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第二部 最大級の使い捨てパンチ
「俺はパンチ。役立たず」
しおりを挟む男は気絶した割に図々しくいびきをかいていつまでも寝ていたのでケイトによって縄でぐるぐる巻きにして放置されていた。
そのまま放って魔物の餌にしてしまうのは流石に非道なので今日はこの場で夜を明かすことにした。そして火を囲み夕食の準備も出来上がった頃ようやく男は目を覚ます。
「む?ここは……な、なんで俺が縛られてやがる!解け!縄を解きやがれ!」
男は自分の置かれている状況に焦り騒ぎ始めるが、容赦なく縛られていたので芋虫が這うようにしか動けないでいた。
声は怒りに満ちていたが、その体制では全く怖くはない。
「うるさいわねぇ。状況くらい察しなさいよ。あなたは私たちを襲って気を失って捕まったのよ」
踏みつけながらケイトがそう言うと流石に思い出したのか一瞬動きをとめる。つかの間やはり「解きやがれ!」と暴れ出したのですかさずエレナが声をかけた。
「ちなみに縄を解いて逃げようものなら姐さんが容赦なく魔法で焼き切るそうっすよ」
その顔はいやらしく笑っていて男の顔が一瞬にして青ざめた。ロットだけは二人の女性にいいようにやられている男に同情しつつも遠目で眺めているだけにとどめている。
「わ、わかった。大人しくしてやろう」
男はそう言うと動きを止めた。まだ自分が交渉できる立場にあると思っているのか無様な体勢で横たわりながら威厳を保とうとしている。
「まず名前は?」
いらいらを少し表に出しながらケイトが尋ねると、男はそのまま仰向けにされるように足で蹴られた。男は悪態こそつかなかったが反抗的に睨みつけ、誇らしげに答えた。
「俺か?賊に売人小悪党、どんな悪者もその一撃で全てを破壊するワンパンのパンチ様たあ俺のことよ!」
カッコつけて言った割にしょうもない名乗りにケイトは鼻で笑う。その様子に、若干カッコいいなと思っていたロットは目を伏せた。
「はいはい、パンチ君っすね。ワンパンで気絶したのはあなたっすけど」
エレナが冷ややかに返す。皮肉がわかっていないからかパンチという男は笑顔を作りエレナを呆れさした。
「それで?私たちのあとを付けてたのはどうしてかしら」
パンチの目が驚きで見開かれた。
「気がつかれていたのか!」
パンチは本当に驚いたようだった。ケイトは思わずため息をつき、エレナとロットは心の中で「馬鹿なんだこの人」と思った。
「そりゃあね。あなた、身長2メートルくらいあるじゃない。そんな大きい人が後を付けてたら誰でも気がつくわよ」
ケイトが冷静に説明すると、パンチは感心したように目を見開いた。
「くっ、不覚だったぞ!」
手が動かせていたら頭を抱えていただろうパンチはすぐさま表情を変えて勝ち誇ったように見せた。
「しかしだからといって目的はわかるまい。俺を捕まえたところで、そうやすやすと教えてもらえると思わないことだな!」
芋虫のような姿勢でありながら笑っていた。その姿にケイトのイラつきは限界を突破し、パンチの頭を鷲掴みにして睨みつけた。
パンチは金髪を引っ張られながらも防ぐ手立てがないので髪の毛だけで持ち上がっていく自らの体に震えながら涙目になっている。下手に動けば髪の毛が抜けるのでか細い声で「お、おいやめてくれ」と繰り返していた。
「エレナ、ロット、ちょっと目を瞑ってなさい」
「え?」
「ほらロット君、お姉さんが目隠ししてあげるっすよ~」
「や、やめろよ、それくらい自分でできる」
二人が背を向け、言われた通り待っていると、次第に不穏な音が連続した。
「ひっ」「やめっ」「ぐごっ?」「がはっ」「ひぃ」「は、はなす、はなします!」と、パンチの声が連続して続いた。
ケイトが「目隠し終了」と告げると、振り向いたロットとエレナが見たのは無惨な男の姿だった。パンチの顔は一回り腫れ上がり、目から涙がこぼれていた。そして拘束がほどかれ、彼は正座をしていた。
ものの数十秒で変貌を遂げたパンチの姿にエレナはケイトに称賛を送り、ロットはパンチに陰ながら同情を送った。
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