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お前のものは俺のもの
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──その日以降、俺は外を見つめる時間が少なくなったんだ。
あの雲のように自由になりたい…
何も失いたくないから独りでもいい…
空を見ては、ずっとそう思っていたけれど、大切な友達が出来た俺には、もうそんな事を考える必要は無い。
裕翔の眼鏡を掛けて見える黒板の字は、少しだけボヤけていたけれど、裕翔の眼鏡ってだけで気にもならずにちゃんと授業を受けていた。
その時だった…くしゃくしゃ…ぽいっ!!
な、なんの音だ…?
俺は、音に気を取られ振り向いてみると、裕翔が丸めて作ったメモ用紙の球が、駿の頭へ綺麗な放物線を描き、見事なシュートを決めていたんだ。
「はいっ!?おはようございまぁす!?」
シュートが決まった事に驚き、目を覚ます駿に先公も「水上っ!うるさいぞ!」と叱責しているはずなのに、クラスメイトは笑いの渦に巻き込まれている。
それと同時に駿は裕翔を見つめ『お前だなっ!?』とでも言っているかのような顔で睨みを利かせながらも笑い合う二人…
本当は、俺も笑うべきところなんだろうけれど、俺は駿が羨ましかった。
バカやってるはずなのにみんなから慕われ、いつでも明るく、そして自然と周りまでも明るく出来る駿の事が羨ましかったんだ。
──そして昼時
裕翔は駿と購買争奪戦争に駆け出して行ったけれど、俺はいつも通り何も食べずに、席でのんびりとしていた。
昼ご飯か…一人で食べたって美味くないしな…
お昼ご飯を食べなくなったのは、いつからだろうか…独りになってから俺はずっと、お昼ご飯を食べた事がなかった。
そして、いつの間にか食べなくても過ごせる身体になってしまっていたのは確かだった。
裕翔と友達になれたとしても、駿とは友達になった訳では無いし、二人で楽しそうにしているところへ割り込んでいく勇気もない…
そんな風に思っていたその時だ、毎度アクションを起こしては、俺に希望の光を照らしてくれる裕翔のお出ましだ。
「大和っ!一緒にご飯食べよっ!」
「うん?俺とか?」
「大和は君以外いないでしょ…それと、駿も一緒に!!」
一人で何も食べずに過ごしていた俺を気遣っては、優しく声をかけてくれる裕翔。
そして、割り込んではいけないと思っていたのに、改めて駿の事を紹介してくれて、仲を繋ごうとまでしてくれているのが伝わってきたんだ。
「山際、よろしくな?」
「ああ、こちらこそ…よろしくな?」
裕翔の事だ、きっと自分の大切な友達とも仲良くなって欲しい…そういう風に考えて仲を繋ごうとしてくれたんだよな?
お前のその優しさに、どれだけの人が救われて勇気を貰っているか…
お前はほんとに凄いやつだよ…なら、俺もその気持ちに応えないといけないよな…?
駿と軽く挨拶を交わしてから、俺たちは三人で昼時間を過ごしていく。
裕翔は、ストローの刺さったいちごオレと鶏の照り焼きパンを可愛くて小さな口へと運んでいくその姿だけで、俺はお腹いっぱいだ…
美味しそうに食べる裕翔が「ねぇねぇ、大和は、お昼ご飯食べないの?」と俺に問いかけ、駿も裕翔の言葉に合わせて「山際、いつもなんも食ってねぇよな」と二人で紡いできたんだ。
「俺、昔からお昼ご飯ってあんま食べてなかったんだよな…そんなお腹も空かないし」
「まじか…俺なんかこの焼きそばパンを食っても腹減ってんのに…」
「駿は、バスケ部で身体も動かすから、お腹空くんじゃない?」
「そうか~!そりゃそうかもしれねぇな!」とガハハッと笑う駿に、俺も自然と笑みが零れちまった。
この空間…うん、すごく楽しいな…!
