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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「襲われてぬるぬるになっちゃった」
しおりを挟む「最近、森に『粘体獣』が出るらしいんだ。アイツラは普段は小さいんだが、どうやら巨大化したやつがいるらしい。町には来ないだろうが、行商の被害が出てからじゃ遅いからな。せっかくだから報酬は弾むぜ、引き受けてくれや!」
ケイトの実力を知っているからこその依頼であった。
ロットがいくら足手まといであろうとここいらの魔物には後れを取らない。その程度には実力のあるパーティーの一員だったのだ。
粘体獣とは、魔力を吸う魔物である。たいていどの森にもいるナメクジのような姿で、身体に取り付いて魔力を吸う。
普段は指ほどの大きさだが、巨大化するものもいて、大型犬ほどほサイズになってくると流石に襲われて獣も死んでしまうことがある。
ケイトはこの辺で粘体獣が巨大化するなんてあまり聞いたことがなかった。そこは少し気になるところだったが、どうせ森に行く途中ということもあり引き受けた。
ロットはというと、依頼という冒険チックな言葉にワクワクしていた。
こうして食事を終えた二人は森に目的が出来たため向かった。
「頼まれた依頼だし、気を引き締めていこうね!」
ロットは冒険者になった気分で浮かれている。
カンの頼みもあって、ケイトはロットと共に森の奥へと足を進めた。身投げの穴から少し北に位置するこの森は、断崖があるため魔法の実験にうってつけの場所があった。
ケイトは最初からそこで魔法を使うつもりだったが魔物を探して試し打ちの口実までできたため上機嫌となる。
「あ、そうそうロット。粘体獣っていうのは動きが遅いけど、色が薄いから見つけにくいわ。気をつけてね。」
「うん、わかったよ。」
妙に張り切るロットにケイトは悩む。経験上、わかったと言いつつも、痛い目をみなければなかなか真の意味では理解することが難しいことは知っていた。
なぜなら彼女もパーティー結成当初はダンジョンや依頼の仕事を甘く見て痛い目をみているからだ。
特にロットのように、たまたまでもダンジョンクリアに関わってしまい、しかも村から街に出ただけとはいえ特に問題なく旅ができてしまっているこういう時こそ危険とは隣り合わせだった。
現にロットの森での進みはケイトから見ると大雑把で見るべき場所を見ることが出来ていなかった。そこまでわかっていながらケイトの失敗は、自身を冒険の先輩として、後輩のミスやおごりをカバーしようとしてしまったことだった。
「この奥に断崖があって、そこがちょうど魔法を使うのにぴったりなんだよね?」
「そうよ。魔法の検証にはもってこいの場所よ。」
だからこそ余裕ぶるという無駄な気持ちが生まれ
「じゃあ、もう少し早く行こうよ。木の裏や草むらをくまなくチェックするのはわかるけど、さっさと目的地に向かおう。」
ロットのチェックが遅いという指摘に対して警戒を怠っているロットを責めるのではなく、自分がその分さらに気を付ければいいと考えてしまった。
「はいはい、わかったわ。進みましょう。」
そうした判断のミスは少しずつ大きな失敗へと歩を進めている。
「あっ!」
突然、ロットが叫んだので、ケイトは慌てて振り向いた。すると、木陰でイノシシが倒れているのが見えた。二人が慎重に近づくとすでに息はなく、しぼんだ風船のようにしおれていた。
「これって…」
「粘体獣の跡ね」
粘体獣は通常、そこまでの魔力を吸わないが、カンの話通り巨大化していることが見て取れた。それにしてもイノシシをこんな風にしてしまう、これは明らかに異常だった。
本来のケイトならこの場所にとどまらずすぐにその場を離れたが、魔力の検証をしたいことと、ロットの手前、撤退することでビビっていると思われたくないと無意識に考え迷ってしまっていた。
「ロット、粘体獣を見つけたら、まずは手を出さずに教えてね」
そう言ってイノシシから視線を外した時にはもう遅かった。判断は誤ったケイトは
「ケ、ケイト!」
焦るロットの声にようやく自分のミスに気が付く。
「しまった!」
ロットの声で不覚を取ったことを理解する。みると彼がねっとりとした何かと格闘しているのが見えた。イノシシの死体の近くにいた何かが、ロットに襲いかかっていたのだ。
「ロット、それは粘液獣よ!私が何とかするから、まずは捕まらないようにして!」
そしてそれは粘体獣ではなく、もう一つランクが上とされている粘液獣だった。当然粘液獣の方が何倍も厄介なモンスターであり、ケイトの知る限りこの森で出ることはまずありえなかった。
粘液獣とは言葉の通り、粘液上の生き物であり、流動的な姿を持っている。核を破壊することで消滅するが、まず普通の冒険者では不可能とも言われている。
しかし対処法がないわけではなく、遭遇こそしたことはなかったがいくつかの対抗策をケイトも持っている。
ロットが斬っても全く手ごたえがない相手にずるずる後退を余儀なくされている間に、ケイトは自身の少ない魔力で火の魔法を使おうとする。
対処としては正解で、獣は火を嫌うが、特に粘液獣や粘体獣は有効であった。ただ、粘液獣も生き物であるものの粘体獣よりも好戦的であることがケイトの誤算だ。
「ケイト、危ない!」
ロットの叫びが空しく、ケイトは上半身にたっぷりと粘液獣の粘液を浴びる羽目になってしまった。
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