上 下
38 / 154
四章 俺の気持ちと秘密、そしてまだ見えぬ君の想い

しおりを挟む
 改めての自己紹介も終わり、俺は蝋燭に火を灯し、線香の準備と洋菓子のセットを袋から取り出し、東雲家のお墓の前へそっと添えてあげた。

「僕と同じやつを買ってくれたんですね」
「ああ、あいつも甘いものが嫌いだったから」
「…えっ?」

 俺の返答にどことなく首を傾げる一平。
 君の前では素直でいると、嘘はつかず全てをさらけ出すと俺は心に誓った。ならば、君に聞いて欲しい、知っておいて欲しいことがある。

 重い話になるかもしれない。
 辛い、嫌だと思わせてしまうかもしれない。
 でも、こんなチャンスのないこの日に、ここへ君と来たかった秘密を君だけには伝えるから。

 一平の反応が俺の耳を刺激したけれど、俺はそのまま墓の前で手を合わせた。そして、隣で一平もしっかりと手を合わせ、拝んでくれていた。

「…遼…?今年は独りじゃないぞ?」
「えっ…ゆ、優太さん…?」
「俺の隣にいる一平。お前と同い年なんだ」
「………」
「甘くない、でも甘いものが嫌いでも、このクッキーは食べられるそうだ。美味しさは一平が証明してくれたよ?ダメなら俺が食べてた」

 お墓に向かって、偽名の遼だの甘いものだの、勝手に自分の紹介をされて、隣にいた一平もそろそろ困り果てるところだった。

「ゆ、優太さん…!」
「…遼って名前、聞き覚えあるだろ…?」
「も、もちろんじゃないですか!!」
「…遼は俺の弟、二つ離れた弟の名前なんだ」
「…えっ…」
「俺が使っていた偽名は、決して忘れることの出来ない弟の名前…それが遼なんだ」

 これが俺の秘密。俺がずっと一人だった理由。
 誰にも話したくなかった、家族の秘密だ。

「なぁ、一平?遼のこと聞いてくれるか?」
「…ぼ、僕なんかでいいんですか?」
「お前がいい…いや、お前にしか話さない」
「優太さん…分かりました、聞かせてください」

 一平に了承を得られた俺は、ずっと一人で過ごしてきた本当の理由を嘘偽りなく吐き出すことにしたんだ。

「俺には家族がいない、もう誰もいないんだ」
「…はいっ」
「二つ年下の遼は、俺に似つかずで趣味も真逆、甘いものも嫌い。それでも俺と遼は仲が良くて、何かをする時はいつでも一緒だった」
「……」
「俺が家を離れて自立した時も、遼だけは俺を心配しては家に来てくれて、ご飯を作ってくれたり、一緒にゲームをしたりして兄弟なのに親友のような存在だって俺は思っていた」

「なのに、なのにさ…何故だか俺の元からは大好きな人が離れていってしまう…遼ですら、俺の目の前から消えてしまった…」
「…えっ…」

 君にはこの隠していた気持ちを全て伝え、俺の全てを知って欲しいと思ったのに…身体の震えが止まらない、止められないよ…

 そんな俺の話に耳を傾け続けては、震える身体を優しく抱いてくれる一平。この時、君のこの温もりのおかげで俺は、全てを吐き出すことが出来たんだ。

「両親は交通事故で亡くなった…もうそれだけで十分なのに、遼までも事故でいなくなってしまった…どうして、どうして遼までも…」

「…それから俺は、ずっと独りだ…そして、これからもずっと…俺は独りなんだ…!」

 君にこんなことを話してよかったのだろうか…君に向かって『ずっと独りだ』なんて吐き出してしまって良かったのだろうか…

 全くいいわけがない。君を好きになって、許されないことをして、そんな君には帰る場所があって…最後は独りになると分かっているそんな事実を君に伝えてしまう俺はどうにかしている。

 この空間だけを大事にしたい。それだけでいいのに俺の気持ちは、とっくにその空間以外を求めている。君には知って欲しい理由は、君のことが恋しくて、君を俺のものにしたい、ずっと俺の傍にいて欲しいと心が叫ぶから。

 それでも、こんな酷いことを伝え、身体を震わせながら涙を流したとしても、一平は何も変わらず俺の背中を優しく、いつもの大好きな温もりと香りで俺を包み込んでくれていたんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋のキューピットは歪な愛に招かれる

