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しばらく許さないんだから
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ゴッ!
突然、部屋の中に何かがぶつかる音が響く。カラムシの糸を紡ぐのを一旦中止して、音がした方向を見ると、レイちゃんが倒れてる。
レイちゃんはカラムシから繊維を分離してくれたあと、”データストレージ”にしまう前に”検索”で高密度レンガの品質を確認すると言ってたはず。
え?
何で倒れてんの??
昨日倒れたばっかりじゃない!?
慌てて駆け寄ると、レンガの角にぶつけたのか、おでこからダラダラと血が流れ出していた。咄嗟に「ぎゃー!!」なんて悲鳴が出たのは仕方ないと思う。
「血!? 血!! どうしよ、消毒しないとダメよね? でも、消毒薬なんてあたし、もってないし……」
考えをまとめようと呟く間も、血は止まらない。
「と、とりあえず、キレイな布で抑えるべきよね?」
口に出しつつ思い出せたのは、ハンカチが何枚か荷物に入ってたこと。慌てて”データストレージ”から林間学校用のリュックを取り出し、ハンカチを探す。
ここでもない、ここでもない?
あー! もう!!
何で、このリュックってばこんなにポケットが付いてるのよ!?
あちこちに小分けにしまえて便利だなんて何で思ったのかと、過去のあたしを問い詰めたい……!!
やっと見つけたハンカチをレイちゃんの額に押し当て、血止めを試みる。
――こういう時って、傷口は心臓より高くだっけ?
なにかの本で読んだ気がするけど、うろ覚え。とりあえずレイちゃんの頭を、さっき取り出したリュックの上に乗せる。
……ちょっと寝心地は良くないかも。
膝に乗せるのも考えたけど、血が止まった後に手当するためには動けるようにしておいたほうがいいわよね?
「そろそろ、血は止まったかしら……?」
何分か経って、そーっと額からハンカチを外して確認。
――一応、ちょっと滲む程度になってるみたい?
本当なら傷口を消毒するべきなんだろうけど、消毒薬なんてないし……
”消毒薬、ですね? ――該当、植物、を、育てて、います”
普段なら、こっちから働きかけないと機能しない”検索”スキルの声が頭の中に響き、驚きに体がビクリを震えた。
消毒薬の該当植物?
そんなの、育ててたっけ??
”該当、植物、は、『カモミール』『マリーゴールド』、です”
……育ててた。でも、レイちゃんのピックアップで育てたんだもの。
食べ物系よね?
”該当、植物、を、魔力水、で、煎じた、抽出液、が、有効、です”
煎じるって、要はお茶を入れるのと似たような方法よね?
両方を混ぜたほうが効果が高かったりするのかしら?
それとも、混ぜるな危険?
”煎じる、は、火、に、かけて、煮、出します”
”該当スキル、が、ないため、一種類、以上、の、薬草、を、煎じること、は、出来ません”
オーケー。火がないから煮出すのは無理。でも、魔力水でならお湯を出すことは出来るからそれで可能な範囲の効果で、レイちゃんには我慢してもらおう。
あたしは食器棚から適当なカップを二つ出すと、”検索”に聞いた通りの手順でカモミールとマリーゴールドの抽出液を作る。
出来上がった薬液を、慎重に別の器に移して準備完了。
「まずは、カモミールで作った方でチョンチョンっと……」
薬液を、血まみれになってしまったハンカチの端に含ませてから、傷口をそっと拭う。その行為によって、ちょっぴり固まりかけていた血の塊が薬液を含んだハンカチに拭われる形になったお陰で傷口が見えるようになった。
――うん、それほどひどい怪我じゃなさそう。
出血の割に、傷口は随分と小さい。そのことにホッとしながら、次はマリーゴールドで作った方の薬液をハンカチの反対側に吸わせてから傷口の上においた。
「あとは、しばらく放っておけばいいのよね……?」
擦り傷程度なら、消毒薬をピュピュっとやって、絆創膏を張る程度のことはやったことがある。でも、こんな風に消毒薬や傷薬を自分で作って治療をするなんてことは全く経験がない。しかも、ナイナイ尽くしのこんな環境でなんて……
正直、”検索”が教えてくれたとおりにやってみたけど、不安で仕方ない。
ほんとに、これで大丈夫なのかと落ち着かない気持ちのまま、レイちゃんの様子を見守った。
やっとレイちゃんの目が開いた時の気持ちを、どう言い表したらいいだろう?
キョトンとした顔で首を傾げて「どうしたの、アイラ?」って、いつもの調子で問いかけてくるものだから、思わず殴りかかっちゃったわよ!
「バカバカバカバカ! レイちゃんの嘘つき!! もう、倒れるような真似はしないって言ったのに~!!」
レイちゃんを叩くだけ叩いて、大声出して、その後ワンワン泣き出して……
やたらと美味しそうな匂いがするのに気が付いて、目を覚ましたら朝だった。
妙に気分はスッキリしてたけど、こんなに心配かけたレイちゃんのこと、しばらく許す気はないんだから……!
美味しいものでも、懐柔される気はないわよ!?
うう……
でもチーズの匂いが、バターの匂いが……
あ、ダメ。
お腹が鳴っちゃう!
