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約束は破るためにある?

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 朝ごはんを食べ終えた後、アイラに昨日の晩には魔力の上限が増えなかったことを報告する。大事な話はちゃんと報告しなくちゃね。

「ほんとだ。体力の上限、増えてないー!」

 彼女は自分の体力を確認してから、悲鳴を上げる。
どうやら私と違い、魔力も体力も全快はしている様子なのが嬉しい。
よく眠れたみたいで、なによりです。

「それよりも」

 と言いつつ、アイラは私をきっと睨みつけた。
およ?
なにか、悪いことしたっけ?

「寒いからギューッてしたの、嫌だった?」

 そういえば、私。いつの間にか男の子になってたんだもんね。
まだ、トイレの時に『ギャー』ってなるくらいで実害はないし、それどころじゃないと思って考えるのをやめたんだけど、抱きつかれるアイラの方は嫌かもしれない。

「あたしも暖かかったから問題ないわ」

 あれ、違うの?
存在そのものが嫌だとかだったら泣くしかないけど、アイラはそんなことを我慢するタイプじゃない。
他には……?

「朝ごはんの時間、遅くなっちゃってごめん?」

 そういえば、めちゃくちゃスタンバってた!
もっと、手際よく料理をするべきだったかと反省する。
でも、なんか違うような気もして疑問形。

「別に遅くなかったし、むしろ、作ってもらえて文句なんてある訳ないじゃない」
「降参します。何に怒っているのか分かりません」

 パッと思いつくのはその二つくらいだったから、さっさと両手を上げて降参のポーズだ。こう、積もり積もったなにかがあるかもしれないけど、わからないもの。

「レイちゃんが悪いことをしたとか、そう言うんじゃないのよ」

 怒り顔から一転、悲しそうな困り顔になってアイラは小さな声で呟く。
何この可愛い生物。
抱きしめていいですか?
もちろん、そんな場合ではなさそうなので手は出さないけど、めっちゃギュ~したい!

「問題は、レイちゃんがきちんと寝てないってこと」
「? きっちり、八時間も寝てるけど?」
「途中で何度も起きて、穴の中をあっため直してたんじゃないの?」

 やってました。

「だって、寒かったんだもの」
「もっとくっついて寝ればいいでしょ」

 言い募ってくるアイラから、そっと視線を外す。
なにせくっついて寝るのは……あんまり、大丈夫じゃない。
ちょっと、想定外に目が冴えてしまうという問題が発生したので……
自覚するまでは何ともなかったのになぁ……

「ご飯を食べた後に、仮眠の時間を貰えれば大丈夫だよ」
「でも……」
「現状、二人して風邪を引いちゃうほうが問題でしょう? それに、意外と体調も悪くないし」

 魔力が減ると精神的に、体力が減ると身体的な疲れを感じることは、昨日の時点でも薄々感じていたことだ。
今の状態を確認してみると、魔力は59で体力は93。
起きた時に何故か満タンだった体力が減っているのは、お料理のせいかな?
スキルレベルが4だったし。
残りの3は……”大食い”か!
精神的にはちょっと疲れているかんじ。
食休みと称して、少しゴロンと出来ると嬉しい。

「ただ、ご飯とか作って少し疲れたから、ちょっぴり横にならせてもらえると嬉しいです」
「もちろんよ!」

 正直な気持ちを語らせてもらうと、アイラは食いつくような勢いでそれを承認。
私が寝ている間に、外であれこれ集めてくるつもりらしい。

「一人で出かけるのは危ないんじゃない?」
「ここの入り口が見える範囲だけよ」
「外に出るなら、仮眠はやめて一緒に行くよ」
「じゃあ、中で魔法とスキルを鍛えるわ」

 私が付いて行くと言った途端、あっさりと意見を翻すところがかえって怪しい。
ジト目で見ると、アイラはさっと目を逸らした。

「絶対、駄目だからね?」
「はぁーい」

 なんだか怪しげだけど、約束を守ってくれることを信じることにするか……
私が昨日、掘り広げていた部分をタガネで削り始めるアイラの背中を見て、ため息を一つ。
とりあえず、満タン状態から体力を使い切らないと、上限が増えないのかどうかを試してみよう。
起きた時には満タンだったから、条件は満たしているはず。
私は”錬金術”であれこれ作ってから、”ヒート”を追加して眠りにつく。
目を覚まして、穴の中の空いてた空間いっぱいに雪原草が山になっているのを見つけて大声を上げるのは、四時間後のこと。
昼食後に話を聞くと、アイラは胸を張ってこう答えた。

「約束は、破るためにあるのよ」

 違います。
約束は、守るためにするものです。



錬金したもの
青土のお玉    1個
青土のヘラ    1個
青土の中華鍋   1個
青土のフライパン 1個
青土の千歯扱き  1個
青土のまな板   1個
青土の包丁モドキ 1個
青土の麺棒    1個
青土の草刈鎌   1個
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