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四章 悪夢の幕開け

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 君からの本当の気持ちを聞き、前に進んでいく決意が出来た俺たちは、互いに仕事へと戻り、出来る時間だけでもと、いつも通りメールでのやり取りを続けていた。

『もう少しだけ、時間を下さい』

 メールでのやり取りの間も脳裏を巡る君の一言。決意を決めた君に立ちはだかる壁は、俺には計り知れないものだということと、そこに助け船を出すことも出来やしないこと。

 それでも君は、君なんだ。
 君は君らしく、君の人生を歩めばいい。
 その人生に俺も添えて貰うことが出来るのならば、この上ない程の贅沢だということ。

「クロ、来年は一平と年を越せたらいいな?」
『ニャッ!?ニャン!!』
「ほんっとお前、一平のこと好きすぎたろ?」
『ニャーン?ニャッ!』
「ははっ!お前にはやらないけどな?そして、遼もきっと、俺たちの恋を認めてくれるだろう」

 今日は大晦日ということもあり、微笑む遼の写真と綺麗に整えた祭壇の上に、遼も俺も大好きなビールを供えてあげていた。

 お前は、どんな時でも俺の味方だった。
 そして、これからも俺たちのことを傍で見守っていてくれたら嬉しいよ。

「おっ!クロっ!年越しだ!」
「ニャッ~…」
「ね、寝るなバカっ!……よし!クロっ!あけましておめでとう!」
「ウニャァァアー…!」

 クロと二人で迎えるいつもの年越し。
 君にこの瞬間『あけましておめでとう』とメールを一つだけでも送れるのであれば、どれだけ幸せなのだろう。でも、そんなことは出来ない。それはもう、分かりきっていること。

 君と二人で年越しなんか出来たら、どれだけ幸せなんだろうと…『いつか』その想いが叶うということを信じ、そして君からの『もう少し、時間を下さい』という言葉を胸に、新しい年を迎えた俺とクロは、ゆっくりと眠りについていった。

 ◇ ◇

 ──そして、年明け後
 テレビは正月恒例の特番で彩られ、時折流れるニュースからは、初詣の光景が映し出される。

 いつもと変わらない、クロと二人のお正月。
 日頃の疲れもあり、まったりのんびりと過ごし、いつもなら昼間からビールなんて飲まないのに『今日だけは』と心に言い聞かせる俺は、ビールを開けて、ただただのんびりと過ごしていた。

「なぁ、クロ?」
『ンニャア?』
「一平は、どんな豪勢なもの食ってるんだろうな?」
『ニャー…ニャッ!ニャニャニャッ!』
「ははっ!擽ったい!クロ様、俺に美味いものを強請っても出てきませんよー?」
『ニャーッ!!』

 クロとの会話には、いつでも君が出てくる。
 その会話にクロもクロで満更でもない表情や鳴き声を出してくる。それだけ俺たちにとって君という存在は、大きくて温かい存在ということ。

「あと三日…か」
『ニャッ?』
「ふふっ!三日後は、あいつの誕生日なんだ」

 そう、今日は一月二日。
 三日後の一月五日は、一平の誕生日。
 君という大切な存在が、この世に生まれた日。

『何年経っても大人になっても、クリスマスも誕生日も一緒くたで、彼女にまでそんなこと言われたことなかったので…』
『別々にしようって言ってくれたのは、優太さんが生まれて初めてです』

 俺にはやっぱり、考えられなかった。
 クリスマスは、みんなで楽しい時間を過ごしたりする日。一方で誕生日は、君が生まれて来てくれた大切な日のはずなのに、一緒くたにされるなんて、それは君にとって失礼なことだと、俺はそう思ってならなかった。

「クロ、明日はちょっと留守番しててな?」
『ニャッ!?』
「ははっ!ちゃんとご褒美に美味しいおやつを買ってきてやるからな?」
『ニャーン!♪』

 君にいつ、届けられるかはまだ分からないけれど、いつでも届けることが出来るように、俺は誕生日プレゼントを用意することにしたんだ。
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