけど、意外と日持ちしたよね。それも、今日でおしまいです。
明日からのおやつを、お夕飯と一緒に作っておかなくちゃ。手軽に食べられる形がいいから、ハンバーガーとかサンドウィッチあたり?
……ドネルケバブの方が良いかも。トマトもキャベツも手に入ったし、アイラが苦手な羊肉っぽい肉もあるからそっちにしよう。結局、次のおやつもピタパン系。
美味しくてお手軽なのが正義なのです。

 まあ、明日からのおやつは後で作ることにして、まずはお籠り中の予定をこなしてしまおう。あと、残っているのは玄関通路の拡張工事だけ。
今日のところは”ディグ”で掘り抜いて、壁を”ハードニング”で補強するところまでやったら残りは明日の作業。外向きの壁にはレンガを積むことになってるけど、やり始めたらきっとお夕飯の時間が過ぎちゃう。
アイラが空きっ腹抱えて待ってるなんてことは、二度目はダメ。私は反省が出来る良い子です(大嘘)。

 サクッと掘り抜き、続きの作業をしたくなる気持ちを抑えつつ居間に戻ると、アイラがテーブルで何かを作り始めてる。
今度は何を作ってるんだろう?
ワクワクしながら覗き込む。――なんか歪な五角形の何かが出来ていく途中だけど……コレってなぁにってかんじ。

「丁度いいとこに戻ってきたわね。レイちゃん、ちょっとここに握った手を置いて」

 言われるままに手を置くと、それに沿って鉛筆でシュシュシュっと線を引いていくこと三回。

「はい。後は好きな作業してていいわよ」

 アイラは、そう言いながら線に沿って布を切り始めた。今、手を侵されたのは何のためだろうと不思議に思いつつ尋ねると、アイラは歌うように答えを返す。

「首ぐりは拳一つ、袖ぐりならば拳を二つ。型紙なしで、作れるカットソー♪ ――布帛だから、ちょっと余裕を取るけどイケるはず」
「へぇ……。これで作れるんだ」

 驚きつつ自分の手を握ってみる。え? どういう理屈でできるんだろう?
理屈については分からなかったけど、お夕飯の前にはきちんと長袖のシャツが出来上がっていた。
着心地も割といいし、サクサクとこれを作ってしまうアイラもすごい!
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