上 下
13 / 59
#1 ウメコ・ハマーナットの長い一日

外労連《げろうれん》

しおりを挟む
 ウメコは無法バグモタ乗りに相対して、捕虫労組合所属の開拓連合労民として断固とした態度で臨まねばならない。外労バグモタを見据えつつ、小梅を虫霧の中へと近づけて行きながら、ウメコは、発見した非合法バグモタの違法行為を証明するべく、開拓推進連合共同約定のバグモーティヴ運用に関する条項を表示させ、無駄だとわかっていながらも、外部スピーカーのスイッチを入れるよう小梅に言った。
 
『ドウゾ』

 オホン、と咳払いひとつしてウメコはまくし立てた。「こちらはセグメント8区、捕虫労組合前線捕虫班第8!そこのバグモタ!所属を明らかにしなさい!この区域は非連合労民立ち入り禁止区域である!またー、バグモーティヴの非合法所持、並びに運転はー、連合規約第67条違反であーる!速やかに当局に申請のうえー、即刻立ち退きな・・・」

≪ボンッ!≫

 バッタ型外労バグモタの左手に据え付けられたクラック銃が煙を吐いたのを見るとまもなく、ウメコは被弾した小梅のコクピット内で、軽い衝撃に揺れた。「あいつ!!」

 弾は小梅の右大腿で破裂したが、クラック値の低さと距離もあって、大きなダメージは免れた。

 ウメコはスピーカーを切って、小梅のギアをローに変え、再度の被弾に備えながら、バッタ型に回り込むようにして虫霧の中を目指す。その一連の動きの中で、思わずトランスネット・アンテナの一基を蹴り倒してしまった。「仕方ないだろ!」

≪ボンッ!≫

 今度はウメコはよけた。

≪ボンッ≫ボンッ!≫しかし足を止めて狙いを定めてきたバッタ型が続けざまに放ったうちの一発が腰に命中した。衝撃はさっきより大きかった。

「チクショー!」

 トランスヴィジョンの分析は<クラック値40v>の破裂と出た。距離が縮まれば侮れない数値だった。

 さらに距離を縮めながら、バッタ型は≪ボンッ!≫ボンッ!≫と闇雲に打ちまくり、そのうちの一発が右膝を打ち、小梅をグラつかせた。

 まったくこの切れ間が災いとなった。捕虫圏居住民においては、やはり虫きの魔女の庇護なしに生きてはいけないのだと、ウメコは後悔した。これはきっとウィキッドビューグルのまき散らす聖なる虫の旋律からいっときでも耳を塞いで蝶ちょなんか追いかけてた罰なんだ。『蝶を見たら音楽を止めよ』これは音楽のように流れ出る好奇心の虫を起こすなと言っているんだ。

《パッパララッパ♪パッパララッパ~♪》

 そのとき小梅の正面モニター上に、ラッパに乗った魔女が現れた。現ウィキッド・ビューグル4人のうちのひとり、トラーネだった。今日はトラーネの第三月の3日だった。
 ウメコのトラメットのバイザー視界は小梅のメインカメラからのものだから、そういうときにはウィキッドビューグルでさえバイザー内のトラビには入って来れないようにできていた。だからウメコは小梅の正面モニターは直接見れない。だけど開拓労民ならラッパの音がすればそれとわかる。

《通信制限かかってるから見に来てやったのさ、とりこみ中らしいな》

「トラーネ様!ちょっと黙ってて!」ウメコは思わずぞんざいに言った。

《フン、相変わらず生意気な娘だねぇ、せっかく駆けつけてやったってのに》

「攻撃されてんの!」

 トランスヴィジョンの中の魔女に、はたして非トランスネット登録のバグモタが認識できるのかは疑門だったが、ウメコもいまはそんなこと考えてる余裕がない。

《応援呼んであげるから、ちょっとお待ち》

「それよりあの外労連バグモタ止めて下さいな!」

《それができたらとっくにしてるわよ、あいつらNOトロンよ。高性能の脳トロン内臓クラックウォーカーがあんなのにやられたら連合労民の恥だと思いなさい!それともアタシがコントロールしてやろうか?小梅ちゃんをさ》