春於
BL
〈あらすじ〉 ベータの美坂秀斗は、アルファである両親と親友が運命の番に出会った瞬間を目の当たりにしたことで心に深い傷を負った。 それも親友の相手は自分を慕ってくれていた後輩だったこともあり、それからは二人から逃げ、自分の心の傷から目を逸らすように生きてきた。 そして三十路になった今、このまま誰とも恋をせずに死ぬのだろうと思っていたところにかつての親友と遭遇してしまう。 〈キャラクター設定〉 美坂(松雪) 秀斗 ・ベータ ・30歳 ・会社員(総合商社勤務) ・物静かで穏やか ・仲良くなるまで時間がかかるが、心を許すと依存気味になる ・自分に自信がなく、消極的 ・アルファ×アルファの政略結婚をした両親の元に生まれた一人っ子 ・両親が目の前で運命の番を見つけ、自分を捨てたことがトラウマになっている 養父と正式に養子縁組を結ぶまでは松雪姓だった ・行方をくらますために一時期留学していたのもあり、語学が堪能 二見 蒼 ・アルファ ・30歳 ・御曹司(二見不動産) ・明るくて面倒見が良い ・一途 ・独占欲が強い ・中学3年生のときに不登校気味で1人でいる秀斗を気遣って接しているうちに好きになっていく ・元々家業を継ぐために学んでいたために優秀だったが、秀斗を迎え入れるために誰からも文句を言われぬように会社を繁栄させようと邁進してる ・日向のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(日向)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づくと同時に日向に向けていた熱はすぐさま消え去った 二見(筒井) 日向 ・オメガ ・28歳 ・フリーランスのSE(今は育児休業中) ・人懐っこくて甘え上手 ・猪突猛進なところがある ・感情豊かで少し気分の浮き沈みが激しい ・高校一年生のときに困っている自分に声をかけてくれた秀斗に一目惚れし、絶対に秀斗と結婚すると決めていた ・秀斗を迎え入れるために早めに子どもをつくろうと蒼と相談していたため、会社には勤めずにフリーランスとして仕事をしている ・蒼のことは家族としての好意を持っており、光希のこともちゃんと愛している ・運命の番(蒼)に出会ったときは本能によって心が惹かれるのを感じたが、秀斗の姿がないのに気づいた瞬間に絶望をして一時期病んでた ※他サイトにも掲載しています  ビーボーイ創作BL大賞3に応募していた作品です

運命なんて残酷なだけ

緋川真望
BL
「この人が本当に運命の番ならいいのに」 オメガである透はアルファの婚約者との結婚を間近に控えたある日、知らない男に襲われてむりやり番(つがい)にされてしまう。汚されたΩは家門の恥だと屋敷を追い出され、婚約も破棄され、透はその事件ですべてを失った。 三年後、母の葬儀にこっそり参加した透は参列者のひとりから強烈なアルファのフェロモンを感じ取る。番にされたオメガは番のフェロモンしか感じ取れないはず。透はその男こそ犯人だと思ってナイフで襲いかかるが、互いに発情してしまい激しく交わってしまう。 男は神崎慶という実業家で、自分は犯人ではないと透に訴える。疑いを消せない透に対して「俺が犯人を捕まえてやる。すべて成し遂げた暁には俺と結婚して欲しい」といきなりプロポーズするのだが……。 透の過去は悲惨ですが、慶がものすごいスパダリなのでそこまでつらい展開は無いはずです。 ちゃんとハッピーエンドになります。 (攻めが黒幕だったとかいう闇BLではありません)

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)

Oj
BL
オメガバースBLです。 受けが妊娠しますので、ご注意下さい。 コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。 ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。 アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。 ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。 菊島 華 (きくしま はな)   受 両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。 森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄  森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。 森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟 森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。 健司と裕司は二卵性の双子です。 オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。 男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。 アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。 その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。 この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。 また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。 独自解釈している設定があります。 第二部にて息子達とその恋人達です。 長男 咲也 (さくや) 次男 伊吹 (いぶき) 三男 開斗 (かいと) 咲也の恋人 朝陽 (あさひ) 伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう) 開斗の恋人 アイ・ミイ 本編完結しています。 今後は短編を更新する予定です。

記憶の欠片

藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。 過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。 輪廻転生。オメガバース。 フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。 kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。 残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。 フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。 表紙は 紅さん@xdkzw48

これがおれの運命なら

やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。 ※オメガバース。Ωに厳しめの世界。 ※性的表現あり。

処理中です...