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第二部 最大級の使い捨てパンチ
「我輩が相手になろう」
しおりを挟む「ぉ、ぉぉおおお!」
ケイトに直撃したかに思われた一撃はパンチが立ちふさがり受け止めていた。衝撃で地面がへこみ、パンチの片腕は潰れたように折れてしまい、あらぬ方向に曲がっていた。
それでも意地なのか、膝をついてしまうが受け止め続ける。
「パンチあなた!」
役立たずと言ってしまったケイトは助けてくれたパンチに声を掛ける。パンチは役立たずであることは真実であると受け止めていた。そのうえで笑って答える。
「確かに一発打っちまったら倒れちまう役立たずだけどよ、お嬢を助けたい気持ちは誰にも負けねえ」
遂にゴリラードの渾身の一撃を受け止めきったパンチは力強く吠えた。ゴリラードは自分よりも確実に弱く、小さきモノの気迫に押されるように後ろへ下がった。
「よく言ったよ!あたいはあんたみたいな男嫌いじゃないよ」
「俺も、絶対助けましょう!」
レナとロットも駆けつけてゴリラードを睨みつける。
「悪かったわ、役立たずなんて言って。みんなで助けましょう」
ケイトもパンチのことを認める笑みでそう言いゴリラードを見据える。
ゴリラードは自分より弱いと思っていた人間が逃げずに向かってくることに恐れ、苛立っている。しかし攻めきれず、威嚇のような唸り声を出すに留まっていた。
「結構限界なんだが魔法はいけそうか?」
攻撃の手が止まったため間ができた。自身が軽くはない怪我をしていることを受け止めてふらつくパンチ。
「ええ、大丈夫よ」
ケイトが安心させるように言った。多くない魔力量では極み魔法を一撃放つにはギリギリであり、もしかしたら不発になる、それほどの瀬戸際にあった魔力量だがあえて言葉にはしなかった。
ロットだけはケイトの状態に気がつくも、そこに頼るしかないため準備に取り掛かる。
「レナさんタイミング合わせて一撃を叩き込みますよ。その後すぐ散開です」
ケイトと一緒に旅をしてきたロットは何も言わずとも作戦を進める。阿吽の呼吸。それにレナもパンチも従う。
「あいよ」
「俺はどうすればいい!」
既に左腕が使い物にならないパンチが聞いた。
「パンチさんは俺たちが一撃いれる隙を作るためもう一度だけ攻撃を食い止めてください」
「お、おう!」
右腕も使い捨てる覚悟だったものの、躊躇なくもう片方の腕も捨ててほしいと言われて、目の前の少年が自分が思った以上にと肝が座っできることを実感した。
ようやくゴリラードは自らが人間を怖がっているという事実を振り払うかのように雄叫びを上げてまた襲いかかりだした。
「だっらぁぁぁああ!!!」
対峙したパンチが腕をクロスさせて打て止める。腕を投げ出す覚悟だったが、意識的に恐れていたからかゴリラードの威力は格段におちており、これ以上腕を犠牲にすることなくどうにか受け止めた。
その隙にロットとレナは一撃を叩き込む。
「ではいきます!突獅っ!!」
「一閃!」
「ぐろぉぉおあ!」
二人の渾身の一撃は左足を捉えた。右足ほどではないがしっかりと傷となり、激痛に悶えるゴリラードの叫び声が響いた。そして両足を傷つけられてとうとう膝をついたゴリラードからパンチがさっとのいた。
その後ろではケイトが構えている。野生の勘が働いたのが逃げ出そうとするゴリラード。しかし足の傷によりうまく動けず転倒してしまう。そこにケイトが魔法を放った。
「極魔法、鰯の矢」
数百数千の魔法の弓矢がゴリラードを襲う。その一本一本が鋭く、ゴリラードの体にぶち当たる。剣さえもなかなか通さない頑丈な体皮だったが、執拗に突き刺さる魔法の矢にいとも簡単に穴だらけになったゴリラードは崩れ落ちるように倒れた。
「やった!」
喜ぶロットの視界の端でケイトが崩れ落ちるのが見えた。
全員がすぐさま駆け寄る。意識は失っておらず、魔力切れはかろうじて回避していたが、一人では立てない様子にレナが肩を貸した。
「どうしたんだい?倒れちまって」
「魔力切れを起こしたんだよ。ケイトはもとの魔力が少ないんだ」
「へ?あたいとやったときは同じような魔法ばかすか打ってなかったかい?」
魔法の威力こそすごかったがレナとの対決ではそれ以上の魔力を消費していたため疑問視する。
「それは、俺の魔力をケイトに譲渡してたんだ。この指輪の魔道具を使ってね」
ケイトが指にはめていたのを指して言った。
「それってエレナが今持ってるやつかい?」
「うん。ちなみに俺は魔力は多いんだけど体質のせいで魔法はあまり使えない」
自身の魔力を魔法に変換すると100分の1以下になってしまうことを伝えると心底驚いた様子を見せた。
「あんたら手をつないでたのはただの仲良しじゃなかったんだな」
おそろいの指輪をした子どものカップルくらいに思っていたレナは色々と納得がいったようだった。
全員生き残り、奴隷商人を睨みつけた。ゴリラードが倒されるとは全く思っていなかったため取り乱した奴隷商人は人を値踏みする醜悪な笑みを浮かべることすら忘れている。
「な、なんと、ゴリラードが……。はっ、旦那様、に、逃げましょう。奴ら少しばかりやるようで。このままですとわたくしもあなた様も危険が参ります」
もはや余裕はなくなり、自身の商品も置き去りにして逃げるつもりでいた。
「もうよい」
貴族の男はその姿に呆れて興味をなくす。頭を鷲掴むと徐々に力を加えていく。
「ひぃぃぃ、お許しを旦那様。おたすけぇぇぇえぁ?がぷゃ」
何が起こったのか分からず、痛みから必死な命乞いをした奴隷商人は、そのままりんごのように潰されて動かなくなった。
それを横に投げ捨てて観客席の際の所まで来て、あっさりと飛び降りた。武器は特に見当たらなかったが、音もなく降り立つ姿にロットたちは恐怖を覚える。
「吾輩が相手になろう」
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