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第一部 無駄な魔力と使い捨て魔法使い
「私の魔力かえしてぇぇぇええええ!!!」
しおりを挟む目が覚めた時、ロットは見知らぬ天井を見上げていた。
村でもなく、ダンジョンでもない、どこかの宿屋のような部屋。部屋にはベッドと簡素な棚、そして花が飾られた花瓶が置かれている。
どうやら誰もいないようだった。ダンジョンで三つ目の巨人を倒してから記憶がないロットにとって、ともに戦ったケイトは無事なのかがとても心配だった。
少し痛むもののとにかくベッドから降りると、着ていた旅衣装に着替えた。すると、部屋の扉がノックされ、開かれる。
ロットの視線も自然と扉に注がれ、入ってきたのは勇者だとわかった。傍にはソイルが少し離れて立っていて、不安そうな顔で兄を見つめていた。
そこでようやく自身が勇者に助けられ、町かどこかまで帰ってこられたことを自覚、少し安堵した。
「やぁ、お目覚めかな?」
勇者は軽い口調で笑顔を見せる。その表情からはロットを責める様子も見えなかったが、ロットは頭を下げた。
「……」
やはり勇者がそばにいるため、うまく話せないソイルはその様子を目を潤ませて見つめていた。
「あ、あの勇者様。ソイルと話がしたいので、少しいいですか?」
勇者は黙ってうなずき、部屋を去った。扉が完全に閉まると、ソイルは弾かれたようにロットの元へ駆け寄った。
「おにぃちゃぁぁあん!!」
ソイルの飛びつきを、ロットはしっかりと受け止めた。溢れる涙に、ロットは多くの迷惑と心配をかけたことを感じ取った。
「ごめんな、ソイル。心配かけて。それに勇者様と二人にさせてしまって、本当にゴメンな」
「うぅん、お兄ちゃんが無事で良かった。それに勇者様も、うまく話せない私を気にしないでいてくれたから」
ソイルの手がしっかりとロットにしがみつく。
数日間の慣れない環境での苦労が、彼女には辛かったことが伝わる。ロットは優しく頭を撫で、彼女の苦労を理解した。
ソイルはそのままウトウトとし始め、ロットのベッドで眠りについた。ちょうど見計らったかのように、勇者が再び入ってきた。
「勇者様、ソイルのこと本当にありがとうございました。昔から他人がいると緊張で声が出ないみたいで……」
「全然大丈夫だったよ。それよりもいうことは??」
「ごめんなさい」
勇者の言いつけを守らず、死んでもおかしくない身投げの穴に落ちたことを謝罪した。
ダンジョンの罠なのか、いったい何だったのかはわからないが自身を突き落とすことになった風は何だったのだろう。
そんな思いを抱きつつも言い訳にしかならないので心に留めておくにする。そして落ちた後の話を勇者し、手に付けた指輪を見せた。
「多分この指輪のおかげで切り抜けられたと思います」
「そうか、それは良かった。君にはぴったりだと思うよ。君たちがダンジョンのボスを倒した後、僕もちょうど駆けつけてね。そしたら君たち気を失っているから驚いたよ」
ロットがダンジョン内でケイトに聞いたところ、かなりの距離落ちていたらしいがその距離を正攻法で突破してきたとなるとどれほどのスピードで勇者はダンジョンを攻略したのだろうか。
ロットはそんな疑問も浮かんだが、それよりもケイトの安否が気になった。
「僕を助けてくださった時、もうひとりケイトという人がいませんでしたか? 同じような指輪をつけていたんですが」
きっと同じように助けられているだろう。もしかしたら冒険者の彼女は自分より早く目覚めて旅立ってしまっているかもしれない。そんな想像をしているロットに勇者の表情が曇る。
言いづらそうに答えた。
「実は、彼女は今寝込んでいるんだ」
そうなった理由を知るには少し前に遡る。
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