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三章 救いの手、嫉妬

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「逆に俺は、一平くんが羨ましいよ?」
「…ひくっ…えっ…?」
「心を決めてくれて、心から大好きな君がいつでも帰りを待っていてくれている。俺たちは互いに家族があるし、そんな場所なんてないからさ?」
「…そ、そう、言われてみれば…」

 そう、一平には帰らなければならない場所があるけれど、帰ってきてもいい場所もあるということ。それが俺との『あの空間』ということ。

「だから…だったのかな…」
「ん?何がだい?」
「あいつが…一平が苦しんでた理由って…」
「そうだな…恐らく一平くんの悩みは、君には見えなくて当たり前なんだろうな…?」

 俺には帰る場所が一つしかない。
 クロと共に過ごす、俺だけの空間。

 でも、一平にはどうしても帰らなきゃいけない場所がある。本当の気持ちを押し殺しては宿命と戦い、俺とのいけない関係がバレそうな状況で、もがき苦しんでいる…

 俺には到底分からない、理解してあげられない気持ち…大輔さんの言う通りだ。

「一平くん、もしかしてαなのか?」
「はい…しかも、かなりのエリート…」
「それが故ってやつか…いや、そこも問題なんだろうけど、もっと深い問題はそこじゃないかもな?」
「えっ…?これ以外に何かありますか?」
「あるんだよ…一平くんにあって君にない問題…それは『家族』なんだろうな?」

 俺は大輔さんに『家族』がいないことを話していない。でもこの時、大輔さんが指していた『家族』には違う意味が込められていた。

「帰らなければいけない、それが彼女のためじゃなくても守らなければならない、‪α‬故の家族のしがらみもあって、全てを壊してはいけない…でも、自分の本当の答えが見つからない、いや…見つけてはいけない」
「ど、どうして…」
「真実を見つけてしまったら、もっと本当の答えが見つからなくなってしまうから…」
「…い、一平…」

 俺には計り知れない重圧と君は戦いながら、俺の事を愛そうとしてくれた。でも、その重圧とともに『バレる恐怖』や『何かが壊れてしまう恐怖』とずっと一人で戦っていたからこそ、本当の自分がまた見えなくなってしまっていたんだ…

「自分の本当の幸せはなんなんだろう…君が教えてくれた本当の自分と偽りの自分、そしてこの先どうしていくことが正しいことなのか…その答えを見つけるために、二人は距離を置いた」
「……」
「それでも、君の脳裏に一平くんがいるのであれば、一平くんの脳裏にも君がいる。二人は心から愛し合っているという事実に嘘偽りはない…そして、君には君にしか出来ないことがある」

『間違ったことをしていない君に出来ることは、一平くんがしっかりとした答えを見つけた時、その答えを君が受け入れてあげることかな?』

 間違ったことをしていない…いけない恋だとしても、偽りの一平が俺の前では本当の一平になれることは、間違いなことでは無い。

 いけない恋が全て『いけないわけではないんだ』と、大輔さんは、そう俺に伝えたかったのだろう。

 そうだ、もう片想いなんかじゃない。
 俺も君も心から素直に愛し合っている。
 そして、君の宿命と偽りだって俺はしっかりと理解している。

 なら…今の俺に出来ることは、これからも変わらず君のために『あの空感』を守り続けて、君が見つける答えを待ってあげること。

 その答えがどんなものになったとしても、君の想いを受け止めてあげることが今の俺に出来る『使命』なのだと、そう感じることが出来たのだから。
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