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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い

「ニヒヒ、新たな旅っすね」

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「ソイルには、村に戻って元気に過ごしてほしい。でも、俺はやりたいことがあります。この魔力を使って、魔力種に苦しむ人々を救いたいです。

ただ、俺は魔力の伝達が上手くできないらしくって、勇者様がしてくれたように誰かが一緒に魔力を魔力種に困っている人に与えてくれないといけないんです」

ちらりとケイトの方を見た。つまりはケイトに一緒に旅をしてほしいといっているのだ。断られる可能性もある。それくらい今回は危険な目にあった。魔法がいくら好きでも命あっての物種というのでロットはケイトがついてきてくれるか自信が持てなかった。

「あら、私が付いていかないとでもいうと思ってるの?悪いけど私ほど魔力操作に長けている人なんてそうそういないわよ」

微笑むケイト。ついていくといっているような返事にロットの顔がパッと明るくなった。

「その旅あたしもついていきたいっす。里長いいですか?」

エレナがそう言い、ケイトもロットも驚いた。エレナの性格上、こんな危険な目にあったのだから、もう旅は勘弁っす。とでも言いそうだからだ。しかしあの魔王の攻撃をあれだけ避け続けたエレナは心強い味方になること間違いなかった。

「だめじ」
「行きたいっす」

「だめ」
「行きたいっす」

「だ」
「行きたいっす!」

「……ホッホッホ、止めても聞かんくせに」

「二ヒヒ、ばれてるっすね。ということで姐さん、ロット君よろしくっす」

里長の了承も強引に勝ち取ったエレナが言った。旅する仲間が増え、次第にソイルに視線が集まった。ここでソイルが兄と離れたくないといえばこの話は全てなかったことになりかねないから。

そしてロットたちは皆ソイルの気持ちもないがしろにする気はなく、嫌がれば諦めるつもりではいた。そうなるとロットの村に住む住人が増えることとなるが。

当の本人のソイルは、ロットたちの言葉に一瞬悲しそうな表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻した。

「お兄ちゃん、私応援してる……だから私が大きくなって元気になったらまた連れて行ってね!なのでケイトさん、エレナさん、兄をどうかよろしくお願いします」

里に戻ってからは誰でもはきはきと話せるようになってきたソイルが言った。人前でこれほどはっきりと自分の気持ちを話す妹をロットは見たことがなかった。それだけで妹の成長を感じて目頭が熱くなってくる。

しかし寂しい思いをさせてしまう。村長がいるとはいえ一人暮らしになるわけだから相当心細いかもしれない。ロットは早くも自身の決意が揺らぎ始めているのに気が付く。

そんな状況を見てナルルが口を挟む。

「ソイルの件なんだけどよ、ワシはもう冒険者はやめようと思っている。しかし片手でもそこら辺の悪党にゃ後れを取らん自信があるんだ。

どうだ?俺が村の用心棒、ソイルの用心棒として一緒にいるってのは」

もちろん家は別々でいいぜ。ナルルがそういった。ナルルなりに、自分の状況、そしてロットたちのこれから、さらにはソイルの気持ちも考えての提案だった。ソイルが誰でも話せるようになってきている現状を見て決めたことだった。

「な、ナルルさん、いいんですか?私が絶対に村長にお願いするのでぜひお願いします!わたしも知っている人が増えて嬉しいです」

だからソイルの拒絶ではない返答に安堵した。

「いいね。みんな次に向かってて。じゃあ僕は最後の仕事として村までの道のりは、責任を持って送るよ。ロットたちとはここでお別れだね」

勇者が誓うように言う。

「でも」

ソイルを連れて帰るところまでは一緒にいるつもりだったロットが断ろうとする。しかし里長がそれを遮るように話し出す。

「ロットよ。魔力種の種の取り除き方や魔力譲渡のやり方はここで学ぶ必要がある。しかし一朝一夕で出来るものではないからの。

妹はナルルさんと勇者様に託して、ケイトさんと一緒に就業するのが良いと思われるが?その期間はうちのエレナが立派な旅人になれるよう心得から知識から詰め込む期間でもあるぞ。

先程のやり取りを根に持つのかエレナには有無を言わせない勢いがあった。

「うげえ」

正論を言われてロットも納得した。エレナは少しいやそうだったが、外の世界を知り、興味を持ってしまったエレナを止めるには至らない。

こうして、ロット、ケイト、そしてエレナはエルフの里を出発する準備を整えていく。一週間もしないうちにソイルたちは里を去った。

勇者のあの強さを知ったからか、ロットは別れ際、ソイルと離れることは寂しさはあれど不安はなかった。そしてさらに月日がたち、ロットとケイトは魔力種についての知識の勉強やや魔力譲渡の訓練を通して理解を深めていった。


「行こう、ロット」

すっかり傷も治り、旅支度を整えたケイトが言った。隣では大き目のカバンにパンパンに必要物資を詰め込んだエレナも立っている。

「うん、行こう」

ロットは力強く頷いた。新たな使命と仲間たちと共に、彼らは新しい旅へと踏み出した。世界のどこかで苦しむ人々を救うため、彼らの冒険はまだまだ続く。

一部完
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