上 下
42 / 104

憩いの場を作りたい

しおりを挟む
「レイちゃんー! お風呂入りたいー」

 作ったばかりのパスタケース達と調味料入れを抱えていつもの部屋に戻ると、寝室から出てきたアイラが開口一番にそうのたまう。

「そんなにお風呂に入ってばっかりだと、ふやけちゃうよ?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。魔力の上限が増えるだけよー」
「ほんとに気をつけてね?」
「はいはーい! 了解です♪」

 なんだか、全然分かってなさそうな返事が返ってきたのにため息を返しつつ、浴室を後にする。ああ、脱衣所にも”エリアライト”と”ホット”を掛けておかなくちゃ。

「そう言えば、雪原草全部使っちゃった」

 脱衣所でゴソゴソとやり始める気配がするのを感じつつ、ふと、立ち止まってそうご報告。だって、また採ってきてもらわなくちゃいけない。

「結構あった気がするけど、何を作ったの~?」
「ふふふ。お昼ごはんのお楽しみです」
「もったいぶらなくっても、いつでもレイちゃんのご飯は楽しみだけどねぇ」

 クスクス笑いとともに返された言葉に、満更でもない気分。
そんなに楽しみにしてくれているんだったら、気合を入れてご飯を作らないと。

「ご飯は何分後がいい?」
「一時間後で」
「了解」

 ……でも、その前にご飯を食べる部屋を整えたほうがいいかなぁ?
なにせ、最初に寝ていた穴を四角く掘り抜いた場所に机と椅子を置いただけの場所で、調理から食事まで――って状態だ。
正直なところ、憩いの場所というのには、かなり窮屈。
いっそ、また拡張工事をやっちゃいたい。
でも、憩いの場所の拡張は、流石に私の一存でって訳にはいかないか。
後で話し合って決めることにしよう。

 大きな土鍋に、塩蔦の葉っぱを三枚ほど放り込んでお湯を沸かす。
そうそう、オイルウッドの枝も少し削っていれるのを忘れちゃいけない。個人的に、パスタを茹でる時点で油を入れておくと、絡みづらくなる気がするんだよね。
沸騰したお湯にパスタを放り込んだら、麺がくっついてしまわないようにたまにかき混ぜながらホットベリーの皮を刻む。
パスタの茹で加減を確認しつつ、中華鍋に削りいれたオイルウッドをホットベリーの皮と軽く炒めはじめる。パスタが茹で上がったら、一旦、”データストレージ”に突っ込んで煮汁を残して麺を中華鍋にジュワ!
麺にホットベリーの香りと辛味をつけた油を軽く絡めたタイミングで、お玉に半分の煮汁をゆっくりと麺の上から回しがけ。汁が油と馴染んでトロリと乳化したら、塩とゲイルベリーの種を砕いたもので味を整えて、ペペロンチーノの出来上がり♪
……ニンニクがないから、ちょっと一味足りないけど、コレはコレで美味しい。
出来上がったペペロンチーノは、中華鍋ごと”データストレージ”に一時収納。
これで、出来たてがいつでも食べられる。

 アイラがお風呂を上がるのは、後、四十分後。
結構な時間があるし、”抽出”の実験がてら、パパっとお皿を作ってしまおう。
錬金室に戻って、一番大きな錬金釜に青土を満杯に詰め込む。
お風呂でやった時の感覚からすると、『一つのもの』だと認識できていれば、一度に”抽出”出来る範囲は割と広いように感じる。ただ感覚的に、壁とか床からの”抽出”は難しいとは思うんだけど……
片手を錬金釜に突っ込んで、冷気を”抽出”するために集中するとすぐに成果が現れた。触れている青土が黒っぽい色になって、ほんの僅かに温かさが感じられる。
錬金釜の脇をコロコロと転がりだした氷結晶を拾って、小さな土鍋に入れておく。
これで、氷結晶は十五個。とりあえず取って置いてるけど、なにかに使えるといいなぁ……

 無事に青土がただの土になってくれたので、ソレを使ってお皿を作成。
まずは、ペペロンチーノを食べるためのパスタ皿。作ってみたら、五枚セットのものが出来上がったのは、材料が多すぎたから? ……もしかしたら、セットものを思い浮かべたせいかもしれない。
……土鍋も毎回蓋付きだったと思い出したのは、お昼寝直前のことだった。

 器が揃ったところで、食事の用意を再開。
アイラと一緒に獲ったお肉の切り分け作業に取り掛かる。
”データストレージ”の中から可食部を”検索”しつつ、取り出してそれぞれの部位を薄めにそぎ切り。獲った鳥獣は九種類もいるし、それぞれの枚数は少なめに。
なんか、寄生虫とかの心配はないみたいで、どの肉も『生食可』の文字がきらめいている。生焼けでも食べられるというのは、多少なりとも安心だ。
残り体力の関係で出せるのは十種類。これは、フライパンで焼きながら食べようと思う。その方が、熱々で食べられるしね。

 それにしても、”データストレージ”も”検索”先生も便利で素敵。
取り出そうとしたものを”検索”したら、用途ごとにフォルダー分けされているとか、メチャクチャ助かる。流石に、解体はしたことないからなぁ……
後で、仕分けされた毛皮や羽をどうするか、アイラと相談しよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...