突然、部屋の中に何かがぶつかる音が響く。カラムシの糸を紡ぐのを一旦中止して、音がした方向を見ると、レイちゃんが倒れてる。
レイちゃんはカラムシから繊維を分離してくれたあと、”データストレージ”にしまう前に”検索”で高密度レンガの品質を確認すると言ってたはず。
え?
何で倒れてんの??
昨日倒れたばっかりじゃない!?
慌てて駆け寄ると、レンガの角にぶつけたのか、おでこからダラダラと血が流れ出していた。咄嗟に「ぎゃー!!」なんて悲鳴が出たのは仕方ないと思う。
「血!? 血!! どうしよ、消毒しないとダメよね? でも、消毒薬なんてあたし、もってないし……」
考えをまとめようと呟く間も、血は止まらない。
「と、とりあえず、キレイな布で抑えるべきよね?」
口に出しつつ思い出せたのは、ハンカチが何枚か荷物に入ってたこと。慌てて”データストレージ”から林間学校用のリュックを取り出し、ハンカチを探す。
ここでもない、ここでもない?
あー! もう!!
何で、このリュックってばこんなにポケットが付いてるのよ!?
あちこちに小分けにしまえて便利だなんて何で思ったのかと、過去のあたしを問い詰めたい……!!
やっと見つけたハンカチをレイちゃんの額に押し当て、血止めを試みる。
――こういう時って、傷口は心臓より高くだっけ?
なにかの本で読んだ気がするけど、うろ覚え。とりあえずレイちゃんの頭を、さっき取り出したリュックの上に乗せる。
……ちょっと寝心地は良くないかも。
膝に乗せるのも考えたけど、血が止まった後に手当するためには動けるようにしておいたほうがいいわよね?
「そろそろ、血は止まったかしら……?」
何分か経って、そーっと額からハンカチを外して確認。
――一応、ちょっと滲む程度になってるみたい?
本当なら傷口を消毒するべきなんだろうけど、消毒薬なんてないし……
”消毒薬、ですね? ――該当、植物、を、育てて、います”
普段なら、こっちから働きかけないと機能しない”検索”スキルの声が頭の中に響き、驚きに体がビクリを震えた。
消毒薬の該当植物?
そんなの、育ててたっけ??
”該当、植物、は、『カモミール』『マリーゴールド』、です”
……育ててた。でも、レイちゃんのピックアップで育てたんだもの。
食べ物系よね?
”該当、植物、を、魔力水、で、煎じた、抽出液、が、有効、です”
煎じるって、要はお茶を入れるのと似たような方法よね?
両方を混ぜたほうが効果が高かったりするのかしら?
それとも、混ぜるな危険?
”煎じる、は、火、に、かけて、煮、出します”
”該当スキル、が、ないため、一種類、以上、の、薬草、を、煎じること、は、出来ません”
オーケー。火がないから煮出すのは無理。でも、魔力水でならお湯を出すことは出来るからそれで可能な範囲の効果で、レイちゃんには我慢してもらおう。
あたしは食器棚から適当なカップを二つ出すと、”検索”に聞いた通りの手順でカモミールとマリーゴールドの抽出液を作る。
出来上がった薬液を、慎重に別の器に移して準備完了。
「まずは、カモミールで作った方でチョンチョンっと……」
薬液を、血まみれになってしまったハンカチの端に含ませてから、傷口をそっと拭う。その行為によって、ちょっぴり固まりかけていた血の塊が薬液を含んだハンカチに拭われる形になったお陰で傷口が見えるようになった。
――うん、それほどひどい怪我じゃなさそう。
出血の割に、傷口は随分と小さい。そのことにホッとしながら、次はマリーゴールドで作った方の薬液をハンカチの反対側に吸わせてから傷口の上においた。
「あとは、しばらく放っておけばいいのよね……?」
擦り傷程度なら、消毒薬をピュピュっとやって、絆創膏を張る程度のことはやったことがある。でも、こんな風に消毒薬や傷薬を自分で作って治療をするなんてことは全く経験がない。しかも、ナイナイ尽くしのこんな環境でなんて……
正直、”検索”が教えてくれたとおりにやってみたけど、不安で仕方ない。
ほんとに、これで大丈夫なのかと落ち着かない気持ちのまま、レイちゃんの様子を見守った。
やっとレイちゃんの目が開いた時の気持ちを、どう言い表したらいいだろう?
キョトンとした顔で首を傾げて「どうしたの、アイラ?」って、いつもの調子で問いかけてくるものだから、思わず殴りかかっちゃったわよ!
「バカバカバカバカ! レイちゃんの嘘つき!! もう、倒れるような真似はしないって言ったのに~!!」
レイちゃんを叩くだけ叩いて、大声出して、その後ワンワン泣き出して……
やたらと美味しそうな匂いがするのに気が付いて、目を覚ましたら朝だった。
妙に気分はスッキリしてたけど、こんなに心配かけたレイちゃんのこと、しばらく許す気はないんだから……!
美味しいものでも、懐柔される気はないわよ!?
うう……
でもチーズの匂いが、バターの匂いが……
あ、ダメ。
お腹が鳴っちゃう!
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