でも、俺は二人に嘘をついちまった…
俺が一人だった事を知っているのは裕翔だけで、一人だったから食べてなかった、なんて駿の前では言えなかった。
でも、明日からは食べてみてもいいのかもしれないな…?
そんな事を考えつつも、小さな口にストローを添えて、大好物のいちごオレを美味しそうに飲む裕翔。
それだけでも可愛いのに、俺は裕翔にちょっとしたイタズラをしてやりたくなっちまったんだ。
徐に裕翔のいちごオレを俺は手に取り…
「でもな?腹は減らなくても喉は乾く、お前のものは俺のものだから…」
そう言い残し、俺は裕翔が使ったストローにそっと口を付け…いちごオレを喉へと通していったんだ。
甘い…前に貰ったいちごオレよりも甘ったるく感じた。
「うん、やっぱ裕翔の大好物はうまいな、ほらお前も飲めよ」
俺も俺でずるい…素直に「一口くれ」なんて言えなくて、お前のものは俺のものと言い張っては、自分の気持ちをコントロールしていたのかもしれない。
だって、これ…間接キスだぜ…?
俺、初めて好きなやつのストローに口をつけたんだぜ…?俺もやり方がせこいよなぁ…
それでも、俺は自分のペースを崩さないようにしていた。
裕翔に好きだということがバレないように…
俺と裕翔の秘密が周りにバレないようにするために…
そんな俺の気持ちとは裏腹に、裕翔はどことなく慌てた様子だ。
裕翔『お前も間接キスだー!』とか思ってくれてんのかな…?
駿に助けの眼差しを送る裕翔…
そして、それに答える駿。
「まぁあれだろ、俺のものってのは、よう分からんが、友達同士で回し飲みとかぐらいはやるだろ?俺も部活中、飲み物足りんやつに分けてやることあるもんな」
駿にそう言われ、裕翔の気持ちは少し落ち着きを見せたのか、俺が口付けたストローに口を付け、美味しそうにいちごオレを喉へと通していったんだ。
ふふ…!ほんっと、可愛いやつ…
あの雲のように自由になりたい…
何も失いたくないから独りでもいい…
空を見ては、ずっとそう思っていたけれど、大切な友達が出来た俺には、もうそんな事を考える必要は無い。
裕翔の眼鏡を掛けて見える黒板の字は、少しだけボヤけていたけれど、裕翔の眼鏡ってだけで気にもならずにちゃんと授業を受けていた。
その時だった…くしゃくしゃ…ぽいっ!!
な、なんの音だ…?
俺は、音に気を取られ振り向いてみると、裕翔が丸めて作ったメモ用紙の球が、駿の頭へ綺麗な放物線を描き、見事なシュートを決めていたんだ。
「はいっ!?おはようございまぁす!?」
シュートが決まった事に驚き、目を覚ます駿に先公も「水上っ!うるさいぞ!」と叱責しているはずなのに、クラスメイトは笑いの渦に巻き込まれている。
それと同時に駿は裕翔を見つめ『お前だなっ!?』とでも言っているかのような顔で睨みを利かせながらも笑い合う二人…
本当は、俺も笑うべきところなんだろうけれど、俺は駿が羨ましかった。
バカやってるはずなのにみんなから慕われ、いつでも明るく、そして自然と周りまでも明るく出来る駿の事が羨ましかったんだ。
──そして昼時
裕翔は駿と購買争奪戦争に駆け出して行ったけれど、俺はいつも通り何も食べずに、席でのんびりとしていた。
昼ご飯か…一人で食べたって美味くないしな…
お昼ご飯を食べなくなったのは、いつからだろうか…独りになってから俺はずっと、お昼ご飯を食べた事がなかった。
そして、いつの間にか食べなくても過ごせる身体になってしまっていたのは確かだった。
裕翔と友達になれたとしても、駿とは友達になった訳では無いし、二人で楽しそうにしているところへ割り込んでいく勇気もない…
そんな風に思っていたその時だ、毎度アクションを起こしては、俺に希望の光を照らしてくれる裕翔のお出ましだ。
「大和っ!一緒にご飯食べよっ!」
「うん?俺とか?」
「大和は君以外いないでしょ…それと、駿も一緒に!!」
一人で何も食べずに過ごしていた俺を気遣っては、優しく声をかけてくれる裕翔。
そして、割り込んではいけないと思っていたのに、改めて駿の事を紹介してくれて、仲を繋ごうとまでしてくれているのが伝わってきたんだ。
「山際、よろしくな?」
「ああ、こちらこそ…よろしくな?」
裕翔の事だ、きっと自分の大切な友達とも仲良くなって欲しい…そういう風に考えて仲を繋ごうとしてくれたんだよな?