「結構ですよ!それよか虫を播いたらどうですか?!こんな穴開けちゃってさ!」

《フン、おまえたちの虫の居所なんて知ったこっちゃないね》トラーネは言い残し、それっきり声は途絶えた。

 ウメコは生意気じゃないバグラーがいるなら教えて欲しいと心の中で毒づきながら、自由気ままに飛び回っているように見えて、通信制限のある中で、取り残された開拓労民のため、しっかりトランスネット圏内を巡回してくれているウィキッド・ビューグルの存在を、改めて頼もしく思った。

「小梅、通信制限解除して!」

 蝶はレーダー上からも完全に消えた。これでただちに、非合法バグモタの出現の通報が自動的に送られ、警防各署に届き、確実に警役、防役要員が駆けつけるはずだ。それより先にトラーネによって、一番近くにいる保安労辺りの見廻り要員レンジャーのバグモタが呼ばれてやってくるだろう。トランスネットの制限が解除され、ウメコのバイザー内にも、近くにいるレンジャーのバグモタの所在が知れた。5㎞は離れていた。

 ただ、この状況で悠長に援軍など待ってもいられない。虫霧の中に戻りさえすればこっちのものだと、ウメコはひたすら小梅を走らせる。敵が手近な虫霧への進路を塞ごうが、矩形くけいに長く伸びた切れ間の先を真っすぐ行けば、どのみち虫霧だ。敵がこっちの意図を察して深追いして来ないなら、手薄のこちらとしては、それに越したことはないけれど、何発か喰らって居直ったいまのウメコは、大胆にも敵がこちらを侮って追いかけてくるように、どこか弱気を装って逃げる姿勢をとっていた。バグパックの後ろに浮いた手つかずの網と、まだ半分以上は残っている網の中の虫への被弾だけは避けるべく気を配りながら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

果てしなき宇宙の片隅で 序章 サラマンダー

緋熊熊五郎
SF
果てしなき宇宙の片隅で、未知の生物などが紡ぐ物語 遂に火星に到達した人類は、2035年、入植地東キャナル市北東35キロの地点で、古代宇宙文明の残滓といえる宇宙船の残骸を発見した。その宇宙船の中から古代の神話、歴史、物語とも判断がつかない断簡を発掘し、それを平易に翻訳したのが本物語の序章、サラマンダーである。サラマンダーと名付けられた由縁は、断簡を納めていた金属ケースに、羽根を持ち、火を吐く赤い竜が描かれていたことによる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

IZA-イザ-

高山 祥
SF
私は時折り考える。 箱を手に取り選んだのは、 果たして「私」、なのだろうか。 その箱を選んだ「私」は何者であるのだろうか。 ーー令和という激動の時代も後半に差し掛かった頃。 日本は流行病と大震災を乗り越えて 「人工知能」を生活の基盤に置くようになっていた。 大手医療機器メーカに務める霧島瑞稀(きりしま みずき)は この世界の仕組みに違和感を感じていながらも、 日々を淡々と過ごしていた。 --今日の晩御飯も、明日着る服も、進学先も、仕事も、推奨される趣味嗜好においても、全てを「人工知能」が決めるこの世界を。 疑心をおくびにも出さず過ごすある日、瑞稀は友人に 謎のSNS投稿アカウント「Mirzam(ミルザム)」を紹介される。 一見ただの娯楽目的のアカウントに思えたが このMirzamの思いもよらない行動が切っ掛けとなり --瑞稀の人生の歯車が大きく動かされてしまう。 ここは「人工知能」に全てを委ねる世界。 そこに、貴方の意志はありますか? 貴方は、これから訪れる未来を --愛することができますか?

処理中です...