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綜絖枠

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 食事を終えて、お茶を飲んだら寝る前の手仕事のお時間です。

「アイラはこの後どうするの?」
「そうねぇ。レンガを積むのも飽きたし、糸を紡ぐ用のスピンドルや織り機もそろそろ作りたいわね」
「ジャージの膝も擦り切れてひどいもんね」
「そうそう。せめて、継ぎを当てる布がほしいわ」

 スピンドルと言うのは糸を紡ぐための道具で、日本名だと錘というらしい。アイラが作ったものを見せてもらったんだけど、構造はごくごく単純。棒の途中に丸い板がくっついているような形で、正直こんな道具で糸が作れるだなんてビックリ。

「コレをどう使えば糸が出来るの??」

 私が首を傾げていると、アイラが実演して見せてくれることになった。先の方に、毛玉から取り出して撚り合わせたものをクルクルと巻きつけたら、あっという間に糸が出来上がる。正直、何が起きたかわからない。

「えう??」
「……スキルの効果かしら? やたらと糸になるのが早いわ」

 糸を作った本人も首をひねる程の速度だったみたいで、アイラもびっくり顔。首を傾げつつ、スピンドルをもう一つ作り始めた。

「スピンドルって、金属じゃダメなの?」
「そんなことないわよ」

 というわけで、私もスピンドルを作ってみる。作ってみた乾燥は、先っぽに糸を引っ掛ける部分がある、軸の長いコマみたい。というもの。
アイラに出来上がったものを渡したら、自分が作った分のスピンドルと同時にクルクル回しはじめて、あっという間に二つの糸を完成させてしまった。

「あたし、コレ、一度に三つまで回せると思う」
「それってさ、ちょっとした曲芸じゃない?」

 とりあえず、私はあっという間に糸が出来上がっていくのは見ていて楽しい。ここでふと思いだしたのが、錬金術がレベル三になって覚えた”複製”。
これ、もしかして増やせるんじゃないかな?

「ちょっと、”複製”を試してみてもいい?」
「いいけど、なーに、それ?」
「なんか、錬金術のレベルと同じだけ、元にするのと同じものを作れるっぽい」

 ”検索”しつつ、概略を説明。この説明からすると、糸巻きを一度に三つ作れるってことだよね。割とお素敵。ついでに、複製する対象の拡大縮小もできるらしい。
え、なにそれ? すごく優秀じゃない??
ただ、コレを話すと話が脇に逸れそうなので、そっちは今回の説明から省くことにしておく。

「任せたわ」

 説明の結果、アイラからは力強い激励のお言葉をいただいたので、早速実験。金属製のスピンドルに巻いたものを拝借して、スービットの毛と一緒に錬金釜に入れてグルグルしはじめる。
ペカッと光って出来上がったのは、元よりも少し巻きが増量した糸の姿。

「なんだか、元よりも糸が増えてるように見えるわ」
「多分、素材加工のスキルも乗ったね」
「糸の量が増えるなんて、お得だわ。レイちゃん、次は二本の糸を撚り合わせて太いのを作るから、スピンドルをお願い」

 糸作りはコレでお終いというわけじゃないらしい。頼まれたとおりにもう一つスピンドルを作ると、アイラはソレをあっという間に撚り合わせて一本の糸に仕立て上げる。……これ、流れ的に私が増量させる方向だよね?
もちろん、空気を読んでグルグルしますよ?
素材は、ちょっぴり悩んでスービットの毛とスピンドル用の鉄を適当に。適当って言っても、適度な方の適当です。
出来上がった糸はやっぱり少しだけ増量されてて、アイラが大喜び。

「これだけ糸があるなら、布を作らなきゃね」
「布を作るのって、どうやるの?」
「最近は百均でも道具が売ってるんだけど……」

 アイラがそう前置きをしながら描いてくれた図案を見る限り、作るのがちょっとめんどくさそう。

「これ、もっと簡単なのはないの?」
「一番単純なのは、正方形の板の真ん中をくり抜いて手前と奥に切り込みを入れるやつだけど……この、作るのが面倒くさそうな板がないと、織るときが大変なのよ」

 作るのが面倒くさそうな板と言うのは、正式名称が綜絖枠というもので、細い板の真ん中に穴が空いたものをいくつも、隣接する板とくっつかないように隙間を開けて作るものらしい。アイラも、げんなりした表情になってるところをみると、コレを作る作業はやりたくないんだろうなぁ……

「無くちゃいけないのは分かったけど、なんか、楽に作れる方法を考えてみようよ」
「そうね。抜けるところでは手を抜かないと!」

 お話し合いの結果、最終的に私が金属を使って作ってみることになった。出来上がったものをみて、アイラが「これ、もっと細くできそうね……」と言ったのを聞いて、思わず涙目になったのは仕方ないと思う。
だってね、細かいものをきちんと思い浮かべるのって、意外と大変なんだよ?
ちなみに、出来上がったものを何故か複製させられた。理由は良くわからないけど、必要になるかもしれないんだって。
綜絖枠を作り終わると、もう、精神的に疲れてしまったのでチャチャッとレンガを作って眠りにつく。
なんか、新しいスキルを手に入れたってアナウンスがあったけど、眠いので確認はまた今度。
明日は……うん。気晴らしを兼ねて、ベーコンでも作ることにしよう。
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