お前のその優しさに、どれだけの人が救われて勇気を貰っているか…
お前はほんとに凄いやつだよ…なら、俺もその気持ちに応えないといけないよな…?
駿と軽く挨拶を交わしてから、俺たちは三人で昼時間を過ごしていく。
裕翔は、ストローの刺さったいちごオレと鶏の照り焼きパンを可愛くて小さな口へと運んでいくその姿だけで、俺はお腹いっぱいだ…
美味しそうに食べる裕翔が「ねぇねぇ、大和は、お昼ご飯食べないの?」と俺に問いかけ、駿も裕翔の言葉に合わせて「山際、いつもなんも食ってねぇよな」と二人で紡いできたんだ。
「俺、昔からお昼ご飯ってあんま食べてなかったんだよな…そんなお腹も空かないし」
「まじか…俺なんかこの焼きそばパンを食っても腹減ってんのに…」
「駿は、バスケ部で身体も動かすから、お腹空くんじゃない?」
「そうか~!そりゃそうかもしれねぇな!」とガハハッと笑う駿に、俺も自然と笑みが零れちまった。
この空間…うん、すごく楽しいな…!
でも、俺は二人に嘘をついちまった…
俺が一人だった事を知っているのは裕翔だけで、一人だったから食べてなかった、なんて駿の前では言えなかった。
でも、明日からは食べてみてもいいのかもしれないな…?
そんな事を考えつつも、小さな口にストローを添えて、大好物のいちごオレを美味しそうに飲む裕翔。
それだけでも可愛いのに、俺は裕翔にちょっとしたイタズラをしてやりたくなっちまったんだ。
徐に裕翔のいちごオレを俺は手に取り…
「でもな?腹は減らなくても喉は乾く、お前のものは俺のものだから…」
そう言い残し、俺は裕翔が使ったストローにそっと口を付け…いちごオレを喉へと通していったんだ。
甘い…前に貰ったいちごオレよりも甘ったるく感じた。
「うん、やっぱ裕翔の大好物はうまいな、ほらお前も飲めよ」
俺も俺でずるい…素直に「一口くれ」なんて言えなくて、お前のものは俺のものと言い張っては、自分の気持ちをコントロールしていたのかもしれない。
だって、これ…間接キスだぜ…?
俺、初めて好きなやつのストローに口をつけたんだぜ…?俺もやり方がせこいよなぁ…
それでも、俺は自分のペースを崩さないようにしていた。
裕翔に好きだということがバレないように…
俺と裕翔の秘密が周りにバレないようにするために…
そんな俺の気持ちとは裏腹に、裕翔はどことなく慌てた様子だ。
裕翔『お前も間接キスだー!』とか思ってくれてんのかな…?
駿に助けの眼差しを送る裕翔…
そして、それに答える駿。
「まぁあれだろ、俺のものってのは、よう分からんが、友達同士で回し飲みとかぐらいはやるだろ?俺も部活中、飲み物足りんやつに分けてやることあるもんな」
駿にそう言われ、裕翔の気持ちは少し落ち着きを見せたのか、俺が口付けたストローに口を付け、美味しそうにいちごオレを喉へと通していったんだ。
ふふ…!ほんっと、可愛いやつ…
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