君にこの想いが届かなくとも…

三章 救いの手、嫉妬

⑩

「さて…だいぶ飲んだし、そろそろ帰るか！」
「そうですね、そろそろ帰りましょうか」
「俺は久々に、あのサウナに行こうかな…？優太くんも良ければ…」
「ははっ！俺は帰ります、一平に出会って自暴自棄になった以来、掲示板とかそういうの全く使わなくなったし、なんか一平にも悪い気がして」

　本当の話だった。今までは快楽だけを求め、漁るかのように掲示板を利用しては、その場しのぎの関係を持ち続けていたけど、今の俺にはどんな関係でも大切にしてあげたい君がいる。

　たった一人、君がいてくれて、君が俺のことを身も心も満たしてくれる。そんな俺にはもう、掲示板なんて必要ない。君という存在だけで十分なんだ。

「ははっ！君のそういうところ、ほんと好きだぞ？」
「だ、大輔さんっ！は、恥ずかしいじゃないですかっ…！」
「それでこそ、誠実な愛ってことなのかもな！」

　茶化されたような感じもしたけれど、ニコッと微笑む大輔さんの表情に、俺もつられて笑みが零れてしまう。そして、大人の大輔さんは「誘ったのは俺」と言い放ち、今日のお代を全て払ってくれたわけで…もう、至れり尽くせりだ。

「また、機会があったら来ような？」
「はいっ！是非！」
「良かったら、一平くんとも来たらいい！大人のデートには、持ってこいなムードだからさ！」
「ちゃんと互いの気持ちがまとまったら、誘ってみようと思います！あいつ、お酒にもかなり詳しいので！」

　最後まで笑顔で会話を楽しみ、俺たちはバーカウンターから立ち上がり、店の出口へと向かおうとしたその時のことだった。

　ガチャ…

「いらっしゃいませ」
「……っ……ぇっ…」

　俺は、言葉を失ってしまった…
　なぜなら、入口の扉が開き、帰ろうとしていた俺たちの目の前に現れたのは、いつか一緒に来たいと思っていた、一平とその彼女の姿だったのだから…

「一平？大丈夫？」
「…ああっ、なんでもないよ？」
「あれっ？あの人、この間デパートで会った人じゃない？」
「え…？そんなことあったっけ？」
「え！？人違いーとか言ってたじゃん！」

　君は仕事帰りなのか、いつも俺が見ていた、かっこいいスーツ姿。そして、胸元のポケットには、俺がプレゼントしたペンが、ひっそりと刺されていることが、薄暗い店内でも見て分かる。

　使ってくれている嬉しさを俺は素直に喜びたいのに、今はそんな状況では全く無い。何故なら彼女は俺の存在を少なからず覚えていた。そして、まさかこんなところで再会を果たすことになるだなんて、想像もしていなかったからだ。

　必死に俺たちの関係を誤魔化そうとする君。
　そして、言葉を失い、立ち尽くしてしまう俺。

　何事もなく、この場をやり過ごしたい。とにかくこの場から早く離れたいと、そう強く心が願うのに、立ち尽くした俺は、足が竦み、小さく呼吸も乱れていた。

　そして、その感情をさらに強くさせたのは、彼女へと誤魔化しながら話す君が、一瞬そっと俺の顔を見つめ、悲しくもどこか苛立った表情を表してきたから…