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アイラがなんか、おちこんだ

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 食事をしながら話をしていたら、アイラがさっき作っていたゴザの正体が分かった。――と言っても、単純に機織りをする準備段階で必要になるものだということが分かっただけなんだけど。
なんか、経糸たていと用の棒に糸と一緒に巻くと、糸がよじれたり重なったりしなくなるらしい。やっておくと作業がスムーズに進むんだって。

「入り口に掛けていたブルーシートがお役御免になってるから、そちらを使えばいいんじゃない?」
「あれは、別にも使いみちがあるもの。そういうのは極力使わないつもり」
「そっかー」
「だって、今はブルーシートの方が貴重だもの」

 なるほど。自力で作れないものはとっておくってことか。覚えておこっと……

「そういえばねーレイちゃん」
「うん?」

 不意に、アイラの声の調子が変わって首を傾げる。こういう脱力気味な喋り方は、寝起き以外だと慰めてもらいたい時だよね?
何を落ち込むことがあったのかとドキドキしていると、少し間を置いてやっと話しはじめる。

「なんか、今まで日本で食べられた野菜ばっかり育ててたんだけどね。アレ、ちょっと失敗だったかも」
「んん? どういうこと?」

 日本の野菜が採れるようになってから、毎日の食事を考えるのがとっても楽しいんだけど、どんな問題があったんだろう??

「実は、現地産の植物って、めっちゃ成長が早いっぽい」
「現地産……オニオンフラワーとか?」

 現地産の植物でお世話になってるのは、ダントツでオニオンフラワー様。次点が雪原草だよね。ゲイルベリーやホットベリーも忘れちゃいけない。
ライスフラワー?
アレは、アイラのファームで育てるのには大きすぎる。外で野生のものを採ってくるのが妥当な植物だろう。

「雪原草がねぇ、野生で二十四日あれば収穫できる状態になるの」
「えーっと、日本の野菜と比べると?」
「一番早いのが一月位だから、一週間近く早いわね」

 アイラはそう言って、皮肉げな笑みを浮かべた。

「でも、雪原草って、要は小麦モドキ。アイラが育ててくれてる野菜とはまた、位置づけが違うじゃない」

だから、今まで雪原草を育てなかったからって、別に気に病むようなことじゃないと思うんだけど……
そう思って伝えた言葉は、残念なことにアイラには届かなかったみたい。

「でも、それを育てることを思いつかなかった、自分のアホさ加減に落ち込んでるのよ」

 彼女はテーブルに肘をついて、いじけ始めてしまった。
うーん、どうしよう?
いじけてる姿が可愛いからぎゅーしたいけど、やっていいのかどうかの判定が難しい。ぎゅーして、拒絶されたら立ち直れない自信があるし。

「それじゃあさ、オニオンフラワーを育ててよ。ちょっと、在庫が心もとなくなってきてるから」

 ちなみに、オニオンフラワーの在庫は現在1.7kg。一度に500g使うこともあるから結構カツカツなんだよね。使い勝手がいいから、ついつい使っちゃうし……

「あとは、塩蔦なんかもあると、外に行けない時にも安心だし、ポテ蔓っていうのもあったよね? アレなんか、いかにも根っこが食べれそうで気になってるから、育てられるんだったらお願いしたい」

 調子に乗ってベラベラとお願い事を口にするたび、アイラの顔が上がっていく。それが嬉しくってついつい調子に乗ってしまったんだけど……

「ホットベリーとかゲイルベリーはいらないの?」

困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔を浮かべたアイラに、思わず言葉を失ってしまう。
ううう、アイラ、可愛すぎ……!

「――ホットベリーは、種以外は割と拾ってくる分でなんとかなるし……。それに、ゲイルベリーって、ちょっと危ないでしょ? 触ると手が切れるじゃない」
「そうね。ゲイルベリーは育てづらいかも」
「なので、育てやすそうでたくさんあった方が嬉しいやつを言ってみました」

 アイラのことを直視できなくて、ウロウロと視線をさまよわせる。アイラったら、それを見て小さく笑うんだもの。恥ずかしいったら……

「うん。じゃあ、明日は塩蔦とポテ蔓に挑戦してみる」
「ん……。あと、錬金術で使えそうな素材があったら見せてもらえると嬉しいです」
「了解。気を取り直して、夜の畑仕事をしてくるわ」

 そう言い捨てて部屋を出ていったアイラの耳は、ちょっぴり赤かった。彼女も照れくさかったのかと思うと、無意識に頬が緩む。
うん、今日も可愛いアイラの一面を見れたし、元気百倍!
もうちょっとだけ、拡張作業の仕上げをがんばろう。
今夜は……食料貯蔵庫の棚を全部作ったら、扉の量産。それが終わったら、居間だけでも扉をつけてしまうことにしよう。
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