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いつも元気な君が好き

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 とりあえず、食事を摂って胃も落ち着いたところで、居間の中をうろついて、普段使っているテーブルや椅子などの家具の類の質を確認して歩く。
テーブルと椅子は粗悪品。
キッチン系の家具は上質だけど、お皿や鍋なんかの道具類は劣化品や粗悪品が混ざってる。特に包丁。研いでも着れないと思ってたら、粗悪品だったよ。
トホホのホ。割と最初の方に作ったフライパンなんかも粗悪品だったから、軒並み作り直さないとなぁ……

 拠点内にあるあれこれを確認して回った結果、見えてきたのは粗悪品や劣化品を作った時期。粗悪品は、間違いなく最初の方に作ったものばかり。
十中八九、作る時に使ったスキルか作るのに必要なスキルのレベルが原因だと思う。

 続いて確認するのは、私がアイラを号泣させる原因になったレンガ。
……って、私がアイラを泣かせたのって、二回ともレンガ関係?
ふと気付いた、驚きの事実。一回目はレンガを大量生産している最中で、二回目はレンガの品質を調べている真っ最中だよね。
これは、三回目がないように細心の注意を払わなくっちゃ……
品質を調べるのは、百個単位。そこで一旦、プロフィールを確認してから”データストレージ”に収納というのを三回繰り返したところで、体力がレッドゾーンに。
時間を確認してみたら、夜の十時。
夜食の時間だね!

 夜食にピタパンをモグモグ。竹茶をゴクゴクやってから、プロフィールを確認してみると、最大値の半分まで回復してる。
竹茶による回復が大きいんだけど、これがあれば、いくらでも行動できるような気がしてきちゃう。ちょっと、危険かも。
 未だに目を覚まさないアイラの様子を確認して、一つため息。
とりあえず、残りのレンガを確認してから考えよう。



 結局、全部確認のレンガを確認し終えても、アイラは目を覚まさなかった。
こうなったら根比べだ。
アイラが起きるまで、起きてよう。きっと、朝には起きてくれるはず。
……起きてくれるといいんだけど。
グルグルするのは、出来の悪かった鉄製品と陶器製のお皿たち。
元の? それは、全部材料に戻す。資源を無駄にしないためよりも、”データストレージ”の中のスペースを無駄にしたくないからだったり。
アイラの様子を見ながらすべての作業を終えたものの、まだ目が覚めない。
もう、朝の五時だ。
落ち着かない気持ちで、朝ごはんを作りはじめる。お夕飯も食べずに寝てたんだから、今度こそ起きるかも。
まずはパンを焼くために、食料貯蔵庫にあった、籾摺り済の雪原草をもってきて、寝ているアイラの枕元に石臼をもってきてゴーリゴリ。

「……うー……」

 反応があった!
大喜びで。雪原草を全部ゴリゴリとやって粉にしたけど、そのあとの反応は思わしくない。なんだかしょんぼり。肩透かしを食らった気分。
効果、あると思ったのに……

 お次の作戦は、匂い攻め。
バターの焦げる時の匂いって、結構強烈。特に、醤油と一緒になるとたまらない。
と、言うわけで、まずはホワイトソース作りから。
ジューワジュワと泡を立てて溶けながら良い匂いを振りまくバターに、小分けにしながら雪原草粉を振りかけ、焦げないように炒める。
そう言えば、粉をふるうための小さな網も作らないとなぁ……
焦がさないように、ダマにならないように少しづつフェットミルクを入れながらかき混ぜ続けてホワイトソースを完成させる。
うん、塩加減もいい感じ。

 それでも、まだ、アイラは目を覚まさない。
オーブンに火を入れて、中の具を用意する。具は、小松菜とベーコンの炒めもの。
ベーコンが、自身から出た油でカリッとしてきたら、切っておいた小松菜を入れて一緒に炒める。塩コショウで味を整えたら、耐熱皿に盛り付けてホワイトソースを流し入れ、チーズを載せたらオーブンへ!
チーズがとろっととろける匂い、アイラに届け……!

 ここで、アイラに待望の反応があった。
それまでほとんど身じろぎしなかったのに、グルンと大きく寝返りを打って、丸くなってる。ちなみに、室温に変化はない。
……ってことは、起きたね?
ホッとした気持ちが半分、でも、目が覚めたのに寝たふりをすることに苛立たしい気分が半分。――やっぱり、ホッとする気持ちの方が大きいな。

 小さく息を吐いてから、お料理再開。
お次は白菜とアーフェットの腹身のゲイルバター炒め。ゲイルベリーは醤油に似た味と香りだから、上手くバター醤油みたいな匂いになってくれるといいな。
ジュワジュワジュージュー
バターの美味しい匂いと音を辺りに振りまきながらアーフェットのよく油の乗った腹身肉が焼けていく。肉に火が通りきらないうちに、白菜を入れてさっと炒めてゲイルベリーの汁を回しがけ。あんまり火を通しすぎると、肉がパサつくから注意が必要なんだよね。
バターと醤油が混ざりあった、得も言われぬ香りが立ち上り、アイラが、たまらずにもぞもぞし始めた。
あと、一息?

 大皿に白菜とアーフェットの炒め物を盛り付けたところで、丁度、グラタンが焼き上がった。
いいタイミング♪
炒め物を冷まさないために”データストレージ”に入れると、アイラの頭がちょっと持ち上がる。
ああ、炒め者の匂いが薄くなったんだね?
大丈夫、次はチーズの焦げた匂いが広がってくれるから。
オーブンを開け、チーズとホワイトソースの焼けた香ばしい匂いが居間の中に広がると、ベッドの方からガバっと起き上がる音が聞こえた。
そちらに目を向けると、何やら悔しそうな表情で頬をふくらませるアイラの姿。

「おはよう、アイラ」

 私が声をかけると、彼女はそっぽを向いて頬を膨らませ直す。

「許さないんだから」

 ぶーたれた表情でそんなことを言う姿も、なんか新鮮で可愛らしく見える。思わず「怒ってる姿も可愛いね」と口を滑らせたら、更に怒られせちゃって、結局、ご飯の間中お小言を言われることになってしまった。
でも、まあ、文句を言えるくらいに元気になって良かったと内心ホッとする。
元気なアイラが、一番好きです。
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